細い道①
蔵造りの街並みは、今日も観光客で溢れていた。
悠真は人込みを避けつつ、裏通りを歩いて目的地を目指している。いつもは、自転車で移動するのだが、あいにくパンクのため今日は歩きだ。
「あっ!サルブルーだ!」
「サルブルー!あれやって!」
道行く子どもが腕をクロスさせながら話しかけてくる。
悠真は町の人気者だ。
「くらえ、サルビーム」
悠真は腕をクロスして、投げやりにビームを撃つ。
すると、子どもは、キョトンした顔で首をかしげ、しばらくすると友達と笑いながら去って行った。
苦々しい顔をする悠真。
・・・あの一件以来、小学生の間でサルブルーごっこが流行っているらしい。
友達にビームを撃ってもらい、撃たれた方はキョトンとして首をかしげる遊びだ。
子どもというのは残酷である。
「・・・はぁ、いつまで続くんだよこれ」
欲に目がくらんだ悠真は、すっかり小学生たちに顔を覚えられてしまった。
相手をしてやらないといつまでも絡んでくる質の悪い集団である。
今日は、クラスメイトの野球の試合を応援しに行かなければならない。若干めんどくさいと思いながらも、人付き合いの良い悠真だった。
野球場は、観光地を抜けた先にある。
「・・・」
「うん?」
悠真は、誰かに呼ばれたような気がして、振り向く。
さつまいもチップスを手に楽しそうに笑うカップルがいるだけで、悠真を見ている人はいなかった。
(・・・気のせいか)悠真が再び前を向くと、
「悠真さん」と今度ははっきりと悠真を呼ぶ声がした。
辺りをキョロキョロと見渡すが知り合いはいない。
声は若い女性の声だったが、聞き覚えはなかった。
「悠真さん、私はあなたの頭に直接話かけています」
(!)
驚く悠真。そして、後ろも振り向かず猛然と走り出した。
「えっ!?あっ!ちょっと!!」
謎の声は、悠真に話しかけるが、悠真はガン無視を決め込む。
(もう勘弁してくれ!)
悠真は、最近色々なことに巻き込まれていて、正直うんざりしていた。
頭に直接話かける声なんて、ろくなもんじゃない。
悠真は、イヤホンをカバンから取り出すと、耳にはめて音楽プレイヤーを再生した。
「××、××!××××××!」
謎の声は何か言っているようだが、悠真には聞こえない。
ハードロックを聴いてテンションの上がった悠真は、野球場へとひた走るのであった。




