幕間)戦いの後
「いやぁ、大活躍だったのぅ!悠真!」
控え室で、サル爺は上機嫌だった。
顔を手で覆ったまま、イスから立ち上がれない悠真。
(最悪だ…!なぜ、おれは猿に……!)
悠真は、バイト代に釣られた過去の自分が憎かった。
「まぁ、そんなに落ち込むなよ。初めてにしては上出来じゃないか!?」
悠真を慰める藤木。
「そうだよ!僕は気に入ったよ、これ!」
と、田中はビームを撃つ仕草をする。
「田中さん…」悠真は顔を上げた。
「そうだ!そうだ!」北村は、カレーを食べながら言う。
「だから、な」
と、悠真の肩を叩くサル爺。
「ツーステージ目も頑張ろう!!」
4人の声が爽やかに響いた…!
***
「……で、その後どうなったの?」
ここは、喫茶「雪塚」。
カウンターの向こうから、千鶴がニヤニヤしながら聞いてくる。
悠真は、げんなりしながら答える。
「2回目は…黒幕が出てきた段階で、また客席がヒートアップしちゃって…」
「うわぁー、また?」
千鶴は、ちょっと引いている。
時事問題を取り入れたサルレンジャーショーは、意外にも大人のファンが多かった。
「一番騒いでたおじさんが、実はサルブルーの人で…」
「えっ!?」
「警察にも怒られてたみたいだから、もうサルレンジャーには戻れないかも…」
本当のサルブルーは、金物屋の伊藤さんと言うらしい。てか、サル爺以外、ほんとに全員金物屋だったんだな…
——だから、敵役が金属窃盗団だったのか!
悠真は真相に気づいた。そして思わぬ伏線の回収に、どうでもいいなーと思った。
「で、やったの?あれ?」
千鶴は、笑いながら腕をクロスする。
「……もう聞かないでくれ」
悠真は、カウンターに突っ伏した。
「私たちに言わないで、面白そうなことするからですよ?」
テーブル席に座る雪が、いたずらっぽい口調で言い、「ねー♪」と、千鶴とふたりで声を揃えて笑う。
「次は、先に言ってくださいね?」
「もうやらないよ!!!」
悠真の声が雪塚に響く。
バイト代は、ツーステ分で6万円だった。悠真には大金である。しかし、もう悠真は絶対にやらないと心に誓った。
「…そう言えば、お礼参りはいきましたか?」
雪がパフェから、生クリームを掬いながら言った。ちなみにこれは、悠真の奢りである。
「お礼参り?」
「そうです、弁天様のご利益があったんですよね?」
雪は、生クリームを口に入れると、んー♪と幸せそうな声を上げる。
「…行ってないな」
「あー、それは良くないですよ。ご利益があったんだからお礼しないと。さもないと…」
ガチャ!っと、入り口のドアが開いた。
「悠真くん、いるかい?次のステージの話なんだけど…」サルグリーンが現れた。
「また、お前に頼むときが来たようだな!」
サルピンクも現れた。
「もう食べられないよぉ…」
サルイエローもカレーを食べながら登場。
「やはり、二代目サルブルーは悠真じゃの!」
サルレッドは、ガハハと笑った!
「あっ!おれ、用事を思い出したんで!!」
悠真は、慌てて会計を済ませると、入り口に向かってダッシュした!
「あっ!待ってくれ、悠真く〜ん!!」
後ろも振り向かず、銭洗い弁天に向かって全力で走る悠真。
(もう猿は勘弁してくれ…!!)
蔵造りの街並みは、多くの観光客で賑わっていた。男たちが守った街は、今日も平和である。




