雪塚稲荷の夜③
外は寒かった。
雪がしんしんと降る夜の川越。悠真と千鶴は、白い着物の少女に連れられて雪塚稲荷へと向かっていた。2人は、少女に聞こえないように小声で話す。
「……なあ、やっぱり帰らないか?」
「何言ってんの?ここまで来たら見に行くしかないでしょ?」
「……いやでも、絶対おかしなことに巻き込まれてるって」
「悠真、もしかして怖いの?」
「そういう問題じゃなくてさぁ……」
そんな話をしながらも雪塚稲荷に辿り着いてしまった。暗がりに大きな鳥居がぼんやりと光る。
そう、神社全体が、ふわりと不思議な光に包まれていたのだ。
「……え、何これ?」
神社の境内には、青白い光がふわふわと揺れている。さらに、どこからともなく幻想的な音楽まで聞こえてくる。
「これ……もう、手遅れなんじゃ?」
悠真が震えながらつぶやく。
「そんな……!」
ふと振り返ると、白い着物の少女も驚いた表情を浮かべていた。
「もしかして、あなたも知らないの?」
「はい……これは、私の力ではありません」
「え、力って?どういうこと?」
「それは……」
少女は黙ってしまった。
悠真と千鶴は意を決して境内を調べることにした。しばらく辺りをウロウロしていると、悠真は社の影から妙なものを見つけた。
「これは……ラジカセ?」
そこには、小型のラジカセが置かれていた。ラジカセは再生ボタンが押されたままになっており、スピーカーからは、先ほどから聞こえていた幻想的な音楽が流れている。
「……ちょっと待って。じゃあ、この雰囲気、演出ってこと?」
千鶴が眉をひそめる。悠真は、恐る恐る目の前の青白い光に近付いた。よく見るとそれは、ただの懐中電灯で、ブルーのフィルムが貼られている。
「え?どういうこと?誰かが仕込んだの?」
「ほほほ……」
突然、背後から不気味な笑い声が響いた。
「うわぁぁああ!!」
悠真が叫んで振り向くと、そこには小柄な老人が立っていた。
着物姿の謎の老人。白髪頭に長いひげ。どことなく仙人みたいな雰囲気を醸し出しているが、手にはリモコンを持っている。
「……おじいさん、もしかしてこのラジカセとライト、あなたが?」
千鶴が恐る恐る聞くと、老人はニヤリと笑い、ピッとリモコンのボタンを押した。
音楽が止まり、ライトが消える。
境内が、急に現実に戻った。
「えーーー!!」
悠真と千鶴が思わず叫ぶ。
老人はポンポンと手を叩き、満足そうに頷いた。
「どうじゃ、驚いたか!?」




