お金がほしい!①
鎌倉の銭洗弁財天宇賀福神社には、「その霊水でお金を清めれば、商売は繁盛し、洗ったお金は倍になって戻ってくる」という銭洗い弁天がある。
川越駅から、蔵造りの街並みに向かう途中の熊野神社にも、同じく銭洗い弁天があり、商売繁盛を願う人々で、いつも賑わっている。
そして、ここにも一攫千金を願う若者が一人…
(増えろ…!増えろ…!)
悠真は、ザルに入れた小銭を念入りに洗っていた。
最近、喫茶「雪塚」に通ったり、千鶴と遊んだりで、気づけば財布が空っぽになっていた。
(……頼む! 増えてくれ!)
即効性はないと知りつつも、悠真は念じ続ける。
すると——
「おお? 悠真ではないか!」
「うわっ!? びっくりした!!」
突然、背後から声が響き、悠真はザルを持ったまま飛び跳ねた。
「なんじゃなんじゃ、そんなに驚くことか?」
そこにいたのは—— 喫茶店でよく会う老人だった。
「じいさん!? なんでここに!?」
「ちょうどいいところであった!のぅ、悠真、今から一緒にクラーリにきてくれ!」
クラーリは、お土産や、食事が楽しめる川越の観光拠点の一つだ。
「クラーリ?」
「そう! 今日は、そこで『サルレンジャーショー』のイベントがあるんじゃ!!」
サル爺は、バッと両手を広げてから、猿のポーズを決めた。
「は、はあ……」
「そこで悠真、 一つ頼みがあるんじゃが…… 」
「……嫌な予感しかしないんですけど」
「実はのぅ、今日の 『ヒーローショー』に出演予定だったブルーが急に来れなくなってしまってのぅ……」
「えええ……」
「そこで、お主に代役を頼みたいのじゃ!!」
「絶対に嫌です。」
悠真は即答した。
「なんでおれが猿のヒーローショーに出なきゃならないんですか!!」
「まぁまぁ、そう言うな。ちゃんとバイト代も出すぞ?」
「バイト代……?」
悠真は ピクッ と反応した。
「いくらですか?」
「 3万円じゃ!」
「やります。」
——悠真の財布事情は、それほど切実だった。




