底なしの穴③
そこには、誰もいなかった。
岩の下に挟まれていたはずの男が、消えていた。
「……え?」
悠真は、愕然とした。
確かに、さっきまでここにいたのに——
「……悠真、もう戻ろうよ」
千鶴の不安げな声。
「……ま、待ってくれ。確かにここに……」
——その時。
スッ——
スマホのライトが、突然消えた。
「え?」
「……ちょっと、悠真? なんでライト消したの?」
「いや、俺は何も——」
嫌な予感がした。
悠真は急いでスマホの電源ボタンを押すが、画面は真っ暗なまま。
「……バッテリー、切れてないよな?」
焦ってボタンを連打するが、まるで反応がない。
「私のも……ダメだ……」
千鶴のスマホも、同じように沈黙していた。
あたりは、真っ暗になり何も見えない。
(くそ……早く戻らないと……)
悠真は、足元を手探りで確認しながら進もうとした。
——しかし。
「……出口、どっちだ?」
暗闇に包まれた中で、自分がどの方向を向いているのか分からなくなっていた。
「え? こっちじゃないの?」
千鶴も、戸惑いながら周囲を見回している。
だが、暗すぎて何も分からない。
「おーい」
再び、穴の奥から声がした。
「……!」
悠真と千鶴は、同時に息を呑んだ。
「また、あの声……」
「どこから……?」
耳を澄ますと——
声のした方向から、微かに風が流れてきていた。
「風が……吹いてる?」
千鶴が呟く。
風の向かう先には、人ひとりが潜り抜けられるほどの穴があった。
その奥は、ほんのりと光っている。
「……行くしか、ないか」
悠真は、喉をゴクリと鳴らした。
千鶴も、不安そうにしながらも頷く。
2人は、慎重にその穴をくぐった。
***
中に入ると、そこはまるで古い坑道のような空間だった。
壁や天井は、無造作に削られた岩肌が剥き出しになっており、時折、木の支柱が腐食しながらも立っている。
「何これ……昔の鉱山跡?」
千鶴が、震えた声で言う。
「いや……」
悠真は、坑道の奥に目を凝らした。
そこには、古びた社があった。
その前には、一本だけロウソクが灯され、淡い光を放っている。
「……誰かが管理してるのか?」
悠真は、恐る恐る社へと近づいた。
(でも、こんな場所に……?)
千鶴も、不安げに辺りを見回している。
「悠真……帰ろう? ここ、変だよ」
「……そうだな」
悠真も、この場所にはいたくないと思った。
とにかく、出口を探そう。
悠真が先頭に立って進むが、通路は、ところどころ崩れており、思うように進めない。
「どうしよう、このままじゃ」
千鶴の声が、唐突に途切れた。
「千鶴?」
悠真が振り返ると——
千鶴が、その場に崩れるように倒れていた。
「おい!?」
駆け寄ろうとした、その瞬間——
誰かの手が、悠真の肩を掴んだ。
「——!!」
悠真が振り向こうとしたとき、何か科学薬品のような刺激臭のするものを口と鼻に押し当てられる。
悠真が最後に見た顔はまるで




