氷川神社の結び玉⑤
「仕方ないですねぇ…」
雪は、悠真が脱ぎ捨てたシャツを拾い上げると、その下に転がっていた縁結び玉を見つけ、ハンカチに包むと——
勢いよく振り回した。
すると——
「……ハッ!!」
悠真と藤木の目が覚めたように、同時に正気を取り戻した。
「なぜ、君は上半身裸なんだ!!?」
藤木が驚愕の声を上げる。
「藤木さんこそ、なんで俺の腰に手を回してるんですか!!?」
悠真も負けじと叫びながら、自分の腰に回された藤木の腕を見て戦慄した。
2人は、バッ!!と勢いよく飛び退く。
「え、何? 何が起きてたの?」
千鶴は、頬を赤らめながらも興味津々で2人を見つめる。
「ち、違う! これは何かの間違いだ!!」
藤木は大慌てでネクタイを締め直し、乱れたシャツを整えながら叫ぶ。
「間違いならいいけど、藤木さん、今すっごい楽しそうな顔してましたよ?」
雪がニコニコしながら言うと、藤木は「バカな!」とさらに動揺した。
悠真はというと——
「俺、なんか負けた気がする……」
悠真は膝をついて、静かに肩を落とした。
「ま、まあまあ! とりあえず、縁結び玉はこれで処分するから!」
その様子を横目に、雪はハンカチに包んだ縁結び玉を懐にしまった。
藤木は、ゴホンと咳払いをして、気まずそうにそそくさと出口へ向かう。
「そ、それじゃあ私はこれで!! また今度!!!」
バタン!!
藤木は店のドアを勢いよく閉め、逃げるように去っていった。
夕方の日差しが、店内を穏やかに照らす。遠くから、かすかに小学校のチャイムの音が聞こえた。
悠真は、しばらく放心状態だったが、やがてポツリと呟く。
「……俺のシャツ、返してくれません?」
雪は、にこやかにシャツを抱えたまま、首を横に振った。
「嫌。」
「なんで!?」




