氷川神社の結び玉③
「雪ちゃん、いつからそこにいたの?」
悠真は聞いていなかったが、どうやらこの少女の名前は雪というらしい。
千鶴は赤くなった頬を隠すように手を当てながら言う。悠真も何となく気恥ずかしくなって、手元のカップを持ち上げたが空だった。
「さっきからいましたよ」
雪は何食わぬ顔で立ち上がった。
「それより、その石は渡したりしないほうがいいですよ」
「なんで?」
「その子、いろんな人にたらい回しにされて、相当ひねくれちゃってますから」
「……は?」
「石が?」
悠真と千鶴は、思わず顔を見合わせた。
千鶴がくれたものだから、悠真としてはできれば大事にしたい。
第一、これでも開運グッズにはうるさい男だ。たとえひねくれていようが、縁結び玉という肩書きを持つ石を簡単に手放すつもりはない。
「いや、もらうよ。気にしないし」
悠真はポケットに石をしまおうとする。
「あーあ、忠告はしましたからね」
雪は肩をすくめて、まるでこれから何かが起こるのを知っているかのように、呆れた表情を浮かべた。
——そのときだった。
ガラガラッ
喫茶「雪塚」の入り口が開き、藤木が姿を現した。
「やあ、千鶴ちゃん。こないだの話の続きをしに来たよ」
颯爽と現れた藤木は、ニヤリと笑った。




