氷川神社の結び玉②
「ねえ、悠真。これ欲しかったらあげようか?」
千鶴の言葉に、悠真は思わず顔を上げた。
「えっ?」
「だって、私は特に必要ないし。せっかくの縁結び玉だし、悠真が持ってたら、いい出会いあるかもよ?」
冗談めかした口調だったが、千鶴は少しだけ照れたように笑った。
悠真は、一瞬言葉に詰まる。
(ま、まじか……実はちょっと欲しかったんだよな……!)
悠真は興味がないふりをしていたが、実は、開運グッズには目がない。
こういう縁起物は、なんとなく持っておきたいと思ってしまう質なのだ。
「んー、まあ……せっかくだし、もらっとこうかな?」
「ふふっ、遠慮しなくてもいいのに」
千鶴が石をそっと持ち上げ、悠真の方へ差し出す。
悠真も手を伸ばす。
その瞬間——指先が、ほんの一瞬だけ触れた。
「……っ」
悠真は、思わず息をのんだ。
指先から伝わる、ほんのわずかな温もり。
千鶴も、一瞬きょとんとした顔をしたが、ちょっと顔を赤らめた…ように悠真には見えた。
……店内は静かだった。
まだ明るい日差しが、窓をキラキラと光らせている。
温かいホットミルクの湯気が、カウンターの上でゆるやかに揺れる。
悠真は、千鶴の目をまっすぐに見た。
千鶴も、ほんの少しだけ、悠真の目を見つめ返す。
——静かに、時間が流れていく。
そして——
「やめたほうがいいですよ」
「!?!?」
突然の声に、悠真と千鶴は肩をビクッとさせた。
慌てて足元を見ると——そこには、しゃがんで座る白い着物の少女がいた。
「い、いたのか!?!?」
「え、いたの!?!?」
慌てて、いつもの定位置に戻る2人だった。




