悪役令嬢にロジハラしたら大変な事になった
皆様、今年一年、大変お世話になりました。
仕事の関係でちょっと精神的に参ってしまい、投稿が途切れ途切れになってしまいました。
そんな私ですがひとまず生存報告と、不定期投稿でも読んでくださっている皆様へのお礼を兼ねて、思いつき短編です。
年末年始のお忙しい中ですが、息抜きに読んでいただければ幸いです。
「平民風情が貴族と同じ机で学ぼうだなんて……。恥を知りなさい」
「うぅ……」
マリアント公爵家のアネット様が、クラスの皆様の前で平民のシヴィルさんを責め立てています……。
シヴィルさんがアネット様よりも良い成績を取った、それだけの事で……。
でも私にできる事など何もありません……。
アネット様は公爵家令嬢……。
私の家は子爵……。
口答えをしたらどんな事になるか、想像するだけで身震いがいたします……。
「さぁ。早く荷物をまとめてこの学園から立ち去りなさい」
「そ、それは……!」
「口答えをなさるおつもりかしら? 私の言う事に逆らうという事が、どういう意味を持つのかご存知ないようですわね?」
「う……」
!
アネット様の、いやアネットの言葉と、それに打ちひしがれるシヴィルの姿に、唐突にこれまで思い出した事のない記憶が蘇った。
こことは違う学校で、いじめられていた友達と、何もできなかった自分……。
他人のものとしか思えない、姿も生活も全く違う記憶……。
でも彼女が学校を去った後で押し寄せた、身を焼かれるような後悔だけは、どうしても他人事と切り捨てられない……!
「マリアント様」
「何かしらローザ。貴女もこの平民に何か言いたいのであれば許可するわ」
「いえ、申し上げたいのはマリアント様にでございます」
私の言葉に周りの生徒達がざわめき、アネットの形の良い眉が吊り上がる。
「……聞き間違いかしら? 私に意見をしたいと言ったように聞こえましたけれど?」
「はい、そのように申し上げました」
「身の程を知りなさい。我が家は王家に次ぐ身分を持つマリアント公爵家なのですわよ? それに意見など、不敬にも程がありますわ」
「何故貴族は尊いのでしょうか?」
「は?」
アネットは一瞬惚けたような顔をした後、にやりと口角を上げた。
「そんな事も知りませんの? 国に多大な貢献をもたらし、国王陛下から爵位を与えられた存在、それが貴族ですわ。故に私達貴族は尊いのです」
アネットの言葉に、周りの貴族の子達も頷く。
でも私が問いたいのはそこではない。
「ではマリアント様はどのような貢献をなさったのですか?」
「わ、私……? わ、私はいずれ貴族としての責務を果たすため、今この学園で学んでいるのですわ!」
「そのために責められるべき事を何もしていないシヴィルさんを、学園から追い出す事が必要なのですか?」
「う……」
アネットが言葉に詰まった。
私はその隙を逃さず畳み掛ける。
「父祖の築いた功績と信頼の上に、私達の立場はあります。例えば我がハラーシ家は、曽祖父が南部の開拓に功績ありと認められ、爵位に任じられました」
「そ、それが何ですの!?」
「しかし曽祖父が一人で開拓したのではありません。今マリアント様が平民と蔑む方々と力を合わせて、荒地を田畑や町へと変えたと聞きます」
「う……」
「平民と共に国に尽くすのが貴族のあり方であるならば、マリアント様のなさっている事が、貴族としての責務を果たす事にどう寄与されているですか?」
「っ……!」
怒りか恥か、顔を真っ赤にするアネット。
「な、何を生意気な……! し、子爵家の方が公爵家令嬢である私に対して無礼な……!」
対して私はどこか冷静になっていた。
さっきまでの、口を開く事さえ恐れていた自分が滑稽にさえ思える。
「力ある者を取り立てて、領内のため、ひいては我が国のために生かすのが貴族の役目ではないのですか?」
「こ、この平民が私より優れていると仰るの……!?」
「今回の試験の成績ではそうでしょう」
「貴女……!」
「ですが」
激昂しかけるアネットに、私は貴族として最大限の敬意を表す礼の姿勢を取った。
「マリアント様の誇るべき力は学業に限りません。多くの方と縁を結び、その方の力を引き出し、国のために尽くす意義を示す事です」
「……え……」
「シヴィルさんは今回の試験で優秀さを示しました。しかしより多くの人と繋がるマリアント様のお力なくしては、その力を十分に活かせないのです」
「……」
「この学園で貴族としての責務を学ぶと仰るのであれば、どうかシヴィルを学園から追い出すのではなく、学園のために活かす事をお考えください」
「……」
俯くアネット。
小刻みに震える肩が表すのは、怒りか、それとも……。
!?
まるで憑き物が落ちたように、先程までの激しい思いは胸の中から消え去りました……。
!
わ、私は何という事を……!
「あ、あの、も、申し訳」
「ありがとうローザ!」
「ふぇ!?」
顔を上げたアネット様は目を潤ませ、それでも笑顔で私に話しかけてくださいました。
お、怒っていらっしゃらない……?
「ローザの、いえ、ローザさんの仰る通りですわ! 私は貴族のあるべき姿を勘違いしていました!」
「え、あの……」
「シヴィルさん! 申し訳ありません! 試験の成績で抜かれてしまった焦りから、酷い事を申し上げてしまいました! 全面的に撤回いたします!」
「え、あ、はい……」
「今後はどうぞ同じクラスの仲間として切磋琢磨させてくださいませんか?」
「も、勿論です……」
私とシヴィルさんが目を白黒させる中、周りの方々から拍手が巻き起こりました。
一体何がどうなって……?
「ハラーシ嬢」
「り、リューイ殿下!?」
だ、第一王位継承権を持つリューイ殿下が、私に声をかけてくださるなんて……!
「貴女のお言葉は今後貴族の、いえ、全ての国民が目指すべき指標となるでしょう」
「そ、そんな、とんでもない事で……!」
「できれば私が国政を担うその時に、側にいてほしいな」
「えっ!?」
それはどういう意味で……!?
そ、側近という意味ででしょうか……?
何とありがたいお言葉……!
「……精一杯、務めさせていただきます……!」
「……まさか即答で受け入れてくれるなんて……! 必ず幸せにするよ」
「は、はい!」
何だかよくわかりませんが、マリアント様も、シヴィルさんも、リューイ殿下も、周りの皆様も笑顔なので、きっとこれで良かったのだと思います。
……それにしても、あの時の激しい後悔は何故私の中に沸き起こったのでしょう……?
「はっ!?」
目を開けたら天井には蛍光灯。
え、今のは夢……?
「だ、大丈夫……? 綸李ちゃん……?」
!?
な、何で佳純ちゃんが……!?
高校の時にいじめられていたのを知っていたのに何もできなくて、学校を辞めてしまった佳純ちゃん……。
その後悔から大学で法学部に行って、弁護士資格を取って、いじめられている子を法的に守るべく駆けずり回って……。
……あれ?
五徹か六徹かした後、事務所で意識が飛んで、貴族が通う学校でローザって女の子になった夢を見て……。
で、成績優秀なシヴィルって女の子を追い出そうとしたアネットって貴族を論破して……。
……でも今目の前には、高校の時の姿のままの佳純ちゃんがいる……!
「きょ、教室で急に倒れて、せ、先生は熱もないし呼吸も落ち着いてるから、だ、大丈夫って言ったけと、わ、私心配で……」
「佳純ちゃん……!」
夢だか何だかわからないけど、私は今佳純ちゃんを救えるところにいる……!
ならする事は一つ!
私は起き上がって佳純ちゃんの手を握る!
「佳純ちゃん!」
「な、なぁに綸李ちゃん……?」
「私、絶対佳純ちゃんの味方でいるから! 何があっても佳純ちゃんを守るから!」
「え、え……?」
「任せて! 夢の中で培った法律知識、これであいつらコテンパンにしてやるんだから!」
「え、あ、あの、う、嬉しいけど、む、無理しないでね?」
「うん! 二人で笑って卒業しようね!」
神様ありがとう!
今度こそ私は後悔しない自分として生きるんだ!
読了ありがとうございます。
異世界ちょっと転生(タイムリープを含む)。
単にテンプレ悪役令嬢にロジハラ的わからせをしたかっただけなのに、どうしてこうなるのか、これがわからない。
まぁ誰も不幸にならないから、いいんじゃあないか……。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。