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9話 女の子視点での話 ⑤

【夏のホラー2024用に作った連載文章です】

【この物語はフィクションです】

【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】

【女の子視点での物語です】

 ここは、日本。○○県の、××市というところ。

 今は、202X年の7月。そしてここは――。



 ――泣いてはいけない。

 私はつらくない。つらいのは大人達。

 私はまだ、子供だから。誰のおかげで生活できているの?誰のおかげで学校に行けてるの?誰がごはんを作ってくれてるの?誰が家のお金や光熱費を払っているの?そのお金は誰が稼いだの?どうやって稼いだの?

 私はまだ子供で、人のお金で生活して、人のお金に育ててもらっているのだから。早く大人になりたい。それが無理なら早く働けるようになりたい。だから学校なんて中学まででいいじゃん、すぐに仕事できるのなら・・・については、昨日お爺ちゃん達に怒られたので、これについてはもう言わないようにするけど。

 ――言ってはいけない。

 お母さんに、もう働かなくてもいいから、って。

 仕事なんて、他にもある。世の中には、看護師以外の仕事がいっぱいある。それにお父さんからは慰謝料や養育費を貰っているんだから、そこまで稼がなくてもいいんじゃないかな?だから、そんなに頑張らなくても・・・。

 口が裂けても、そんなことは言ってはいけない。昔から、お母さんがどういう仕事をしているのかについては、患者さんのプライバシーに関わることだからと言って、教えてくれなかったけど。それでも、お母さんは子供のころから看護師に憧れて、それで専門の高校に通った、という話は知っているから。

 ――止めてはいけない。

 我が手に託される、人々の幸のために、身を捧げん。

 お爺ちゃん達に私を預ける際に、お母さんはそう言ったの。

 私には言ってることが難しくて理解できなかったけど、リモート越しで見るお母さんに、迷いは無かった。だからお母さんを止めてはいけない。だけど、どうしても無理だったらいつでも帰ってきてね。お母さんは悪くは無いんだよ?

 ・・・誰のせいにも、してはいけない。

 これは、病気のせい。誰も、悪くは無いんだ。


 私が泣く要素は1ミリも無い。

 私には、お爺ちゃんとお婆ちゃんがすぐそばに居る。お父さんともいつでも会える。寂しくなんかない。私は1人じゃないんだから。

 感染対策の一環で、外出はおろか学校に通うのも制限されているけど。それでも、マスクを付けて、手を消毒して、どうしても必要な外出は手短に済ませて、あとは家にいるだけ。うん、別につらくも何とも無い。

 今時はスマホやパソコンで、漫画やアニメがいくらでも見れるからね。ゲームもできるし、この手の支払いもネットで・・・お爺ちゃん、今時はスマホでそういうことができるんだよ?お爺ちゃん達がウチに来て、真っ先にやったのはスマホの手続きだった。細かいことはお父さんに手伝ってもらった。

 その一方で、パソコンの扱いはお爺ちゃんに教えてもらった。仕事の取引で必要だったとかで、お爺ちゃん達はパソコンは使えるの。ただ私にとってのパソコンは、アニメを見る時に大画面で見れるから便利、って扱いだけどね。

 なんだ、ステイホームだなんて余裕じゃん。お婆ちゃんが遊んでばかりではダメだと言って、学校で用意された宿題以上のことをやらされたけど。それでも私は1人じゃないから全然平気。こんなのつらくも何とも無い。

 だから、ずっと。お母さんと電話をする時には。

 私は大丈夫、心配しないで、と。ずっと言い続けだ。だって私は大丈夫だもん。私は何もつらくないもん。だって、本当に、つらい人達が、いるから、

「本当だったら、お前を今すぐにブチ殺したい。だけど、それだけはできない。怪我人――患者を増やしたら、お母さん達の仕事が増えるからね」

 ずっと我慢してた。私は泣いてはいけないの。

 お母さんの前でも。お爺ちゃん達の前でも。心配を掛けてはいけない。こんな生活はもう嫌、なんて。こんなの、もう、耐えられない、って。

 ・・・だけど、もう。抑えられない。何もかも、が。


 お昼過ぎ。アイツん家の、アイツの部屋。多少散らかってるけどそれは気にしない。もうそんなことなんて、考えられないくらいに、

「――う、あ、ああ、ああっ、あああっ・・・」

 止まらない。今まで、我慢してたものが、溢れて。

「嫌だ、もうこんなの嫌だ、こんな世界なんて嫌だ、世界的感染症だなんて、嫌だよ、みんな苦しんでる、伝染うつっていても、いなくても、みんな」

 それでもアイツを――ナオキを、見続ける。同い年のクラスメイト。お前を絶対に許さない。昨日言ったアレだけは、何があろうとも許しはしない。

「誰のせいなの?きっかけは動物由来だとか、自然にできたとか、どこぞの研究所から漏れただとか、そもそも世界的感染症自体がデマだとか」

 それに、許せないのはナオキだけじゃない。何も、かもが。

「これはワクチンを売り出すためにヤっただとか、マスクを売りつけるために大げさに言っているだけだとか。テレビの偉そうなコメンテーターの意見から、素人のよく分かんない陰謀論まで、色々好き放題に言ってるけど」

 こんなに苦しんでいる人が、大勢いるのに。実際に病気で苦しんでいる人、その治療をする人、感染拡大の影響で生活に支障が出た人、他にも。

 そんな、人達がいる中で。どこをどう考えても、おふざけで言っている奴、面白半分で言っている奴。それに素人意見で、偉そうなことを言ってる奴らが、あまりにも多すぎる。テレビでも、SNSでも、フザけた意見が、あまりにも。

「殺意が、抑えられないの。どいつもこいつもふざけるな。お前だって許さない。右腕に噛みついただけじゃ足りない。ズタズタにしたい。だけど、ダメ。お前はどうなってもいいけど、医療機関に迷惑が掛かることだけは、ダメ」

 ・・・それでも、我慢するの。私はつらくも、

「ふざけんな。謝れよ」

 ――何よ、その、眼は。


「お前の都合なんて知らねーよ」

 アイツは、じっと睨んでくる。

「世界的感染症は、誰のせいでも無い。だけどこの怪我はどう考えてもお前のせいだよなぁ?噛みついておいて、人のせいにしてんじゃねーよ」

 ・・・何よ、その言い草は。

「お前が謝らないうちは、オレは絶対に謝らねーからな。やっぱりお前、おかしいよ。人に噛みつくだなんて。お前、化け物か何かか?」

 ・・・何を、言ってやがる。

 みんなして、寄ってたかって、両手が塞がっていたから。あの時の私は、口しか使えなかったから、ああしただけよ。ナオキに詰め寄って、ブン殴るつもりだったけど、みんなが、それだけはダメだって言って、私の腕を。

 みんなして、邪魔するから。それでも、私、は――。

「うおおぅ!?ちょ、やめろって!」

 もう、抑えられない。

「うあああああああああああああああああああああああ!」

 立ち上がって、一気に距離を詰めて。握り締めた右手を、振り抜く。だけど防がれてしまった。右の手首を、掴まれて、動かせられない。

「う、うう、うううっ、うあああああ!」

 ならば左手で・・・と思ったけど、こっちも手首を掴まれた。

「うわぁ、お前やっぱり化け物かよ。何言ってるのか分かんねーよ」

 そして押し倒される私。両手を押さえ付けられ、アイツはのしかかるように私を体全体で押し付けてくる。身動きが、取れない。しかもマスクが外れてしまった。昨日もそうだったけど、これ大人用だから、私には大きく、て・・・。

「ふん、オレの勝ちだな。これに懲りたギャアアアアア!?痛ってぇぇぇ!お、おい!やめろって!噛みつくのはやめ痛たたたたた!」

 よかった。子供用マスクが買えない代わりに、大人用のものを使ってて。どこもかしこも品薄だったり値段が何倍にも・・・って話はどうでもいいや。

 おかげで、コレができる。今度は何があろうとも離さないからね?



 シャツの首元からはみ出た、アイツの首筋。

 別にここは狙って噛みついたわけでは無い。この体勢で、口が届く場所がここしかなかったから、私の全力を込めて、こうしてやっている。

 私が、化け物か。確かに、まるでこれだと吸血鬼みたいだよ。首元にガブってするアレ。まあ何でもいいや。私のことは好きに呼べばいいよ。

 ・・・やっぱり、血は美味しくない。だけど絶対に、離しは――。

あの頃にマスクを転売してた連中は、どういう神経であんなことをヤってたんだろ・・・?

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