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8話 男の子視点での話 ④

【夏のホラー2024用に作った連載文章です】

【この物語はフィクションです】

【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】

【男の子視点での物語です】

 ここは、日本。○○県の、××市というところ。

 今は、202X年の7月。そしてここは、オレの家。



 コイツの爺ちゃんに、なんて言えばいいのかが分からなかった。

 コイツの爺ちゃんが言う、他にやるべきこと、の意味は分かる。ウチの爺ちゃんが昨日言っていたことだ。ウチの爺ちゃんがやろうとしたことだ。

 長年やり続けた仕事を、手放す。ウチの爺ちゃんは、オレの将来を心配していた。オレの将来を優先するために、そういう決断をしようとしていた。

 そしてコイツの爺ちゃんは、もう既に。そういう決断を、した。

 ・・・今日、父ちゃんは朝から出掛けていた。この店を続けるための作戦がある、と言っていた。父ちゃんにとって、この店は何よりの宝だ。本当だったら店じまいなんてしたくない、まだまだこの店を続けたいという爺ちゃんの気持ちは、父ちゃんが一番分かっている。だから最後まで、諦められないんだ。

 オレ達の気持ちなんて、誰にも分かるもんか。分かってくれるのは、ウチの近辺で飲食店をやっていたライバル達だけだ。リモートワークとやらの影響で、ウチの近辺をよく利用していたサラリーマン達はすっかり来なくなってしまった。不要不急の外出を控えろってみんなが言うせいで、客足が途絶えてしまった。

 みんな辛い、ってのは分かっている。それでも、誰かのせいにしないとやってられない。本当に悪いやつ――世界的感染症に文句を言ったところで、どうにもならないんだから。アレは人間じゃないから、話が通用しない。それでいて、ウジャウジャと増えて、みんなに伝染うつって・・・もはやアレは化け物だよ。

 まあ、とりあえずアレの話はやめにしよう。オレは医者でもナースでも無いからな。素人がとやかく言ったところで何になるんだよ。ハイ、到着だ。

「・・・まあ、入れよ。ゆっくり話そうぜ?」

 今オレが優先するべきなのは、これだ。お客様1名入りまーす。


 今は昼の3時過ぎ。母ちゃんが用意してくれた、冷えた500mlペットボトル2つと、チョコ菓子の詰め合わせを持って。思えばオレ、こうやって女の子を自分の部屋に連れてくるのって初めてだよ。ていうか今、同い年の女の子と2人きりだよ。うわわわ冷静に考えると色々ヤベーよ。マジでオレ何やってんだよ。

 ま、まあいいや。冷静になろう。オレの部屋は特別おかしなことにはなっていないはずだ。ベッドに、勉強机に、漫画に他にも色々・・・って待て待て、そこそこ散らかってんじゃねーか。お、おい、悪いけど少し待ってて、

「気にしない。今さらそんなことしたって印象は変わんないよ?」

 お、おう。分かった、ええと・・・こんなところでいい、か?子供2人がそれなりに距離を置いて座れるくらいのスペースは作れた。い、いや、感染対策抜きにしても、女の子と密着するのもアレだから、これくらいは距離感を保った方がいいだろ?別にこれはソーシャルディスタンスってやつじゃないからな?

 それと、ええと・・・ゴメン、オレの部屋には座布団なんてものはねーんだ。クッションならあるけど、これはオレが普段から使ってるやつだから、コイツに使わせるのは・・・い、いや、これも別に感染どうこうの話じゃないぞ?とりあえず床に直座りしよう。あと今は7月で暑いんで、クーラーはちゃんとつけている。

「さて。何か言い残すことがあるのなら聞いてあげるよ?」

 目の前に座った女の子は、指をポキポキ鳴らしてやがる。オレもそうだけど、口にはマスクを付けている。いや待て、別にケンカをするつもりは、

「私はそのつもりだけど?昨日のことは、絶対に許さない。あとで何人か、謝りの電話やメッセージは来たけど。全員、許さない。絶対に」

 ・・・どうしよう、返す言葉が無い。


 言い訳するつもりは無いけれど。

 オレ達のような子供は、どうしても集団でいじめをしたくなる時がある。大人はいじめは良くない、いじめはカッコ悪いと言うけれど、だったらお前らは今まで一度も、学校内で、いじめを見聞きしたことは無いのかよ。

 いつかは忘れたけど、これを父ちゃんや母ちゃんに言って。2人は、何も答えてくれなかった。その時も、オレはみんなでクラスの奴を悪く言っちまって・・・ただ、この時の主犯はオレじゃなかったので、オレはそこまで怒られることは無かったんだけど。オレ達の年代なら、こういうことはしょっちゅうあるぜ?

 だから、昨日も・・・昨日は、オレが主犯格。コイツがトイレに行っている間に、他の男子達と話をして。みんなも、それなりにストレスが溜まっていたんだと思う。長く続く自粛ムード、何もかもが中止、中止、中止。

 みんな、イライラしていたんだと思う。それで誰かを悪者にしたくなって、今回はコイツを――サヤを、ターゲットにした。誰が言い出したかまでは覚えていないけど、サヤの母ちゃんが看護師をやっているのはみんなが知っていたから。サヤ自身が、何度もそう話していたから、知っていたんだ。

 だって、世界的感染症が広まる前までは。あの病院で働いている、ってことも。サヤ自身が自慢げに、何度も話していたからな。今さらだけど、サヤってどんだけ母ちゃんのことが好きなんだよ、だけど母親と2人暮らしだから仕方ないか、何年か前に苗字も母親のものに変わった・・・って話はやめておこう。

 ――何はともあれ。それで、サヤに不満をぶつけることにしたんだ。あれは誰が言い出したのか。感染が未だに収まらないのは、病院の人達がサボっているからだ。病院で働く人達は、病気と戦うのが仕事だろ?なのに何で、未だに感染は収まらなくて、大人から子供まで、不便な生活を送るように・・・。


「お母さんが仕事してない、って。何?」

 サヤは、オレをじっと見ている。

「お前の母ちゃんは看護師だろ。だったら何で未だに感染が広まってるんだよ。もしかしてお前の母ちゃん仕事してないのか?休んでるのか?もしかして、お前の母ちゃんにも伝染って、それで・・・あれ?ということは、お前も」

 オレが、昨日言ったことを。一字一句、そのままに。

「それもそうだよな。そんなところで働いているんだから、お前の母ちゃんにも伝染っているはずだ。だからお前にも伝染っているはずだ、こっち来んな・・・って。昨日も言ったけど、お母さんはずっとウチには帰ってきてないよ?」

 サヤはポケットから何かを・・・ん?これは、家の鍵か?

「お母さんがウチを出てってから。この鍵が、ウチに2本。それとお父さんのアパートにも1本、郵便で送られてきたの。これは今、お母さんが住んでいるお家の鍵。万が一に備えてだとか、って。別れたお父さんにも、これを送ったの」

 サヤは未だにオレを・・・ずっと、睨んでいる。

「お前に。お母さんの言う、万が一、の意味が。分かる?」

「・・・もし、伝染ったら。最悪の場合は」

「それもあるけど。お母さんは、最前線で戦っている。お母さんが具体的に、どういう仕事をしているかまでは知らない。それでも、ずっと戦い続けている。メッセージを送っても、1日以上既読がつかない日もある。もしお母さんが死ぬとしたら、病死じゃなくて過労死が原因になる、と。私は、覚悟している」

「おい、やめろよ。親が死ぬだとか、冗談でも」

「そういう覚悟を。私も、お爺ちゃん達も、している」

 ・・・また、何も言えなくなった。



 何も言えない。

「本当だったら、お前を今すぐにブチ殺したい。だけど、それだけはできない。怪我人――患者を増やしたら、お母さん達の仕事が増えるからね」

 だから、せめて。コイツからは、眼を背けないようにする。怖くて、恐ろしくて、グチャグチャに泣いて、とても見ていられないけど、それでも。

 ・・・コイツに、向き合う。コイツの背負っている、覚悟に。

本来ならば去年の秋ごろに、母ちゃんの話とコレを成人枠で同時連載する予定だったんだけど、そもそもどうして私はこの内容で成人向け文章を書こうとしてたの・・・?

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