7話 女の子視点での話 ④
【夏のホラー2024用に作った連載文章です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【女の子視点での物語です】
ここは、日本。○○県の、××市というところ。
今は、202X年の7月。そしてここは、お爺ちゃんの車。
たぶん普通の自動車の中に。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん。改めてだけど、ごめんなさい」
私は後部座席。前にいる2人に。
「いいのよ。話は早いうちに解決した方がいいからね」
今はお昼の2時過ぎ。平日だけど学校は休み。最近ではリモート学習が流行っているらしいけど、全部が全部リモートでやれるわけでは無い。
それなりに設備を整えればできるらしいけど、その設備は誰が整えるの?そのお金はどうやって確保するの?クラスの生徒全員に、学校の生徒全員に、パソコンやスマホで専用アプリを使って、ネット環境も整えて・・・ウチの学校は、設備が間に合わなかった。現実的に、そこまですることはできないそうだ。
なので、多めにプリントを貰ったり、配られたり、あるいはこの日までにこれだけの宿題をやってくれ、って感じになった。一言で言えば自主学習だね。そして昨日は溜まりに溜まった宿題を提出して、ついでにみんなでお昼・・・は、お弁当。給食センターも長期の休みに入ってるみたい。
だって。ほとんどの学校が、そんな感じなんだから。給食を食べる子が居ないんだから、作る必要も無い。昨日ウチの学校は登校日だったけど、他は別の日にしていたり、そもそもリモートの設備を整えた等々で、学校によって登校日も様々。となれば、各家庭でお昼ご飯を持参した方が都合がいいよね。
――はい、到着。この時間は休憩時間なのは知っている。お昼営業と夕方からの営業の間。飲食店にはよくあることだね。敷地内の駐車場に車を停めて、3人で車を降りる。お婆ちゃんは手土産を持参して・・・ええと、店側と家側、どっちに行けばいいのかな?とりあえず店側でいいや。閉店中、って書いてるけど。
「・・・おう。中に入れよ」
ふん。右腕にまだ包帯を巻いてやがる。その腕、そんなに痛むのかな?
昨日の夜、アイツに電話をして。しばらくして家の電話に、アイツのお母さんから電話が掛かってきた。応対したのはお婆ちゃん。ゴメンゴメン、何時に行くかを伝えてなかったよ。だけどそれ以外では絶対に謝らないからね。
「・・・さて。話は、嫁と孫から聞きましたが」
店内の奥にある座敷に、テーブルを挟んで座布団に正座。こちらは私とお爺ちゃんとお婆ちゃん。相手はアイツとお爺ちゃんとお母さん。ちょうど3対3だね。相手のお母さんが冷たいお茶を用意して、私達の眼の前に置いてくれた。
「ええと、子供の喧嘩と聞いていま――オイ」
おっと、相手のお爺ちゃんが眉をひそめたぞ。ならば私も真似しちゃおうっと。別に大したことはしていない。出されたお茶を飲んだだけだよ?
「あ、あなた。いきなりそれは失礼よ・・・」
しかしお爺ちゃんは止まらず、勢いに任せて一気飲み。なるほど、つまりはこれはケンカを売ってるってことなんだね?だから私も一気飲みしちゃうね。だって今は7月のお昼過ぎなんだから暑いもん。どうも、ごちそうさまでした。
「ま、まあいい。子供同士の喧嘩で、こちらも大した怪我でない以上は・・・ってナオキ、そこまで怪我は深いのか?さっきから痛そうにしているが」
「えっ!?・・・え、えっと、その」
ふふん、アイツは昨日と同じように痛そうな素振りをしていたけど、自分のお爺ちゃんに指摘されて戸惑ってやがる。そりゃあ痛くは無いに決まってるよ。血は出たかもしれないけど、女の子に噛みつかれた程度の傷が、
「そりゃあそうでしょ。子供の喧嘩とはいえ、いきなり噛み付くだなんて。まったく、どういう教育してるのよ。母親の顔が見てみたいわ。まあでも、親が親だから仕方な――あのねぇあなた達。謝罪に来ている身分で、勝手にお茶を飲むのは失礼よ。年寄りなのに、そんなマナーも分からないのかしら?」
おっと、お婆ちゃんもお茶を一気飲みしちゃったよ。昨日は冷静だったけど、さすがにお母さんの・・・お婆ちゃんにとっては娘の悪口を言われたら、ね。
いちおう、場は静か。お婆ちゃんとアイツのお母さんは睨み合っている。こっちのお爺ちゃんは静観中ってやつかな?相手のお爺ちゃんは状況がイマイチ分からないようだ。そしてアイツは右往左往中。混乱してるね。
「私としても、穏便に済ませたかったのですが。この子の母を、あの子を悪く言うのだけは、許せません。病院勤務の看護師の、何が悪いのです?」
「あんな病原菌まみれな場所で働いてるからよ。昨日も言ったけど、こうして直接会うのも嫌だった。お互いにマスクを付けて、パーテーションで仕切っているけど。あぁあ、嫌だわ。私も伝染っちゃうのかしらねぇ。コップも紙コップにしておいてよかったわ。アンタ達が口に付けたコップなんて触りたくも」
「オイ、やめろ。いくらなんでも失礼だろうが・・・」
相手のお爺ちゃんが、おばさんの台詞を遮った、けど、
「アンタ達には、私達の苦労が分からないでしょ?不要不急の外出はするな、感染対策に務めるべきだと、言われ続けた結果がコレよ。今日のお昼だって、数える程度しかお客さんは来なかった。ひいきにしてくれてた会社が全面リモートワークになったせいで、常連さんがほとんど来なくなって・・・」
「ええ。飲食店など、接客業全般が大変である、という気持ちは分かります。だからと言って病院や、そこで働く人達を悪く言うのは」
「そういう人達が、外出を控えろって言ったせいでこうなってんのよ!一昨日も、昨日も、あの病院の医院長が偉そうに、今は特に感染が拡大しているから外出を控えろって言ってんのよ!?それに気持ちが分かるって何よ!アンタに何が」
「分かるよ。飲食店とは長い付き合いだったからな」
・・・今度は、こっちのお爺ちゃんが口を開いた。
「サヤ。ここから先は、お母さんには内緒にしてくれるか?」
・・・頷く。お爺ちゃんが、怖いから。
「ワシらは少し前まで、婆さんと農家をしていた。ワシらの地元は自然しか無い地域でな、その分それなりに良い作物が作れていた、のだが」
だけど。これは昨日感じた怖さとは、また違う。
「買い取ってくれるところが、ずいぶん減っちまったんだよ。飲食店に給食センターに道の駅に・・・本当に、どうしていいのかが、分からなかった」
怒っている相手が、違う。この怒りは、アイツらには向けていない。
「だから、リタイアした。農家に定年なんてものは無いし、感染が落ち着くまで耐えようかとも思ったが・・・他に、やるべきことができたのでな」
やるべき、こと。・・・私の、ことだ。
「ワシには、病気と戦う力は無い。だからせめて、娘の夢を手助けすることにしたのだ。それがあの子に対しての・・・女が学業なんてやって何になる、高校だなんてくだらない等と言ったことへの、せめてもの・・・すまん、つまらん話をしてしまったな。お茶のおかわりを貰えるか?」
おばさんは何も言わず、ピッチャー容器に入ったお茶を持って来てくれた。あとはセルフでやれってことだね。まぁ別にいいけど。
「・・・あのー、ちょっと、いい、かな?」
誰も何も言えない、固まった空気の中で。アイツが、手を上げた。
「今回のことは、オレ達がケンカしたのが原因だから。その、2人だけで話したのでも、いい?大人同士と、子供同士で・・・って、言うのかな?」
ふぅん?私は別にいいよ、お爺ちゃん達がオッケーならね。
事情は人それぞれ。
だから、それについては私はどうこう言うつもりは無い。私にとって、何より最優先するべきなのは、やっぱりお母さんだからね。
「・・・まあ、入れよ。ゆっくり話そうぜ?」
オッケー。何か言い残すことがあるのなら聞いてあげるよ?
ジャンルで言えばパンデミックホラーのつもりで書いているけど、なろう系のパンデミックはSF扱いだし、だけどこれの元々の由来は経験談によるノンフィクションだから・・・と、つまらない言い訳は控えたほうがいい・・・?