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5話 女の子視点での話 ③

【夏のホラー2024用に作った連載文章です】

【この物語はフィクションです】

【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】

【女の子視点での物語です】

 ここは、日本。○○県の、××市というところ。

 今は、202X年の7月。そしてここは、私の家。



「それでは・・・娘を、お願いします」

 夜。玄関から出て行くお父さんを、お見送り。

「ふん、お前に言われるまでも無い。一昨日来やがれ」

 お爺ちゃんは不機嫌そうではあるけれど。一昨日来やがれっていうのは、もうここには来るな、と言う意味なのは知ってはいるけど。

「もう、あなたったら・・・はいコレ、晩ご飯の残りよ」

 わざわざ、お見送りしてあげてる時点で・・・ね。お爺ちゃんからすれば、信じて送り出した娘が結婚したものの、その相手が不貞行為をヤらかした、って扱いだから。そりゃあ未だに許せないに決まっているよね。それでも、

「あっ、ハイ。ありがとうございます。・・・すみません、本当だったら自分が、サヤの面倒を見るべきなのに。お2人には、なんとお礼を言えば」

「いいのよ。定年後の余生としてはちょうどいいわ。あなたはまだ若いのだから、お仕事を頑張りなさい。それがサヤと、あの子のためになるのだからね。ちなみに慰謝料の分割払いは、あと何年掛かるのかしら?それと家のローンと」

「ゴフッ。お、お義母さん、上げて落とすのはやめてください・・・」

「ふん。自業自得だ、ざまぁみろ」

 お父さんはともかく、2人は冗談交じりで話している、というのは分かるの。もう少し時間が経てば、あるいは私が上手く立ち回れば、復縁できるかな?

 もしそうなったら、私と、お爺ちゃんと、お婆ちゃんと、お父さんと・・・うん、この家なら5人でも十分暮らせるはず。いずれはそうなればいいなぁ。

 ――スマホが鳴る。私のスマホだ。相手は・・・、

『もしもし。ごめん、今ようやく落ち着いて・・・サヤ?』

 いわゆる、ハンズフリーモードにする。これならみんなにも聞こえるからね。お父さん、家を出るのはちょっと待ってよ。せっかくだから、ね?


 ビデオ通話は不要。音声だけでいい。

「お母さん。お仕事、お疲れ様。今日も大変だったんでしょ?」

『え、ええ。・・・サヤ、学校から連絡があったけど、何があったの?その時間は、どうしても・・・いえ、言い訳はしてはいけないわね』

「いいよ。また急患が来たとか、手術の手伝いだったんでしょ?」

『え、ええ。・・・学校で、何かあったの?』

 ・・・下手に隠し事をしたら怒られるからなぁ。浮気した時のお父さんのように。それに、私は悪くは無い。私の何が悪いのかが分からないよ。

「昨日のニュースで、お母さんが働いてる病院が話題になってね。それで、やっぱりウワサは本当だったんだ、あの病院が感染者の受け入れ先で、県内でも特に感染者の数が多いんだ、って。それでクラスのみんなに、色々言われたの」

 お母さんを馬鹿にしやがったから、ヤり返しただけなのに。

「お母さんはずっと前からウチを出て、1人で暮らして、私やお爺ちゃん達に一切近づかないようにしているのに。それでもみんな、信じてくれなくて」

 そんなところで働いているんだから、お前の母ちゃんにも伝染うつっているはずだ。だからお前にも伝染っているはずだ、こっち来んな、って言われたから。

『・・・ごめんなさい。私のせいで、クラスの子から悪口を言われてしまって。だけど、私は引き下がれないの。ナースである以上は、どうしても』

「分かってる。お母さんは悪くないもん。それにね、お爺ちゃんがガツンと怒ってくれたから、あとは大丈夫。もう解決したからね」

『――えっ、お爺ちゃんが・・・父さんが、怒ってくれた、の?』

 お母さんは、とても驚いているようだ。そんなに驚くことなのかな?


 私は少し前までは。この家で、お母さんと2人暮らしだった。

 お母さんの許可のもと、お父さんとは面会日とは別に時おり顔を合わせて。遠くの県に住んでいたお爺ちゃん家に行くのは年に1回か2回か、だったかな?あとは普通に生活をしていた。・・・アレが、やって来るまでは。

 ――世界的感染症。語るにもおぞましい、アレ。

 お母さんの仕事は、看護師さん。看護高校を出た20歳の頃から、私を生むための産休・育休期間を除き、看護師としてずっと働いて・・・ええと、お母さんの年齢からして、ナース歴は15年以上、ってところかな?

 だから、看護師であるお母さんが病気と戦うのは、ごくごく普通の話。当初の私は、ここまで大事になるとは思わなかった。残業が増えたり、夜勤をするようになったりと、お母さんがとても忙しそうだなぁ、とは思っていたけど。

 私はまだ子供だけど。もう1人でお留守番くらいはできるようになったし、簡単な料理や、洗濯や掃除くらいはできるようにもなっていたから。

 できるだけ家事を手伝って、お母さんの負担を減らして。お母さんが仕事を頑張れるようにしなきゃ・・・そう、思っていた、けど、

『ごめんなさい。サヤにまで、迷惑を掛けてしまって』

 ――そういう次元じゃなかった。

 感染を防ぐために、医療従事者は県外に出てはならない。そして、県外から来た者とは接触してはならない。伝染っているか、ワクチンを接種しているかどうかは関係ない。もし違反した場合は、一定の期間が経つまで勤務を中止するべし。

 また、もし同居家族が県外に出たのなら。もし知らず知らずに濃厚接触者となり、伝染って、また伝染ってという事態になったら・・・だから同居家族にも、それ相応の制限を設けなければならない。もし違反した場合は勤務を中止し――。

 ・・・これらに関しては、病院や地域によって決まりが変わってくるらしいけど。お母さんの働く病院は、こういう決まりになったの。ここまでしないとダメなの。世界的感染症は、それほどまでの強敵なのだから。


『あっ、いけない、そろそろ・・・ごめん、これ以上は』

「謝らなくていいって。お仕事、頑張ってね?」

 もう、夜なのに。お昼に学校から呼び出しを受けた時にも、忙しくて仕事を抜けられなかったのに。なんで、お母さんが謝らないといけないの?

『・・・うん。行ってくる』

 電話は切れた。みんなを見回す。・・・気持ちはみんな、同じ。

 私が今、お爺ちゃんとお婆ちゃんと一緒に暮らしているのは。お母さんが仕事に専念するために・・・いや、私から距離を置くために。

 わざわざ、1人暮らしをするために。お母さんがこのウチにいると、私にも移動の制限が、やれることが限られてしまうから、と言って。

 たとえ実の家族であっても、県外から来た人間とは、直接話ができないから。リモート越しに、お爺ちゃんとお婆ちゃんに頭を下げて、助けを求めたの。

 本当だったら、お父さんに預けられる予定だったけど・・・お父さんも、忙しいからね。お母さんが1人暮らしを始めたことで増えた家賃も、お父さんが一部を負担してくれているの。そこまでのことをして、お母さんは頑張っているの。

 だって、人手が足りないから。医療従事者として、未知のウイルスと戦う覚悟はできたとしても、家族に負担を強いる覚悟までは背負えないから。私のように、子供が学校で、あるいは家族が職場で、意地悪なことを言われるから。

 多くの人が、辞めたらしい。お母さんの同僚の人達も、自分の家族を守るために。自分のせいで、家族が意地悪をされることに耐えられなくて。

 ・・・だから私は、教室で暴れてやったの。みんな、許さない。未だに殺意が抑えられない。私の何が悪いの?お母さんの、何が悪いの?

 お母さんは、長年やってきた仕事を、今まで通りにやっているだけなのに。

 何が、おかしいの?何がダメなの?ねぇ、誰か教えてよ。



 力が欲しい。

 アイツらをギャフンと言わせる力が欲しい。

 そして、世界的感染症をやっつけるための力が欲しい。

 ・・・だけど、現実にそんな力なんて無いからね。だからせめて、私にできることをする。お母さんの負担にならないように、私、は――。

世界的感染症が猛威を振るっていた時期に、同居家族が医療関係者だからという理由で、実際に職場や学校や近所周辺から悪口を言われた経験がある同志っていらっしゃる・・・?

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