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3話 女の子視点での話 ②

【夏のホラー2024用に作った連載文章です】

【この物語はフィクションです】

【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】

【女の子視点での物語です】

 ここは、日本。○○県の、××市というところ。

 今は、202X年の7月。そしてここは、お爺ちゃんの車。



 たぶん普通の自動車の中に。

「お爺ちゃん、お婆ちゃん。ごめんなさい」

 私は後部座席。前にいる2人に、今さらだけど。

「いいのよ。子供はこれぐらいヤンチャな方がいいわ」

 助手席のお婆ちゃんはそう言うけど、ミラー越しに見える表情は穏やかではない。それもそうだよね。さっきは相手や先生達がいたから、表向きは穏やかにはしていたけれど・・・その本心は言わずもがな、ってところだね。

「残念ね。せっかく学校に行けたと思ったのに」

「いいよ。もう、行きたくない。だってみんなして酷いんだよ?」

「・・・サヤちゃん、それだけは言ってはダメよ?お婆ちゃんは中学までしか行ったことが無いから、今の若い子達が羨ましいのよ」

「ええぇ、だけど昔と今は違うからなぁ。私からしたら、学校なんて中学まででいいじゃん。高校とか大学とか、そこまで勉強しなきゃダメなのかな、って感じなんだけど?勉強しなくて済むのなら、私はその方が」

「やめろ。それだけは、言ってはいけない」

 ・・・よく分かんないけど、お爺ちゃんが怒ってるので黙っておく。

「あら、あなたも変わったわねぇ。20年くらい前までは、そう言ってたくせに。特に、女が学業なんてやって何になる、そんなことをするくらいなら」

「やめてくれ、あの時のアレはもう無かったことにしてくれ」

「忘れませんよぉ・・・?あの時のことは墓まで持っていきますからねぇ?フフフ、あの時は私達も喧嘩して、危うく離婚寸前にまで」

「やめろ、やめてくれ、やめてください反省していますハイ」

 うん。やっぱりお婆ちゃんのほうが強いなぁ。


 お家。家族3人なら余裕で暮らせる一戸建て。2階もあるよ?

 そんなお家の駐車場に車を停め・・・ん?あらら、別の車が停まってるよ。ウチの駐車場は車が2台同時に停められるようになっているし、この車には見覚えがあり過ぎるから、私は別にいいんだけどね。むしろ歓迎する。

 だから、待ちきれないので。私は真っ先に車を降りる。

「――サヤ」

 玄関先。スーツ姿。今の時間帯と雰囲気からして、仕事を途中で抜けた感じ。年は40よりかは前。あー、やっぱりこっちにも連絡行ってたか。

「お父さん、お帰りなさい」

 実の父親なんだから、私は喜んで近づく。

「えっ、お帰り、でいいのかな・・・まあ、ただいま?」

「うん。だってここ、お父さんの家なんだもん」

 お父さんは戸惑っている。いったい何を迷っているのやら。

「あ、あのな、学校から連絡が来て、ようやく会社を抜け出せると思ったら、もう話は済んだ、って聞いて・・・それで、ここまで、ヒイッ!?」

 お父さんは怯えている。いったい何を・・・ああ、なるほど。

「お、お久しぶりですお義父さん、娘がお世話にギャアアアア!?」

「おぉ、久しぶりだなぁ。いったいどのツラ下げて、ワシらに会いに来たんだアアッ!?面会日はまだ先だろうがァ!テメェどうせまたどこぞの女と」

「待ってくださいあの女とはもう別れました慰謝料も養育費も欠かさず支払ってヒイイイィごめんなさい許してくださいいいっ!あとせめて説教はウチの中で痛あああっ!?痛いですっ!マジやめて頭砕けちゃいますからああああっ!」

 何が起きてるかって?言いたくも無いね。ねぇお婆ちゃん、近所迷惑になるからウチに入れてあげてよ。お爺ちゃんも、それでいいよね?


 和室風の客間にて。4人でローテーブルもとい座卓を囲む。

 子供の私でも知っている。お父さんが座っている場所は下座。私はお父さんの隣に座ってあげるね。真向かいにはお爺ちゃんとお婆ちゃん。

「さて。ウチに来た件については、状況が状況なので水に流してやろう。それにお前がどういう女と付き合おうが、もう既に赤の他人である以上は」

「だだだ大丈夫です、もうそういうことはヤってないです・・・と言うより、その。娘の前で、そういう話をするのは・・・サヤはまだ」

「大丈夫だよ?お父さんが全面的に悪いってことは、もう理解してるの。あの時はまだ分からなかったから、お母さんにボコボコにされて可哀想だなぁ、って思ってたけど。家庭持ちの女性と不倫して、ついでに相手の子供に怪我を」

「やめてくれ。あの時のお父さんはどうかしてたんだ・・・」

 お父さんはガチで凹んでいる。だけど私としては、お父さんは反省しているし、もう何年も前の話だからなぁ・・・って気分。だってこの家のローンはお父さんが支払っているのに、お父さんはボロアパートで1人暮らしだもん。

「え、ええと、それで。サヤが学校で何をしたかについて」

「子供同士の喧嘩だ。大人がどうこう言う必要は無い」

 ・・・お父さん。いくらお爺ちゃんが怖いからって、一言でKOしないでよ。いちおう巻き込んでしまった以上は、あとでちゃんと話すつもりだけどね。たとえ離婚しちゃったとしても、私にとってはお父さんだから。

 ていうか面会日の設定も、もうだいぶ前から適当になってるもん。お母さんの言葉を借りるのなら、会いたければ好きにすればいい、だって。本当だったら親権はお母さんにあるから、お父さんと私が気軽に会うのは法律上アウトなんだけど、専門家を交えて面会日を再設定するのも面倒だとか何とかで。

「それで、お前はいつまでウチにいるんだ?用は済んだだろ?」

 ただ、ラスボスもといお爺ちゃんがウチに居る以上はね・・・。


「す、すみません。晩ご飯を頂いてしまって」

「いいのよ。どうせ作り過ぎちゃうし」

 ふううぅ、どうにか説得してやったぜ。お爺ちゃんはまだ不機嫌だけど、お婆ちゃんと2人掛かりでどうにか言いくるめた。ちょうどそういう時間だし、

「ああ、そうだお義母さん。この前の煮物、美味しかったです」

「あら嫌だわ、私にご機嫌取りしたって無駄よ?」

 お婆ちゃんは一度に大量の料理を作ってしまう癖があるので、それで冷凍したものをお父さんとかに・・・ウチに来た当初は、近所に配ろうと言い出したこともあったなぁ。お婆ちゃん、ここはお婆ちゃん家のような田舎とは違うんだよ?

 この××市は、いわゆる地方都市ってところだけど。それでもお婆ちゃん家――正確に言えばお爺ちゃん家かな?2人が住んでたところに比べれば遥かに発展してる方だと思う。口が裂けても、お爺ちゃん家がド田舎過ぎるだなんて言わないよ?自然しか無・・・自然がいっぱいあって綺麗な村だなぁとは思うけどさ。

「今日はビーフストロガノフにしてみたの。あまり洋食は自信が無いけど、テレビでやっていたのが美味しそうだったから・・・」

 いやいや、テレビで見ただけなのにほぼ完コピできてる時点で色々とおかしい。私もこんな料理は初めて見るけど、見た目と匂いを嗅いだだけで、たぶんコレ本物通りなんだろうなぁって確信できる。主婦歴半世紀越えは伊達じゃないね。

 見た感じは、皿に盛られたごはんに茶色いソースが・・・ハヤシライスの親戚みたいなものかな?うん、やっぱり美味しい。さすがはお婆ちゃんだ。

 テーブルを、4人で――元々はそれぐらいの人数で食べるだろうと想定して買われた、もう何年も使い古しているテーブルを囲んで。もうちょっと詰めたら、あと1人は座れるとは思う。だからいずれはもう1人・・・ハァ。



『続いてのニュースです。今日、○○県内では――』

 テレビのニュース。毎日のことだけど、溜息しか出ない。

 つい点けっぱなしで晩ご飯にしちゃったけど、誰もテレビを消そうとしない。もしここでテレビを消したら、この話題を気にしてる、ってことになるから。お爺ちゃんも、お婆ちゃんも、お父さんも。そして私も、無視している。

 ・・・勝手に言ってろ。知らんそんなの。私は、私達は――。

ビーフストロガノフとハッシュドビーフとハヤシライスの違いって何・・・?

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