最終話 女の子視点での話 ⑥
【夏のホラー2024用に作った連載文章です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【女の子視点での物語です】
ここは、日本。○○県の、××市というところ。
今は、202X年の7月。そしてここは、アイツの家。
洗面所の鏡を見る。うわぁ、血がべっとりだよ。口周りが真っ赤っか。それに口の中もネチャネチャする。アイツには化け物と言われたけど、こうして改めて見てみれば否定できない。ふはははは、我は吸血鬼なるぞ・・・なんちゃって。
私はまだ子供だけど、現実とファンタジーの違いぐらいは理解できる。現実と、漫画やアニメやゲームなどといった作り話は違う。現実には吸血鬼なんていない。私の知る限りであれば、吸血鬼は文字通り、血を吸う化け物だ。
鬼と付いてはいるけど、日本の鬼とはまるで違う。ただ鬼って英語ではデーモンって言うから、そういう意味では・・・いやいや、私は何を考えているのやら。これもステイホームのし過ぎでアニメや漫画ばかり見てたせいなのかな?
私が知ってる吸血鬼って、どうもイケメンが多いんだよね。これはたぶん私が見ていたものが女の子向け、あるいは大人の女性向けだからかもしれないけど。吸血鬼って色々といるんだなぁ・・・しかも面倒くさいルールが多いの何ので。勝手に人の家には入れないとか、水の上を渡れないだとか。
あと、吸血鬼に噛まれた人は、もれなく吸血鬼の仲間入りになることが多い。噛まれたことで吸血鬼になって、その人からまるで吸血鬼になって・・・ふん、まるでこれだと感染症だよ。人から人に伝染るだなんて。
・・・世界的感染症と、吸血鬼の力だったら、どっちが強いのかな?これまた私の知ってる吸血鬼の話になるけど、だいたいは超人的な力を持っていて、力が強いだけでなく魔法も使えるチート能力満載ってイメージがある。数多くある弱点も、強い吸血鬼ならば全く通用しないというチートぶり。何でもアリだね。
うん、となれば吸血鬼のほうが強い。アレなんかよりも、ずっと。もちろん現実にはそんなモノなんていないのは分かっているけど、それでも、私は――。
顔を綺麗にし終えて。アイツの部屋に戻る。ノックは不要。
「おう、お帰り。まぁこれでも食えよ」
アイツは床に座って、チョコ菓子の詰め合わせを食ってやがる。心なしか、最初に来た時よりは部屋が綺麗になっている気がする。我ながら暴れ回って、床にもアイツの血が垂れていたするけど、その辺りも綺麗になっているね。
・・・まあ、出されたものは食べるけど。ついでに500mlのペットボトルも貰っておくね。しばらく置きっぱにしてたせいで、表面に水滴がびっしりついちゃってるので、アイツから貰ったハンカチで拭いて・・・っと。
「まあ、ゆっくりしてろよ。オレはもうケンカするつもりは無いし」
ふん。本当だったらお前の部屋になんか居たくないけど、お爺ちゃん達はお話の最中だから勝手に帰るわけにはいかないし、かといって人様のお家をウロウロするわけにはいかないから、今の私はここに居るしかない。招かれた部屋にしか入れない・・・これまた吸血鬼みたいな気がするというか、しないというか。
「・・・ねぇ。ちょっと、いいかな?」
ただ、このままここで過ごすのも退屈なので。ヤるだけ、ヤるか。
「ん?何だよ、今度、は――え、ええと、ナニを、なさる、気で?」
なによ。私はただ単に、お前を見ているだけだけど?何を今さら驚いているのやら。あと一応ながらマスクは付け直している。やっぱりコレ私には大きいなぁ。ねぇねぇ、使いたい物があるんだけど。お前ん家にも、あるでしょ?
「えっ?あ、ああ、あるとは、思うけど」
「だったら持って来てよ。ヤってあげるから」
・・・いや、そんなヘンなものを見るような眼はやめてくれる?
うん、ちゃんと揃ってるね。じゃあ、動かないでね?
「痛たあああああい!?ちょ、ちょっと待てえええっ!」
大したことはしていない。できるだけ染みるように・・・失礼、念入りに消毒してあげているつもり。アイツが持ってきた家庭用救急箱の中身を開いて、消毒液を浸したガーゼをオラオラってな。ちゃんと手当してあげてるよ?
「ちょ、おま!?本当に大丈夫なんだろうなぁ!?」
「大丈夫。お母さんに、こういうのは教わっているの」
・・・嘘、だけどね。ウチにも救急箱はあるけど、今よりもっと小さい頃に、遊びで救急箱の中身をメチャクチャにしたり、ついでに聴診器をオモチャにしたせいで、お母さんがメチャクチャ切れて・・・ひいいっ。
ううっ、マジ切れした時のお母さんって本当に怖いからなぁ。特にこの手のものを粗末に扱った時にはガチ説教をされたよ。だけどウチにこういうものがいっぱいあるんだから、ついついオモチャ代わりにするのは仕方ないじゃん。
・・・もうちょっとアレな騒ぎを起こしたら、お母さん帰ってきてくれるかな?私を怒ってくれるかな?お母さんに会えるのなら、怒られるくらい何ともない。いやでも、やっぱりお母さんの仕事を邪魔するのはダメだから、うーん、
「お、おい、やめ、巻き過、苦し、グエッ」
あ、ゴメン。消毒をして、傷口に別のガーゼを当てて、半透明のテープで止めて。あとは念のため、包帯でグルグル巻きにしてみたんだけど、
「お、おい、やめ、ング、ングググ・・・!」
気が付いたら私は、首に巻いていた包帯を上に上に持って行って、アイツの顔にも包帯を巻き付けていた。まるでこれだとミイラ男だよ。・・・ふふん、いいこと思い付いた。腕にも包帯を巻いてるんだから、ちょうどいいよね?
ハイ完了。それでは、お大事にー。
「ふざけんな。ヤっていいことと悪いことがあるだろ?」
「ん?だったらまた噛みついた方が良かった?」
「あのなぁ・・・お前マジで化け物かなんかかよ」
「ふはははは、知らなかったのか。我は吸血鬼なるぞ。そしてお前は我に噛みつかれたのだから、お前は今から我の仲間なのだぞ、わはははは」
「・・・お前、何言ってんの?」
うん。私でも何言ってるのかよく分かんない。いくら私が子供だからって、こんな幼稚なおままごとみたいなこと・・・って気持ちも、あるけれど、
「それに、私が化け物だって言うのなら、お前はミイラ男だね。本当だったら吸血鬼に噛まれたら吸血鬼になるんだけど、同じ化け物だから別にいいか」
「オイ。これやっぱり、おふざけでやってるだろ?」
だって包帯の巻き方なんて知らないもん。首元から巻いて、口と眼だけはちゃんと開くようにグルグル巻きにしてやったぜ。やっぱりコレ、お母さんに知られたら怒られちゃうかな・・・怪我人でも無い人に包帯を巻き付けるだなんて。子供ならともかく、大人が遊び目的で包帯を使ったりはしないからね。
「ハァ。マジで病気になったら許さないからな。世界的感染症を抜きにしても、こうやって直に噛みつかれたら、何らかの病気になっちまうって」
「大丈夫。吸血鬼の感染力は、世界的感染症よりも強いんだから」
「・・・それ、どこ情報だよ」
どこって、言われても。今、私が決めたんだけど?
吸血鬼の感染力は、世界的感染症よりも強い。だから世界的感染症にも勝てる、お前なんかには負けはしない。いつかお前にも、噛みついてやるんだから。
・・・こんなこと言ったら、子供っぽいかもしれないけど。
それでも、信じている。いつかはきっと、元通りの日々が――。
噛んで伝染るのが吸血鬼なら。
もし、私に。そういう力があるのなら。
・・・分かっている。現実に、そんなものはいない。そんな化け物なんていない。ていうか実際に居たら人類終わっちゃうよ。別の意味で。
それでも、そういう力が欲しい。子供なんだから、それくらい夢見たっていいでしょ?ある日突然、不思議な力に目覚めて、日本を、世界を、みんなを苦しめる元凶をやっつける。そういうものを夢見たって、いいでしょ?
「おーい。そろそろコレ、解いてくれねーか」
「ふん。何が不満なのよ、ミイラ男」
「いやオレ違うから。ナオキだから。ミイラ男じゃないから。あのさぁ、こういうことがしたいのならハロウィンでやれよ。今は7月だぞ?」
「ふーん。お前にしては面白い意見だね。だったらハロウィンの時にやってみる?2人で仮装して・・・いや、ダメか。どうせ今年も中止になると思うし」
私の住む町には、以前まではそういうイベントがあった。
本来だったら今の時期にも夏の花火大会があって、しばらくすればハロウィンイベントがあって、そこからまたしばらくすれば秋祭り、そしてクリスマスに正月の餅つきにバレンタインチョコイベント・・・冷静に考えると日本って節操無いなぁ。もう少し宗教や元の由来に配慮したほうがいいと思うよ?
「おまたせ。話は終わったから・・・ねぇ、これ何なの?」
ノックもせずに、アイツのお母さんがやってくる。何って言われても、一緒に遊んでただけだよ?こんな奴なんて大嫌いだし、許せないけど。
「ありがとう。ちょっとは、スッキリしたよ」
「・・・おう。それでオレは、いつまでこうしてればいいんだ?」
いいじゃん。夏のホラーっぽくって。ミイラ姿、似合っているよ?
――それでは、お邪魔しました。また、今度ね?
テーマの趣旨をガン無視している気がするし、終わり方もやや中途半端かもしれませんが。
母親も含め、この先は全年齢枠では書ききれない内容になると思うので、今回はこれにて終わらせます。
最後まで読んでくださった方には感謝しかないです。
なお、普段の私はノクターンで18禁文章を書いている者なので
18歳未満の方は作者ページを訪れないように、ご注意ください。