異世界でマヨネーズを作ったら『タナカソース』の名前で広まってしまった……
やぁ、俺は田中。
訳あって異世界に召喚された元日本人だよ。
相棒の魔術師と共に順風満帆な生活を送っている俺なんだけど、実は近頃ある事に頭を悩ませているんだ。
それは——
「サラダにはタナカソースだよなぁ!」
「だな!」
「おい、もうタナカ切れてるぞ」
「あら、買いに行かなきゃねぇ」
「お前何にでもタナカかけるじゃん……」
「いいだろ美味いんだから」
「蒸した芋潰してタナカ混ぜたら美味いぞ」
「マジか、今度やってみようかな」
タナカが……タナカ……タナカソース……タナカ……タナカ……
「タナカじゃなくてマヨネーズだって言ってんだろうが!」
「もう修正無理でしょ、諦めな」
「ア"ァ!!」
「うるさ……」
マヨネーズが間違った名前で広まってしまった事である。しかも、よりにもよって俺の苗字。
いつか冒険者としてこの世界に名を轟かせてやろうとか考えた時期もあったが、まさかこんなことで名前が知れ渡るなんて思ってもみなかった。
「最初に作ったときからマヨネーズって言い続けてきたんだけどなぁ」
「その最初に食べたのがギルドのアホ共だったからね。仕事以外での情報伝達能力なんてお察しだよ」
「異世界モノの主人公のマネして衆人環境で試作なんてするんじゃなかった……」
「だからやめとこうって言ったのに」
「だってサラダが寂しかったんだもん!」
「駄々こねるのやめて」
「はい」
元々は自分で食べる用のやつを作ろうとしただけだったのに「絶対売れるって! むしろ買いたいから売れ!」という脅迫もといファンの声に応えて販売することとなった。
まぁ結果的には大流行して小金持ちになれたから、そこについては文句ないけども。
「ダサいだろ田中ソースって」
「えー、タナカって良い響きだと思うんだけど」
「外国人との価値観の違いにギャップ感じるやつじゃん……」
そういえば海外だとカッコいい苗字扱いなんだっけな田中。まぁここ異世界だけど。
「そういえば最近、仕事の依頼主がタナカの名前聞くたびに怪訝そうな顔してるよね。絶対タナカソースのせいじゃん、ウケる」
「アレそういうことかよ! もしかして俺、マヨネーズを自称する男みたいに思われてる?」
「俺の名はタナカ・ソース……フッ」
「笑ってんじゃねぇよ! マヨネーズ口にぶち込んだろか!」
「……最低」
「下ネタじゃねぇよバーーーーカ!!」
話は変わるが、異世界にはカ○ピスもケ○ィアも無い。ヨーグルトはあるけど、日本でよく食べるようなドロッとしたものじゃなくてもっと固形に近いものとして認知されている。
つまり、うん。不本意ながら、タナカソースことマヨネーズは、この世界における白濁系の下ネタを一手に背負っているんだ。
ラノベではこんなこと無かったじゃん!!!!
「俺のタナカは一味違うぜ、とか言う気でしょ?」
「それお前がナンパされた時言われてたやつじゃねぇか殺すぞ!!」
出先のギルドで素材買い取り中に急に爆笑し始めたと思ったらコレだったからマジ切れしちゃったんだよな。
ちなみにそのナンパ男、後でやらかして魔術師にタナカ工場を半壊させられていた。お労しや……。
「すマんヨネーズ」
「お前だけだよマヨネーズって言ってくれるの」
「あ、許された感じ?」
「タナカソースって呼び方やめさせる方法考えてくれたらな」
「うーん……マヨネーズの他にもいろんなレシピ考案すればいいんじゃない? タナカの料理美味しいし」
「……詳しく聞かせてもらおう」
「今のタナカはマヨネーズだけの人だから、ソースに名前がつけられてるんだよ」
「マヨネーズだけの人……」
「変なとこで落ち込むな。……だからマヨネーズ以外の料理とか、それこそ新しいソースとか作っちゃえば、『タナカソース』って呼び方は自然消滅するんじゃない?」
「天才か!!」
……これが『料理人勇者』として後世まで語り継がれるタナカの第一歩だと知る者は、この数年後に彼の妻となる魔術師ただ一人だけである。
尚、後に『タナカシリーズ』と呼ばれる料理たちに多く用いられたタナカソースが末長く愛され、『タナカー』と言われる愛好家まで生み出すことになると知る者は、この時点ではまだ誰も居なかった。