大事な人へ返す言葉こそ間違いばかり
世の中には善ばかりで出来ている人がいる。
友人の一人もそんな優しいばかりの人だ。
そんな人たちをがっかりさせたくない。
けれども、大事な人に返す言葉こそ出てこないもの、そんな話です。
職場で私の友人となってくれた彼女は、私が今度長期入院をする事になると聞くや、自分の親族どころか妹にかけるような言葉を掛けてくれた。
「必要なものがあったら病院まで届けてあげるから心配しないで。あなたは病気を治すことだけ考えていればいいから。」
天使。
まじ天の使い。
でも、今の自分の心配事と言えば、病院に持ち込むべきリスト品を揃える事よりも、一か月自宅に置いて来ることになる夫と息子、それのみである。
彼らは、私による優しい虐待を長年受けてきた被害者なのだ。
つまり、まとめたごみを集積所に運んだ事はおろか、トイレットペーパーもティッシュボックスも、自分で買ってきたことが無い人達なのだ。
夫は私と結婚するにあたって、私にお願い事をしてきたと思い出す。
「俺は君のために何でもするけれど、ゴミを集積場に捨てるのとトイレットペーパーを買いに行かせられることだけは許してくれる?仕事上所帯じみたくない。」
お前は一人暮らしだっただろうが!
今の私ならばそう突っ込めるが、当時の私は夫を支えたい新妻だった。
彼の職業が舞台照明家であるならば、彼の言い分を聞くべきだと思ったのだ。
そして今も昔も私の夢は、舞台照明家と言えば夫、そうなることだ。
だがしかし、夫婦二人の世界であれば、夫に家事を何一つさせないことは全く問題無い事であるが、我が家には子供がいる。
「お父さんは何もしないのに?僕はどうしてしなきゃいけないの?」
「家事ができる男の方がモテるからよ。テレビでのエプロン姿のアイドル達は素敵じゃない。」
「ぼくはどうせ家事が出来てもモテないよ。ぎゃくに召使いにされちゃう。」
君は私らの子供だったな!
カースト低い!
今なら適当に言いくるめる言葉を思い浮かべられただろうが、当時の私は息子が幼稚園とかで受けている心痛を思いやるので精一杯だった。
そんな私が考えられた事は、親も子も公平に、それのみであった。
よって、私は夫にしたようにして、息子にも対応してしまったのである。
「パパみたいに熱中できる何か。将来の仕事にできそうな何かの勉強に全部を使いたいなら家事は覚えなくてもいいよ。」
結果、家事ができない生き物が二人も出来上がった。
私が入院して退院するまで一か月で、もしかしたらごみに埋もれて餓死しているかもしれない二人。
マジどうしようかという未来。
「自宅の様子も見てあげようか?」
私は天使のような友人を見返した。
彼女は、気兼ねなんかするな、という微笑みを顔に浮かべている。
「息子も旦那もきっと大丈夫だから大丈夫。」
女には友人にこそ張らねばならぬ見栄もある。
私はやばいやばいと思いながらも、頑張って笑みを崩さなかった。
胃がどんなに痛もうとも!
「そっか。でも私が心配だから、お願いをしてもいいかな。」
「な、何かな?」
「入院前にスマートフォンに機種変更してくれないかな?いつでもラインができるようになれば、動画も写真もたくさんやり取りできるから寂しくないと思うの。あと、急な心配事にも対応できるでしょう。」
いつでも誰かと繋がりたくないから私はスマホではなくガラホである。
と、私はこの素晴らしき優しい人にどうやって伝えたらいいのであろうか。
真実をそのまま告げたら、私が彼女とは繋がっていたくない、と考えていると受け取られる事にもなりそうだ。
私は笑みを崩さないまま、政治家のような台詞を優しき人に返すしかなかった。
「前向きに検討させていただきます。」
お読みいただきありがとうございます。
病名が決まりまして、11月の末から1か月の入院となりました。
膠原病多発性筋炎?でした。
強皮症どこ行った!です。
ちなみにまだ?があるのは、医師は筋炎で確信しているけれど、強皮症の抗体が出ているのに(それも以前のものと違う)筋炎に出るはずの抗体が出ていないことからです。
通常の病気ならばそれでも病名を確定させて治療に移りますが、難病になると難病申請を国にしなければいけないので、入院後に筋肉生検をして確定させるそうです。確定したらすぐさま治療でステロイドをぶち込まれてしまうのでしょう。
筋電図が痛かったので、生検はちと怖いです。
また、出ていない筋炎の抗体を探すために、自費で血液検査はどうかと言われています。
四万二千円。
保険適用外の抗体検査。
抗体によって予後の見通しがつきますよ、だそうです。
前向きに検討なんて言葉が通るわけもなく、やるやらないの回答を担当医師に告げねばなりません。
病気で死ぬよりも貧乏で死ぬ方が早そうだ。
皆様、お体には気を付けて。