迷いの朝に
一夜明けて、2人はベッドで目覚めた。
ロッサが起きると、ファレナもそれにつられるようにして眠りから覚める。いつものような朝が来た。
いつものように、朝食のパンをファレナは買いに行こうとするのをロッサは止め、急いて自分で買いに行った。あっという間に戻ってくると、共に食事を開始する。
「……ねぇね、何があったんだ?何で私誘拐されかけてんの?」
「……いや、そりゃこっちのセリフだ」
パンを飲み込みながらロッサはファレナを強く見つめる。
「一体何をしたんだ?」
「何もしてない」
ファレナを即答した。
「そんなことないだろう。処刑人に狙われるんだ、何かやったんだ」
「知らないったら、ロッサは何か知らないのか、処刑人だろ、一応」
「……いや、うん」
ロッサはファレナから目を反らした。
「……どした?」
「……」
ロッサは深呼吸を一つ短くしてから、
「お前、殺しなんて、してないよな」
切り出した。
「……何急に」
ファレナが訝しい表情になってロッサを見つめる。
「いやね、正直に話すと……姉さんの所へ行った時、新しい処刑依頼も受けて来たんだ。で、その対象が……お前だったんだ」
「はあ!?なんでだよ!?」
ロッサは驚くファレナを訝しい目で観察しながら話を続けた。
「情報によれば、男一人に色仕掛けで近づき殺害って話だけど……」
「なんだそれ!?できるわけないだろ私だぞ!」
ロッサはまじまじとファレナの体を見つめる。
(……やっぱり違うのか?でも……)
「いや、僕は十分かわいいとおもうよ」
「え?」
「……教会がそう言っているんだから……そう、その品の無さもお前なら隠して男を騙すなんて朝飯前だし……いや、しかし体に魅力が……いやいや、貧乳好きのおかしな男もいる、その幼児体形だって、きっとお前ならそういう人たちを狙って殺してても……そうなのか……金欲しさにやったのかお前、なんてことだ……」
「てめぇこそ、ぶっ殺すぞ」
ロッサは頭を抱えて黙り込んでしまった。
「……ねぇ」
ファレナの呼ぶ声にロッサが目をやると、ファレナはロッサの目を見つめ、ゆっくりと静かに、
「……ロッサは、どうおもってんだよ……」
自分を見つめるその目をじっと見つめ返したまま、ロッサは、
(……僕は……僕は、こいつがそんなことしたなんておもってるわけないじゃないか……)
「……でも、教会が間違えた、なんて……」
「間違いだよ間違い」
手を、ないない、と振ったファレナは、あきれたように、
「行ってそう報告して来い」
と言い捨てるように言い放った。
「……。それは……無理だよ、処刑対象を間違えたなんて……つまりは神器がおかしくなってる事を意味してる……そんなことあり得るのか……」
ロッサは俯いて頭を抱えてしまう。
「ああ……どうしたら……良いんだ……」
「……ロッサ」
ファレナが寄り添って行く。
「……信じて、私ホントに何もしてない……」
「……」
ロッサは何も応えなかった。
「……」
ファレナも、なんと声をかければ良いかわからず、ただ心配そうに背中に手を置くしかできなかった。
暫くして、
「……良いかい」
沈黙を撫でるように破って、ロッサは俯いた状態のまま話し出した。
「とりあえず君は処刑人に狙われてる。ついでに僕も君を匿ったとか守ったとかいうのがバレたら処刑対象になる」
「私、何もしてない、信じてよ」
「うん、信じてるさ……で、これからの事だけど、やっぱり姉さんしかいない。姉さんなら何とか信じてくれて、案を出してくれるはずだ……多分……」
ロッサは、その自信なさに俯いてしまった。
「心配しなくて良い、頼み込めばきっと助けてくれる」
ロッサはファレナの肩に手をやりながらそう言った。しかしこれは、同時に自分を励ます発言でもあった。
ロッサは立ち上がり扉へと歩いていく。
「わかった、早く帰って来いよ……」
「うん」
背を向けたまま返事して、ロッサは外に出た。
朝日がさしていた。
そのうららかな中、一伸びする。
こうして明るい所へ出て、何よりもファレナと離れられたことで、ロッサは落ち着きを取り戻す。
ファレナを処刑できなかった事は、ロッサの良心を責めて苦しめていた。
トボトボと大通りを歩いて、商業区の方へ歩いていく。
(……姉さんには……話せるわけない)
パルティーレ東にある商業区は、王都へと続く街道と繋がって、パルティーレはもとより世界中の物が集められている。
ダラダラーガ(甲羅がおわん型に窪んでいる亀のような、運搬の動力としての家畜として飼われている全長十メートルの巨大な知能の低いモンスター)が常に通りを往来しているノメン大通り沿いを中心に栄え、様々な専門店が立ち並び朝から夜遅くまで行き交う人が絶えない。
楽器屋、古美術店、おもちゃ屋と、ロッサは立ち並ぶ店舗を横目に見つつ、人ごみの中を歩いて広場に入っていった。
店舗の群れが、リラーラ交易所の白い壁に変わった。
白い壁にくり抜いたようにある小さな入り口に、小さくリラーラ交易所と気取ったように書かれた金の看板を見つけると、ロッサは、
「……はぁぁぁ」
吐息をつく。
その時リラーラ交易所の端、二階屋根の屋上に、ピロリン♪と音がしたとおもうと緑色の筒状の光が降ってきた。
遥か彼方から放射線を描いてリラーラ交易所伸びた真昼でもよく見えるその光は、<移動魔法>ロンの光である。
ロンは、自分の目視できる範囲、または一度訪れ、鮮明に記憶している地点へと猛スピードで緑の筒状の光の中を飛んで、約三秒で飛んで行く事ができる中級魔法。
便利であるが、街中では着地場が設けられて規制されていた。パルティーレ市街七十か所ある内のひとつがここリラーラ交易所である。
ロッサはリラーラ交易所横の階段をトボトボ降りていった。
降りてしばらくした所にあるカキモトタケシで、店員におすすめを聞いて、絶倫スバークドリンクとマジカミンXを一本ずつ買うと、店を出た所で、
(……どうしよう……)
ロッサは建物に四角く切られた空を仰いだ。
(……帰って……やるしかないのか?……)
ロッサはファレナにナイフで刺し殺す想像をする。
そんな事を考えながら、しばらく俯き石畳をじっと見つめたロッサは、重い足取りで大通りへ戻っていく。
そうやって悩んで俯き歩いて、足元ばかりしか見ていなかったせいであろう、ロッサは何を急いでいたのか、小道から飛び出して来た、年は九歳ほど、ショートカットで緑のミニスカートを翻した女の子に、全く気づく事ができなかった。
二人は勢いよくぶつかって倒れ込んでしまう。
その時咄嗟に、何とか受け身を取ろうとするロッサの右手が、まずその幼女のステンカラーコートのボタンを一つ二つと外していき、幼女のシャツをペロリとめくり上げる。
そして、同じく何とか受け身を取ろうとした左手が、右手の遺志を継ぐかのように幼女の背中に回り、ブラのホックを外し、素早くブラを脱がしては自らの頭に被らせると、馬乗りになり両手で女性の胸を優しく揉んでいった。
――ごむにゅ。
(あイてててて……。)
――ごむにゅ、ごむにゅ。
(ん?何だ?何か手が、固いけど柔らかく弾力のあるものを掴んでいる……)
目だけ動かして、いつの間にか下にいる幼女の、めくれたシャツ、ブラ、おっぱい、と一つ一つ確認していくように望み見るロッサは、唖然として、小ぶりなおっぱいをもう一揉みしてから、硬直してしまった。
と、下で幼女が、ロッサと同じように目だけ動かして、いつの間にか上にいる男性の全身を眺めていくと、
「キャーーーー!!」
幼女が商業区全体に轟くかとおもわれる悲鳴を上げた。




