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リベルラ・ロッサ  作者: わをんわをーん
1章 
6/21

誘拐

 ノメン大道りにある、モウエ銀行と書かれた堂々とした立派な建物のその横の路地に、ロッサはトボトボと入っていく。


 もう陽は落ち、真っ暗な路地が窓の光で弱弱しく照らされている中、ふと、満腹のロッサはそこで一歩も歩めなくなってしまった。


 処刑対象の居場所を示す腕輪の光が、激しさを増すばかりだったからだ。


(そんな……馬鹿な……)


 緑色に光る腕輪を見つめながら、のそのそとロッサは歩をなんとか進めていく。その毎に、家に近づくにつれ、腕輪は激しく点滅しだした。


(……本当にあいつなのか?)


 歩幅が一歩一歩が小さくなっていきながら、路地裏へと道を曲がろうとした、その時であった。


(光?)


 道の向こうに、緑に点滅する光がロッサの目に入る。その回りには四つの大きな人影もあって、急ぎ早にこちらに歩いてきていた。


 まさかとおもって、ロッサは立ち止まって見ていると、


「なんや兄ちゃん、あんたも処刑人か」


 と歩いて来た者達の真ん中にいた、背中に剣を背負っているロッサの胸元ほどの背丈の小太り男は言った。


 ロッサはその腕に処刑人の腕輪があるのを見て取ると、


「皆さんは、誰を処刑しにきたんで?」


 と言いつつ、男達を観察する。


 処刑人の腕輪をしているのは一人、他の背丈のある筋骨隆々な人は皆、泥で作ったゴーレムなのを見て取れた。


 魔能、一球入魂を持つ者が、全身全霊を持って造形物を作る事で誕生するゴーレム。


 単純な命令しか聞くことはできないが、体の大きなものを作るには、それ相応の魔力と技術がいった。


「わしは対象はヴェルデ・ファレナっちゅうやつをや。兄ちゃんもか?」


 男はロッサの腕輪の光をチラと見るとそう言った。


「ああ、ええ、そう、です。それにしてもすごいですね」


 ロッサはゴーレムを眺めながら男に言った。


「こんなに大きいのを4体も作れるなんて」

「ははは、ボスの訓練のおかげやろうな」


 男はロッサの誉め言葉に気分を良くしたらしい。


「ボスはもっとすごいで、なんたって――うっと、それはどうでもええねん。まっ坊主、ここは俺が引き受ける、引き取ってもらえるか?

 じゃあ、急ぐで。そゆことでな」


 ロッサが返事するのも聞かず、男は急いて泥人形を引き連れて路地裏にぞろぞろと入っていく。


「……」


(……まあ、僕ん家に行くとは限らないし……)


 とその後姿を、ロッサは何も言うことなく、ただ見届ける事にした。


(……。)


 男達がロッサの部屋のある建物に入って行く。


 しばらくして、突然建物の中から、


「何すんだ!離しやがれ!きゃああ!」


 と黄色い、品のない悲鳴が路地裏に響き渡るとともにファレナがゴーレムの一体に担がれて男達と一緒に出て来た。


「うっさい奴やなぁ、ほれ」


 と男が塩を一つまみ、さらっとファレナにかけた。


「ぐぎゃああぁぁあがががぁぁあぁああ!塩やめてぇぇべべでぇぇえ!塩おぉおぐおぉぉぉ!」

「おとなしゅうしとれ!」


 もだえ苦しみ、動きが鈍ったファレナはゴーレム達により、ずた袋に入れられてしまう。


「よっしゃ、馬車まで戻るで、はよ届けんとな」


 と男はずた袋を担いだゴーレムに言うと、急ぎ足でロッサの居る路地に戻ってくる。


 ロッサは道を塞ぐように、彼らの前に踊り出た。


「おう、兄ちゃんなんやまだおったんか」


 ロッサは激しく蠢くずた袋を心配そうな目で一瞥した後、


「ホントにその子が目的の人なんですか?」


 と尋ねた。ずた袋の中からは、黄色い色のありとあらゆる罵倒が聞こえきている。


「そんなん聞かんでもわかるやろ」


 ロッサは腕輪の水晶全体が激しく緑色に点滅しているのを確認すると、サッと停止させ、


「たしか捕獲せずその場にて処断だった気がしますが」


「……」


 男はロッサを鑑定するような目つきで全身を眺めた後、


「……っちゅうか、なんやねん自分」


 男は苛立っているようで、一歩前に出てロッサを威圧した。


「……この人は僕の標的なんです、勝手にされては困ります」

「それはこっちのセリフや」


 と言うと男は手を上げる。回りのゴーレム達が瞬時に戦闘態勢に入った。


 ロッサは刀の鍔を切る。


 半身に構え腰を落とし、呼吸を鍛え、気を練る――ロッサは霧外流剣技・斬釘截鉄の構えを取った。

 この技は相手の攻撃を半身で躱しながら小手を斬るという神速のカウンター技である。


「この子はやらせん、血ィ見る前に帰りな!」

「……」


 ロッサは構えたまま一言もしゃべらず動かない。

 両方の間に緊張が走る。


「……」

「……ゴーレム共、この子を守れ!」


 これが鬨の声、ゴーレム達が一斉にロッサに襲い掛かる。


 しかしロッサは落ち着いていた。


 攻撃してくると言っても同時ではない。目の前の敵、そいつが殴りかかって攻撃してきて、残りの三体はロッサの周りを囲もうとしているだけである。


(――まずはこいつからだ!)


「ハァッ!」


 ロッサは気合の籠った声を上げ、ゴーレムの右ストレートに合わせて、抜き打ちの斬釘截鉄を繰り出す。

 が、相手の攻撃を半身で躱すはずの所で失敗してしまい、


「グハァぁああ!」


 ロッサはまともに顔面を殴られ、石畳に叩きつけられてしまった。


 ゴーレム達は倒れたロッサを取り囲み、全員で蹴とばす、踏みつけるを繰り返していく。

 ゴキブリを殺すように強く、容赦なく繰り返される攻撃に、ロッサに成す術などない。


 しばらくして、

「おい、もう良い、帰るで」


 痛めつけられるロッサを見て、男はこれ以上やると死んでしまうと、手を上げ、ゴーレム達を引き上げさせる。


 うつ伏せな倒れたまま、ズタボロになって、ピクリとも動かないロッサをしり目に、男達は相変わらずありとあらゆる罵倒が聞こえるずた袋を背負って、大通りに停めてある馬車へと急いだ。

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