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リベルラ・ロッサ  作者: わをんわをーん
1章 
3/21

奇妙な揺れ

 二人が眠って、すぐの事だった。


 東居住区五番街に轟音が鳴り響く。


「ロッサ!何だ何だ!?何だ!?」


 二人が一斉に跳ね起き、何が起こっているのかわからないまま、とりあえずロッサは毛布を持つと、ファレナを抱き寄せ、毛布をすっぽり被ってうずくまった。


「ロッサ、また戦争か?」

「そんなわけないと思うけど……何かの爆発音だったよな……」


 ロッサは毛布を放り投げると居間へと移動していく。


 居間を見渡しても、別に落ちたりして壊れた物ものない、部屋の中は今までの騒ぎが嘘だったかのように平穏そのもの。


「こっちだロッサ、来い」


 その声に振り向くと、ふぁれれながいつの間にか路地裏に面した窓から外に出ていた。


 窓の外でプカリと浮いて、ロッサの方を向きもせず激しく手招きしている。


 何かあったのかと速足で窓辺へ行って、ファレナの見ている方向をロッサは身を乗り出し見た。


「何だあれ?」


 見ると、路地方面全体が黒煙に包み込まれている。


「多分、チュウ爺さんな気がする」


 ファレナはぼそりと言った。


「証拠がないのに疑うのはいけないよ」

「……前に火薬を一杯仕入れてたんだ」

「おいおい、マジかよそれ……」

「前に誤爆させて、日課の太極拳してる時、頭の毛が焼け焦げパンチパーマみたいになってたし」

「ええぇ……何やってんだあのジジイ」

「魔協が来るんじゃないかって怖がってた」

「早く来た方が良いよ」

「後で何やったか聞いてきてやるよ」


 ファレナは得意げにロッサの方を向く。


「もう死んでるんじゃない?」

「大丈夫、どんな時も自分のだけは絶対安全を確保してる奴だから」

「もう死んだ方が良いんじゃない?それ」

「別に人も死んでないし、良いんじゃない?」

「いつあってもおかし――」


 その時、ファレナ越しに天まで昇る黒煙がモクモクと、こちらへ迫ってきているのに気づいた。


 気づけば、近隣の住人達はすでに窓の戸を閉めきっている。


 それもそのはず、黒煙は尋常じゃない速さと迫力を持ってこの五番街を飲み込んでいっていたのだから。


 すぐそこにまで迫って来ている。


 ロッサは慌てて煙が入って来ないように、外にファレナを残したまま戸を閉めた。


 わざとではなかった。


 焦ってしまったのだ。


 ドンドンと外から激しく叩かれる戸。


 すぐに開けてあげようとしたロッサだったが、ボロい戸の隙間からは、もう煙がしゅわしゅわ入ってきている。


 さらに激しさを増して叩かれる戸を見つめながら、


(あーこれは開けたら部屋中黒くなっちゃうな……。)


 ロッサは助けたいのはやまやまだけれども、


(残念ながら……。)


 とあきらめた。


 ドンドン叩かれる戸を見ていると、後で怒られるだろうなとおもいながらも、間抜けなだなともおもわれて、


「ププッ」


 おもわず吹き出してしまう。


 しかし、


「ふふふ――てっわああぁ!」


 笑っていたロッサは悲鳴を上げ、仰け反ってしまった。


 ボロい戸の小さな隙間から、しゅわしゅわと入ってくる煙が止まったかとおもうと、そこからファレナが部屋に侵入して来たのである。


 隙間から入ってくるためだろう、長細く状態を変化させて、製麺機で麺を作っている時のように、麺状のファレナがニュルニュルと、ゆっくりと蠢きながら部屋に入って来ては、床に落ちていく。


 だんだんと床に山なりに溜まっていき、しかもそれは蠢いて、すごく細長い蛇がとぐろを巻いてうごめいているようであった。


 だんだんと積もって高くなっていくのを見て、


「キモ」


 仰け反ったロッサはおもわず呟いた。


 蠢いている麺状のファレナを気持ち悪がって見ていると、隙間から最後の部分がちゅるんっと部屋に入って来て、ボロい戸の隙間からは再び煙が部屋に入ってきた。


 床ではファレナが麺状のままくねくねと蠢いている。


 これからどうなるのかとロッサが見ていると、


「うがーーー!」


 叫び声と共に空中に、麺が浮いたとおもうと、ファレナの体が一瞬で元通りになった。


 そして開口一番、


「こーらー!!」


 怒り心頭で怒鳴るファレナ。


「何で閉めんだよ!」

「あーごめんごめん煙が迫ってたもんで慌ててて」

「まったく、日ごろからヨガやってて良かったよ。でなきゃ取り残されてたわ!」


(ヨガ?)


 意味の分からなかったロッサだったが、聞きなおせる空気ではない。


 ファレナはツンとして、ロッサの方を見ずに寝室へとプカプカ浮いて行く。


「もーごめんって」

「……」

「でも汚れてないね」

「……」

「幽霊だからなの、便利だね」


 ファレナはベッドに大の字に横になった。


 すぐに目を瞑り眠りだす。


「おいおい」

「……」


 ロッサはベッドの端に寝転んだ。


 ファレナは怒ると無視を決め込む。


(まいっか……すぐに機嫌も治るだろう)


 ロッサも再び眠りについた。

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