尋問
ソリーソが、ノゲの頭にそこらにあったずた袋をかぶせ、腕を後ろに回し、その細い指に、これまたそこらにあった指枷を嵌めた。
牢屋の整備が、ここで役立った。
「金庫を開けるためです」
と、ファレナに剣を喉元に突き付けられたノゲは、怯えながら答える。
「なんだぁ金庫っつうのはぁ!とっととしゃべれぃ!」
ファレナはノゲを剣先で突っつく。
「ああぁ!痛い!だからやめて!話しますから!」
ノゲが体を捩りながら、
「えっとですね、ファレナさんに無実の罪を着せて教会に捕まえさせようとしました。でも――」
「はぁ!?じゃああれもお前の仕業だったのか!」
ファレナの顔が怒りに満ちてノゲを剣で突っついた。
「ああぁ!痛い!」
「ファレナさん落ち着いて!」
ソリーソがファレナを制止させ、
「ノゲさん、無実の罪で捕まえさせるなんて事、どうやってしたんです」
とノゲを鋭い視線で刺しながら尋ねた。
「昨日ペンゼを使って、魔力によってマガタマに干渉しました」
(凄い事をさらっと言うわね……)
飄然と応えるノゲにソリーソはそう思って少したじろいでしまった。
「じゃあ昨日の魔力の発生はそのためですね」
「はい、あれはマガタマを狂わせるかの実験をした時のものです」
「……それで結果は成功したと……」
「いいえ、狂わせるのには成功したんですが、何を間違ってか、緊急に死罪なんて事になってしまいまして、これは大変だと処刑される前に攫って、金庫開けさせようとしたという分けでございます」
「ん?」
(もしかして、リベルラさんが言ってた娘って……)
ソリーソはもしやと思って、
「あの、リベ――」
「ふざけんじゃねぇ!」
ソリーソが尋ねる言葉を遮って、ファレナはノゲを剣で突っついた。
「ぎゃあ!やめてくださいませー!」
「だいたいその金庫ってのは一体何なんだ!なんで私に明けさせるんだよ!」
と言ってノゲをまた剣で突っつく。
「ああ!痛い!言いますから、やめて!」
ノゲが体を捩りながら、
「えっとですね、たしか、開けられない金庫であって、でそれはあなたの力添えがないと開けられない、真実の口だったかな、たしかそういう魔能を持った魔道具だったんです。……ええぇ、みたいでして、でも幽霊だと無理なんで、一回ゴーレムの体に魂を移そうってしてる所で、で、準備ができたんで僕が連れに来たんです」
「なんで私にそんなのが開けられるんだよ」
「それは真実の口の金庫だからですね」
ソリーソが割り込んで説明した。
「手を穴に入れて嘘や邪な心を持っていると手を噛み切られてしまうので、泥棒などは金庫を開けられないようになっているんです」
「だから、それが何で私には開けられるんだ?」
「ヴァルデ博士のものだからです、娘のあなたなら開けられます」
ノゲが割り込んで説明する。
「お父さんの!?」
ファレナは父の名前が出て来たことに驚いてノゲを見つめた。
「はい、昔盗んできた金庫なんです」
「まさか!?」
とノゲの腕をまくった。
そこにはソリーソと同じ緑の水晶が埋め込まれている。
「あの時、家を襲ったのはあなただったのか……」
ノゲに震えた声でそう言いながら、ファレナは後ずさりした。
「あっ違います。やったのは僕じゃないですよ!本当です!ぎゃあ!やめて!本当ですってば!」
ファレナはノゲの体を剣先で何度も突っつく。
「ファレナさん落ち着いて」
ソリーソがファレナの手を掴んで剣を止めた。
「嘘言っているかも知れないじゃないですか、痛めつけて本当のこと言わせないと」
ファレナはソリーソの方も見ずに怒りを抑えた声でそう言う。
「いえ、私の魔能は読心です。相手の思っていることがわかるんです」
「あなたのそれも嘘かも知れないじゃないですか」
「私を信じて」
そう言って自分に注がれるソリーソの瞳光は、ファレナは黙思させた。
「本当ですってばぁ、信じてくださいってばぁ」
と訴えるノゲは、
「僕じゃないんです。博士を殺したのはレイさんです」
そう言った。
「レイ?それはどこの誰だ!」
ファレナが詰問する。
「ノゲ・レイです、僕はノゲ・ワンです」
「その開けようとした金庫は何の目的で盗んだんです?真実の口の魔能付きなんて相当大切なものが入った金庫ですよね」
「ああ、そこまではよくわかんないです」
ワンは申し分けなさそうにソリーソに答えた。
「ノゲ・レイは今どこにいるのですか」
「モウエ銀行パルティーレ支店です。自宅も兼ねてますし、あそこの支店長でもありますから後は僕たちに任せて帰った次第であります!」
そうノゲが言った時、ドアが開かれた。
ドアを開いて中の様子を見たその人物は、驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着いた表情になり、鋭い眼光を飛ばしドアを閉め中に入る。
ファレナとソリーソは入って来たその人を見て、自分の目を疑った。
入ってきた男は、声音も背丈も年恰好も、ここに縛られているノゲとそっくり同じであった。
ノゲに兄弟はいないのは確認済みである。たとえ兄弟だとしてもこれほどそっくりにはならない。
「誰?助けて!助けて!」
縛られたノゲがじたばたしながら助けを乞う。
「帰りが遅いと来てみたら。ワン、少しそこでおとなしくしてろ」
「ああ、二ンだね、助かったー」
ソリーソは、さっきの縛られているノゲの発言と、二人がほくろの位置まで同じなのを見て取ると、
「おなたたち、ゴーレムだったの!?」
とノゲたちに言い放った。
「あんたと同じだ、脳みそ以外作り物、レイさんの影武者さ」
ニンと呼ばれた人物は剣を抜き去る。その上腕に、ソリーソと同じ水晶が埋め込まれている。
ソリーソはファレナから剣を奪い取ると、
二ンの唇が少し動いたのにソリーソは傾注した。
微笑であったからだ。
――二ンが突進。目からビームを照射する。
ソリーソは素早く一歩下がり半転、
「ファレナさん、今のうちに逃げて!」
ファレナに叫んだ。
ファレナは言う通りドアへと駆け出す。
それを止めようとする二ンだったが、
「ハァッ!」
ソリーソが気合の掛け声とともにスッと姿勢を低くすると横なぎに左脚を斬り付けた。
ニンは、ソリーソに向き合い、ビームをチョロ出ししていく。
ファレナは大急ぎで、屋敷から外へと出ると、
(助けを呼ばなくちゃ!)
屋敷が建つ高台から辺りを見渡す。
回りは何もない。遠くにパルティーレの城壁が見えた。
家も立ってない丘の上、人っ子一人いないとおもわれたが、ファレナは良く見慣れた二つの人影がこの丘に登ってこようとしているのを見つける。
高台から飛び降りるようにして一気に駆け寄って、
「ロッサ! チュウ博士!」
ファレナは叫んだ。




