チュウと同行
ロッサはソリーソと別れ、そのまま足早に向かった先はチュウ爺さんの研究所であった。
「すいませーん」
とドアをノックしながら二十二回言った時、ドアがそろりと開く。
「何じゃ何じゃ」
眠気眼で、水玉模様のパジャマを上だけ着て腹巻をしたチュウがやっと顔を出した。
「チュウ爺さん、おはようございます」
ロッサは妙にゆっくりとした言い方で挨拶をした。
「ああ、ロッサ君おはよう、すまないな昨日徹夜してたもんじゃから……、寝ていたよ……、しかしまだ朝じゃないの? この感じって?」
寝起きで呂律の回らず、ごにゃごにゃした声でそう言いながらチュウは取り囲む建物によって長方形に区切られた青い空を仰ぐ。
「はいそうです、ところでファレナのために協力していただきたいんです」
「……ファレナちゃんどうかしたの?」
目をこすりながら、チュウは尋ねる。
「攫われて行方不明です」
ロッサは早口に言った。
「ええぇ!」
チュウの髭が逆立ち、しおれていた細長い耳がビンっとなって、目がパッチリ見開かれる。
「そんなっ! どうして!」
「……だから……今から助けに行きたいんです……」
「……そいつらの居場所はわかっとるのか?」
「わかりません。連れ去った男に関して何の情報もありませんが、前に攫おうとして来た奴らの仲間の可能性があります。それで、チュウ爺さん、、ファレナの居場所がわかる道具がありましたよね?」
「ああ、あれね! もちろんじゃ、今すぐ出してやろう、ちょっと待ってくれ」
チュウは早口にそれだけ言うとバタンとドアを閉めた。
パジャマを急いで脱ぎ、上着をくちゃくちゃに丸めて籠に入れると、白衣を着て、鏡で髭の跳ね具合を整え、腹巻をおしゃれなのに変え、
「ロッサ君、さあ中へ」
とロッサを中へ招き入れる。
テーブルの椅子をすすめたチュウは、その向かいにドスンと座ると、傍の戸棚を探り出した。
「あー、どこ行ったー」
見つからないらしく、ついには棚の中に上半身を突っ込み中を探していった。
「あったあった。よし、起動させるぞ」
ボタンを押すと、メガネ全体が薄い光を放った。
「よし起動したぞい」
チュウはメガネをかける。
「あった、反応があるぞ」
「どこです?」
「西じゃ」
「西のどこです?」
ロッサの語気が強くなる。
「そこまでは分からん、お前さんらの腕輪以下の性能じゃ、方向しかわからん」
「貸してください」
「わしも行く」
チュウはロッサがメガネを奪おうと伸ばした手を避けると、
「ロッサ君は後方支援で、わしは前線」
「えっ?」
「だからロッサ君は後方支援で、わしは前線!」
「いえ、僕――」
「――断られてもわしは勝手に良く、このメガネは渡さん」
ロッサは無理やり奪ってやろうともおもったが、
「もう勝手にしてください」
「さっ出発じゃ」
ロッサとチュウは揃って歩き出した。
「ロッサ君、わしな、モウエ銀行のノゲさんと仕事してるんじゃ」
大通りを、西門に向け歩きながら、チュウが話し出した。
「えっ?ああ、ソリーソさんと一緒に行った時、なんか言ってましたね」
「ちょっとノゲさんに聞いてみようとおもうんじゃ。ノゲさんの力があれば、事情を説明すれば力を貸してくれるかもしれん」
「はぁ」
「ちょうど、ノゲさんは西門を出てずっと行ったところの別荘に居るはずじゃ、そこへも出向こうじゃないか」
「……そうですね、協力者は多い方が良いし」




