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リベルラ・ロッサ  作者: わをんわをーん
2章
12/21

ノゲの調査

 ロンでパルティーレ大教会の中庭へと撤退したラーパは、腹から噴出する血を両手で抑えながら、何事かと駆けつけて来た修道士達によって運ばれていった。


 腹部は貫通していた。すぐに手術は始まった。


 ロッサは客室を一室与えられ、ここに泊まる許可をもらった。


 ファレナをさらっていった者は誰なのか、どこへ行ったのか。姉の事も気がかりだし、夢にまでもその心配と不安が形になって表れては、ロッサの目を覚まささせ、その晩はほとんど眠れないまま過ごした。


 朝、日の出と共に活気づく学院に、何だかんだでちょっと眠ったロッサは起きると、気を取り直して食堂に行き、きつねうどんと親子丼をガツガツ食べだした。


 とそこへ、手術を終え、回復魔法で完全回復を果たしたラーパが現れ、ロッサの首根っこを掴みを自室へと連行した。


 で、閉め切った室内にて説教を受ける。


 パッカの光一つが部屋全体を照らしている中、ラーパは屈伸して顔をこれでもかと近づけて、床に正座させたロッサを睨み、


「処刑対象を匿う事がどういうことか、お前の足りない頭でもわかんだろ、あん?」


 と巻き舌で恫喝していく。

「わかんねぇのか?おい、ポンコツ、何とかしゃべれおい!」

「姉さん実は――」

「うるせぇ、しゃべんじゃねぇ!」

「……」


 ロッサは困って黙ってしまった。


「なんでやった。なんだ?欲情でもしたのか、可愛いかったら幽霊にでもお構いなしか?はい、か、いいえでなら答える事を特別に許す」


 ロッサは目の前のラーパの額をただ見つめる事にした。


「正直に言え、勃起してたんだな?」


 ラーパは問い詰める。


「……いいえ」

「そうか、勃起してないのか……じゃあこれからお前の事はふにゃふにゃちんちんマンと呼ぶことにするから、お前もこれからそう名乗るんだぞ」

「えっ……」

「ほら、名乗って見ろ」


 ラーパは囃し立てるように言う。


「……」

「はい、せーの!」

「……、……どうも、ふにゃちんちんマンと申します……」

「今まで一緒に暮らして、さぞ楽しんだんだろうなふにゃちんちんマンさんよー。何発やった?」

「……えっ?」

「何、発、やっ、た?」


 ラーパは一文字ずつ区切って、ロッサの耳に向かって声を上げて繰り返した。


「別に――」

「はいかいいえ」

「……」


 ロッサは困って黙ってしまった。


 ラーパは箪笥から服を取り出しに行った。


 ロッサはゆっくり顔を戻す。


 服を持ってベッドまで戻ったラーパは、

「さーぞ、しゃぶらせんのはー気持ち良かったろうなー」

「……、……いいえ」

「ハハハ、お前のふにゃちんを立たせる事テクはあのお化けにはなかったか、そう言えばそうか、残念だったな」

「……」

「可哀そうに……私が慰めてやろうか?」


 急にラーパは嘲笑が混じった優しい笑顔になってロッサの頭を撫でた。


「……い――」

「――てゆうか、さっきからおっぱい見てんじゃん」

「……」

「ふにゃちんでも性欲は一丁前にあんだな」


 ラーパが聖堂服を脱ぎ始める。寝巻に着替え終わったラーパは、ベッドに座ると、


「……あの連れ去った男、一体何者かロッサは知らないのか?」

「知りません」

「……ふーん、まあそういう事にしてやる。ロッサ、もうこの件から外れるんだ。ヴェルデ・ファレナはもうこの世に居ないみたいだしな。」

「え?」


 ロッサは耳を疑った。姉を見つめたまま動かなくなる。


「腕輪で確認してごらん」


 ロッサは腕輪を起動させ、ファレナの処刑依頼を確認する。ファレナに反応して光るはずが、光らなかった。


「ほらな、反応なしだ」

「……でも待って……処刑依頼は達成されてはいませんっ」

「あの男に殺されたからだろ」


 ロッサは光らない腕輪を見続ける、何も考えられない、ただ見続けしかなかった。


「さあ、私は眠る。てめぇのおかげで疲れ切った」


 ラーパはめんどくさそうにそれだけ言って、布団をかぶる。


 同時に部屋を照らしていたパッカが消えて、戸を閉め切っていた室内は真っ暗になった。


 ロッサはラーパの部屋を出て、暗鬱な表情で階段を降りて行く。


 これからすることは決まっていた。


(ファレナを連れ去った人物を追おう……)


 助けた後どうするかはについてはまだ決めていない。ただファレナが傍にいない事だけが嫌でしょうがなかった。ただそれだけの動機でロッサは顔は俯せて歩き出していく。


 ロッサが足を引きずるように歩いては中庭に出て、日を顔以外の体に浴びた時であった。


 向こうから、女の子が一人スタスタとやって来る。


 その女性はロッサを避けようと右によって、そのまま通り過ぎようとしたが、ふいに立ち止まった。


 驚きの声に続き、女の子は、


「リベルラさん」


 とロッサを呼んだ。


 ロッサが驚いて顔を上げると、

「おはこんばんちは」

 ソリーソが可愛らしい声で言った。


「おはようございます」


 ロッサはポカンとしたまま条件反射で挨拶を返す。


「こんなところで何をなさってるんです」

 ソリーソはロッサの雰囲気から、単なる上目遣いが探るような目遣いになって尋ねる。


「いえ、別に」

 ロッサはそれだけ言うと口を閉じた。


「私はちょっと挨拶を済ましたところです、教会には私が来ていることを伝えないとややこしいことになりますから」

「はぁ、そうなんですか……」


 ロッサは、ソリーソから目を反らして覇気のない返事をする。


「何かあったんですか」

「いえ、別に」

 と、それだけ言うと口を閉じるロッサに対して、

「バレたんですね」


 ソリーソは小声になって言った。


「教会に来るという事はそれ以外ありませんもん、読心を使わなくてもわかります」

「いいえ、違います」


 ロッサはムカムカしながら言った。


「……そうですか……」


 ロッサが怒ってきたので、ソリーソは尋ねるのをやめると、


「じゃあ、今日の調査、お願いしますね。ノゲ・レイに会います、昼ご飯食べたら私の部屋まで来てください。西の門から出て彼の別荘に向かいます。なんでもずっとそこに籠りっきりだそうで――」

「行けなくなりました」


 ロッサは強く言い放つ。突然の大きな声にソリーソは驚いてちょっとの間、ロッサを見つめた。


「どうしてです?」

 ソリーソが無邪気なふりして尋ねる。


「とりあえず、もうあなたに付き合ってる暇ないんです。それにもう従わなくともよくなりました。なんでも僕を犯罪者とでも言いふらしてください」

「……大丈夫ですよ、問題化するつもりなんてありません」

「……」

「……もう護衛は頼めそうではありませんね……」


「さようなら」


 ロッサはソリーソに目も合わせず、別れを言うと足早に去っていく。


 パルティーレ教会で用をすましたソリーソは、その足でノゲ・レイの別荘を訪ねていった。


 西門を出て、物音一つしない広場の横を通り、風車に干し草置き、飼い葉おけ、農夫の馬車、大都会を後にして田園を横切り、広い急な坂道を上った先にノゲ・レイの別荘は堂々としてあった。


 教会のように広くて急な階段のついた大きな扉に、柱廊が周囲をめぐる豪奢な別荘のベルを鳴らしたソリーソは、無表情な女中に応接室へと案内されていく。


 応接室は、全身の肖像画が四枚壁にかかり、暖炉には天井までに及ぶ彫刻が施されて、真っ白な天井からは金細工が施されたシャンデリアが吊るされ、中のパッカの光球が鏡による細工により煌めいて輝いていた。


 女中は暖炉の前のテーブルを囲んでソファと肘掛椅子が二脚ある内、上座の肘掛椅子をソリーソに丁重にすすめると、

「少々お待ちください」

 と言って去っていく。

 一人になったソリーソは、

(さて)

 と目を瞑った。


 精神を集中させて、読心を行うための準備を行う。


 その時ドアが開かれる。


 入ってきたのは、顔立ちのはっきりしていて鼻筋がスッと通っている、初老であるがかなりの美形で、年をおってさらに男の魅力が増すタイプの伊達男であった。


 金髪でいかにも高いスーツを着込んだ気品ある佇まいで、ソリーソの待つ応接室に入って来ると、

「お待たせしました、ここの主人のノゲ・レイと申します」

 ソリーソはすぐに読心を目の前にいる者に行う。


 ソリーソは立ち上がって、

「魔術協会のロンブリコ・ソリーソと申します」

 そう言いながらペンダントの紫魔石を見せる。


「お座りください、しかし……一体何の御用ですか」


 ノゲはそう言ってソリーソの向かいに座った。


(この人、自分は主人のノゲ・レイだと嘘を言っている……)

 ソリーソは読心でノゲの嘘を見破っていた。


(なぜ本人が出てこない?この人は部下か何か?なぜそんなことをする?)


「一昨日、この地点で強い魔力を検知しまして、それに付いて調べさせてもらいたいのです」

 ソリーソは冷静に言った。


「この家でですか?」

「はい、この地点です」

「……何かの間違いだとおもいたいですね……かまいませんよ、どこでも調べてください」

「では早速」

 と言ってソリーソは立ち上がる。


(やっぱりリベリラさんに無理言って来てもらった方がよかったかなぁ……)


 少し気弱になってしまいながら、最悪の結果として戦闘になる覚悟を決めた。

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