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リベルラ・ロッサ  作者: わをんわをーん
2章
10/21

チュウの調査

「ここです、リベルラさん」


 ソリーソはそう言いながら、ノメン大道りにあるモウエ銀行、その横の薄暗い路地に入っていく。



 ロッサもその後に続いて入っていった。


「あっパン屋がありますね、もうお昼食べました?」


 ソリーソが振り向きロッサを見上げながら言った。


「いえ。まだ」

「じゃあ何か啄んでいきましょ?」

「はい、そうですね」

「……」

「……」


 ソリーソがロッサをじっと見つめる。そして、


「ええぇ、持ってないんですかー」


 ロッサが金を持ってない事を読心して嘆く。


「じゃあやめましょ……」


 ソリーソはロッサに失望し、振り返って目的地に向かって歩き出す。


「……あの、とりあえず心を読むの、勝手にするのやめてくれます?」

「そうですね、いつもはしてないですから安心してください」


 ロッサの方を振り向きもせず、機械的にそう言った。


「……しかし、その魔力が感知されたってのは、本当にここ何ですか」

「はい、とりあえず近場のここから調べて行きます。昨日の明朝、ここら辺で巨大な黒煙が上がったとの情報があります、おそらくそれではないかと推測しているんですが」

「ああ、あの煙か」

「知ってるんですか?」

「はい、実はここらに住んでいまして――」

「ロッサくーん!」


 その時、前方から呼ぶ声がした。


 2人がそちらを振り向くと、一人の白衣と腹巻を巻いたモンスター族の男がこちらに転がってくる。


「ちょうど良い、あの人が黒煙の犯人です」


 チュウは、本当に急ぐ時は丸まって前転をする。その方がそのウサギのような短い脚で走るより早いのだそうだ。


 ロッサの所まで転がってくると、


「いやーロッサ君!」


 と、会えたことを喜んで、笑顔で話し始める。


「心配したじゃないか。昨日はどうなったんじゃ、ファレナちゃんは大丈夫だったんだんじゃろな?」

「ええ、大丈夫ですよ、家にいます」

「ほほー、そうかそうかそれは良かった――でじゃ」


 チュウは一変して緊張した趣になった。


「で、ロッサ君、爆弾は役立った?」


 心配げにチュウは尋ねる。


「ああ、それはとっても、ありがとうございました」


 ロッサは感謝を込めてそう言った。


「そうか!それは良かった!」

「昨日の明朝の黒煙の仕業はあなたが原因ですか?」


 ソリーソが横から尋ねた。

 

「そうじゃよ、お嬢ちゃんはどなたかな」

「新魔力協会のロンブリコ・ソリーソと申します」


 ソリーソは胸に隠して掛けていたペンダントを出し、中を開いて紫魔石を見せる。


「えっ、魔協の方……」


 チュウは鋭い目で紫魔石を見つめた。


「少し話を聞きたいのですが、自宅まで案内してくれますか」

「……」


 チュウの脳裏に、無実の罪で臭い豚箱に入れられた記憶が蘇る。言葉数が異様に少なくなったチュウを先頭に、3人は研究所に向かう。


 研究所の中の古びた椅子にチュウは座ると、徐に横の小棚から球状の物体をいそいそと取り出す。


 ロッサは、奇妙なものばかりある棚を観察していた。ソリーソは椅子に座り脚をブラブラしている。


「それは……爆弾?」


 チュウがテーブルの上に出したものを見ると、ソリーソがそう言って首を捻った。


「これの実験をしてたんじゃよ、それで予期せぬ黒煙が出てのぅ」

「明朝に、これの実験……しかし魔力が出たのはなぜでしょうか?」

「えぇ……でもそれ言っちゃいけないって言われてるし……」

「……」

「……どうしたんじゃ、ソリーソ殿?」


 急に口を閉ざして自分を見つめるソリーソに、チュウは訝しみながら尋ねた。ソリーソは読心を終えると、


「この爆弾の起動実験を魔道具を使ってやってたんですか」


 と冷静に言った。


「ええっ!?なんでわかっ――読心の魔能か?」


 チュウの目つきが鋭くなる。


「そうです、隠し事は通りませんよ」


 ソリーソも鋭くチュウを見つめて詰問していった。


「しかし、爆弾では制限以上の魔力は出ません。他にも話していない事がありますね、一体何ですか?」


 黙りこくるチュウ。


「……エネルギーを全部吸収してくれる魔道具?」


 心を読んだソリーソはぼそりとチュウに言う。それを受けて、チュウは深く息を吐いた。


「隠し通すのは無理か……」


 チュウはしゃべり始めた。


「別にやましい事はしておらん。この爆弾の出資者が貸してくれたんじゃが、黙っててくれと言ったんでな。お前らに教えてやる義理もないからの」

「はいはい、で何なんですか?」

「爆弾の爆発実験のために使ってたんじゃ、その魔道具の中に入れてたらどこでも実験できるし、ただ、爆発させてみたら、マア、煙は出るは振動はすごかったわで大変だったんじゃ」

「ふーん、エネルギーを吸収する魔道具……、それはどこにあるのですか?」

「えっ、もうないよ。ノゲさんが持って行ったからの」

「ノゲさんというのは?」

「銀行家でな、モウエ銀行総裁のお子さんじゃ。この2爆弾の出資者で、強力な魔力爆弾が必要だから使わしてくれと、わしに言って来たんじゃ、でそん時、便利だからと持って来てくれたのがその魔道具」

「……モウエ銀行の……」


 ソリーソは少し考えこんだ。


 ロッサは話している2人をボケっと見ていたのをやめ、窓の外に目をやる。


(あーこんな事してる場合じゃないんだけどなぁ)


 ロッサはファレナを思い浮かべる。


(どうしようホント……)


 心労は絶えない。答えはまだ決まっていない。


「リベルラさん、何ボケっとしてるんです。さあお暇しますよ」


 不意に呼びかけられて振り向くと、ソリーソは椅子から立ち上がって帰ろうとしている所であった。


 研究所を後にしたソリーソは、


「あのチュウって人――」


 とロッサに話しかけた。


「読心術で読んでましたけれど、別に嘘は言ってなかったですね、これからですが、ノゲ・レイって人を調べようとおもいます……気になりませんか、エネルギーを吸収してくれる魔道具とやら……」


 ソリーソは難しい顔をして顎に手を当てる。


「どうおもいます?リベルラさん」

「……」


 ロッサにソリーソの声は聞こえていなかった。返事もしないで明後日の方を向いているロッサを、ソリーソはしばらく見つめる。


「また悩んでるんですね」

「……えっ?」


 ロッサは自分の前に歩き出ながらそう言ったソリーソに気付いて立ち止まった。


「ねえ、一つだけ良い?」

「……なんです?」


 ソリーソはうじうじしているロッサに、はっきりと


「その人の事、処刑情報が間違ってるなんてありえません。それは神器マガタマが狂ったという事になります。それがどんな事を意味するか……教会の信頼は揺らぎ、教会が作ってきた世界の治安と安寧が崩れてしまうかもしれません……」


 ロッサはムカッと怒りが湧いてきて、


「そんなことわざわざ言わなくても良いですよ」


 語気を荒げてそう言うと、もうソリーソの話を聞かないように明後日の方角を向くと耳を両手で塞いだ。


「もし、そんな事があったとしたらヴェルデ博士の事件以来の大事件でしょう?あの時のようにまた――」


 その時、ソリーソはステンカラーコートの左の袖をめくって、埋められているひし形の緑の水晶をチラッと見る。


「……ごめんなさいリベルラさん」


 袖を直したソリーソは、明後日の方角を向いているロッサの心境を推し量って口を噤んだ。


「……そうだ」


 突然ロッサはぼそりと言った。


「一回会ってもらえませんか?会って心を読んでほしいんです」

 熱意の籠った目でソリーソを見つめながら、ロッサはそう言った。


「……良いですよ、じゃあ明日、ノゲ氏の調査が終わったら会わしてください」


 少し迷ったが、ソリーソは承諾する。


「……ありがとう」


 ロッサは自分の提案に少し後悔しながらお礼を言った。


「じゃあね、今日と同じ時間、昼食を終えたら私の宿までちゃんと来てくださいね、今日はおつかれ!」


 それだけ微笑みながら言うと、ソリーソはロンを唱え、天に伸びる緑の光に包まれると、ピロリン♪の音と共に上空高く飛んで、宿へと戻っていった。


(これで、決めれる。これで嘘をついていたら、迷いなくやれる……)

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