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リベルラ・ロッサ  作者: わをんわをーん
1章 
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処刑の夜


   処刑依頼

――マガタマより勅裁を得る

 死罪、又、捕獲し徒刑に処すべし

――ララからより情報を得る

 種、人間族。

 国、ガンキ国民。

 年、二十六歳。

 性、女性。

 名、スフマトゥラ・コロレ。

 罪、キンナ博物館に侵入し、魔道具ペンゼを盗んだ後、十人を殺害。

――教会からの補足

 魔能力は不明です。殺害された者の内六人は胴体を切断されている状態で見つかっていますので、十分注意して下さい。



 夜明けが近いはずだが、まだその兆しは見えない田園の小道で、処刑人リベルラ・ロッサの左腕の腕輪の水晶全体が、激しく緑色に点滅し辺りを激しく照らしている。


 大きなポケットが四つ前部に付いた黒のジャケットに足拵えだけして、風呂敷を小さく西行背負い、左腕につけた鋼の腕輪の他、腰には荘重な刀を差した出で立ち。


 彼と対面しているスフマトゥラ・コロレは、つばの大きい白の帽子で隠して、白のタイトスカートドレスを優雅に着こなし、背中に身の丈を越える大きさの木製のブーメランを背負っている。


 彼女はおもむろに、布でくるまれた大きな箱を春草が生える地面に置き、守るように前に出て右人差し指をロッサに突き立てた。


 にやりと笑って投降しない意思表示したコロレの、その腕にユニコーンの入れ墨しているのを、ロッサは鋭い目つきで見つめる。


 コロレは徐に、ブーメランの端を引っ掴んで、


「さあやろうか」


 ロッサの体に緊張が走る。


(……そうだ……やらないと……家で待ってるファレナのためにも、そして姉さんの期待に応えるためにも!)


 頬を叩いて気合を入れたロッサは、腕輪のスイッチを押して光を止めると、腰に差した刀の柄を強く握り、抜刀、


「すぐに終わらしてやる!」

「さあ!行くよ処刑人!」


 コロレは1回転して遠心力を付け、ブーメランを投げた。


 ブーメランの高回転して風を斬る音の凄まじく、空気を切り裂く甲高い乾いた音をあたりに響かせロッサに迫る。


(――ふんっっ!)


 屈んで何とか避けたロッサの耳元を掠り、老婆は後方へと過ぎていった。


(楽勝っ!)


 ブーメランは乾いた音を上げながら背後に一本生えていた細い木を切断して闇夜の奥へと飛んで行く。


(あんな巨大なものをこんな猛スピードで投げられる、魔能力は怪力タイプか?)


「さすが処刑人、楽々躱せれるか」

「ふんっ、そんなもの躱せないと……でも……おもった、か……?」


(あれ?バカなっ!?なんか痛い!?)


 ロッサは痛みのする耳元を急いで触って確かめた。


 すると、指先に見慣れない赤い液体がちょっと付いている。


(ああああああっ!?血が出てるぅぅぅぅぅ!?)


 耳元が少し切れて切れて血が滲んでいた。


 ヒリヒリ痛む擦り傷にロッサは動揺を隠せない。生まれて三度目ぐらいに見る血である。心臓がひんやりとしてきた。


(これってどれくらいで治るんだろう?……

――というか治るよな……?

 ……。

 ……いや何言ってんだ、ははは、治るに決まってるじゃないか……昔はそうだっただろう、おもい出せ……多分、そうだった……ああ、それにしても痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い。)


 ロッサは怪我の具合を確かめるように何度も傷口を恐る恐る触る。


 そうやって痛みと血に気を取られていて、猛スピードで戻ってくるブーメランに気づくのが遅れた。


「ぎゃあああぁ!」


 虚を突かれ、思わず悲鳴をを上げながらも、なんとか躱す。


 戻ってくるブーメランをコロレは左手一本で受け止めると、


「どうした!処刑人!」


 体勢を崩している隙を狙い立て続けに投げつけた。


「がぁああぁぁ!」


 ロッサは激痛と衝撃に悲鳴を上げる。体全体に激痛から痺れのようなものが一瞬で回り、硬直して身動きできなくなってしまった。


 弾き飛ばされていくのを、何とか動く意識で、剣先で地面をガリガリ、飛ばされるのを食い止める。


 地面に一本の線が引かれた。


(……くそ……気を取られた……)


ロッサは痛む体で素早くコロレの方へ向き直る。


(距離を離しては不利だ!)


 と一気に距離を詰めた。


(しっかりしろ!)


 喝を入れ、ロッサは刀を振り上げ、右足を強く踏み込んだ。


(いける!)


 迷いなく刀を振り下ろそうとした、その時、ロッサはコロレが、こちらを見てはないのにハタと気が付く。


 空気を切り裂く、鈍重な音が、たしかにロッサの右方から聞こえる――


「――ぐごぉぉあ!」


 猛回転するブーメランに衝突され、弱い独楽が場外へと弾き飛ばされるように天高く舞い、浮遊したのち、ロッサは錐揉みに落下していった。


「あーはっはっはっ!」


 コロレの勝ち誇った笑い声があたりに響く。


 ブーメランはコロレの回りをぐるぐるひとりでに飛んでいた。


 ロッサは苦痛の声を漏らしながら、刀を杖にしてヨタヨタと起き上がる。


 急いで衝突された右わき腹をジャケットの中に手を突っ込んで確かめると、赤い血が指先に付いた。


 傷は打撲で青くなって、擦り傷ができている程度であったが、ロッサにとっては痛くてたまらない。


(ああぁ……血が……こんなにも……)


 指先にちょっと付いた血を見て、ロッサは戦意を失った。


「さすが処刑人」


 コロレは飛び回るブーメランを捕まえると、


「普通ならば即死か、胴体が真っ二つになっている所。私のは魔能サイコキネシス、あんたのは何かしら?」


「……、ううぅ……くそぉぉ……」


(ああぁ……なんて事だ、油断した……サイコキネシスだったか……)


 彼にとっては、九歳の時友達とのケンカで魔能力<ケガしにくさ◎>が出現してから、これが初めての怪我である。


 六年ぶりの慣れない怪我、その経験しない痛さに、ロッサは泣きそうになるのを堪えきれず、目に涙が溜まったのが溢れ出てしまった。


「うう……うう……」


(今日こそはとおもったけど……やっぱり無理だぁ……)


 ロッサは、涙を相手に見せたくない一心と、怪我で死んでしまうのではないかという恐怖に、兇状持ちをほっぽり出してその場から全力で逃げ出して行く。


 コロレは追おうとしたが、役目を思い出してやめた。


(他の処刑人達がやってくる前に早く渡すもの渡してこないと……)


 振り返り、布でくるまれた大きな箱を見つめる。


(魔道具ペンゼ……早く私を無罪にしていただかないと)

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