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言い訳をさせて欲しい

私の母、ペリーヌは在野の学者で、いつも書物に埋もれていた。

母さんの実家は子だくさんの豪商。

8番目の娘だった母さんは、目こぼしされて自由気ままに学問をやっていた。

在野の学者って何かって?

国に仕えないで自分で研究をする人のことよ。

ハポン国では女が国に学者として仕えることができないのだ。

若い日の母さんはいつも言っていた。


「私が生まれていたのがメーユだったらねぇ……ハポンでは女が男文字や数字を書くことすら禁止されているから」


我が国ハポンには男しか書けない男文字と、女も書いていい女文字がある。

数字も女は書いてはいけない。

私はこっそりと母さんに全てを学んだ。

男文字は複雑だけれど、学んでしまえば読む本が広がって楽しかったし、数字を使った計算は難しかったけれど、魔法を学ぶのに便利なものだった。

そう、私は魔力にも恵まれていたのだ。

優秀な魔法使いで名をはせたおじいさまの隔世遺伝らしい。

そんな地味だけれど充実した毎日に、ある日突然終わりがきた。


「お前のような変わり者でもいいから、後妻に欲しいと言って下さる貴族様がいる。今まで好き勝手やって来たんだ、少しは家に尽くせ」


伯父さんが母さんをムリヤリ飾り立て、ついでに私もゴテゴテと飾られて、立派とは言えない館に連れてこられて、出会ったのは王族につながる由緒ある家柄だけれど、人の良さが災いして貧しく落ちぶれてしまった素敵なお義父さまとお義姉さま。

母さんとお義父さまは、最初こそ距離があったものの少しずつ歩み寄り、温かい夫婦となっていった。

一方、私はお義姉さまに夢中になった。

上品で、たおやかで、触れたら倒れちゃいそうなほど繊細で、美しい。おまけに優しくて思いやりがある。


(私もあんなふうになりたい)


憧れて、真似をし始めて、すぐに自分の限界を知る。

スウプの飲み方ひとつとっても、さりげなく椅子に座る仕草ひとつとっても、なに一つお義姉さまのようにはできない。

得意のはずの文字だって、男文字を書きなれた私の女文字は角ばって変だったし、お義姉さまの滑らかな女文字には遠く及ばなかった。


(せめて、着飾るしかない!)


けれど、哀しいかな、全然お義姉さまの着こなす昔ながらのドレスが似合わない。

悔しくて、愛が屈折し始めたのはこのころだ。


「お義姉さまより高い物をちょうだい!」


が、私の口癖だった。

金さえかければきれいになれる訳ではないと陰口を言う者をクビにしまくって、私はさらに暴走する。

最新のドレス、最高の靴やバッグ、装身具を次々と買って、煽情的なメイクと髪形を研究しほどこしていく。

知ってる?お義姉さま。流行って毎年変わるのよ。

知ってる?お義姉さま。男の人って磨けば磨くほど振り返るのよ。

スウプの飲み方がひらりひらりとしていなくても、椅子に座った時に小さく音を立ててしまっても、若い男の人は背の低い私が甘い香りを漂わせて腕に触れて見上げればそんなことはどうでもいいみたい。

あなたが一途に愛するエドモンドだってちらりちらりと私の胸元を見る時があるのよ。

それに気づいた私がエドモンドを誘ったらすぐに身体に乗ってきてしまった。


(ちょろいわ)


歯止めが利かなくなった私はエドモンドに私との結婚を持ちかける。

エドモンドは貞操観念もなかったけれど倫理観もない男だった。

何が良くて何が悪いか分からないのだ。

背中を押したのは私だったけれど、他の誰があらわれてもお義姉さまとは合わなかったと思う。


長い話になっちゃったけど、とにかく、言わせてもらおう。

ごめんなさい、お義姉さま。

私のこと嫌っているでしょうけれど、本当はよい義妹になりたかったの。

許して。

でもエドモンドは蹴り倒して破談してやった方がいいわ。

ごめんなさい、母さん。

きっと肩身が狭くなるでしょう。

やったことの意味や重みは取り調べられているうちに分かったので、ハポンには戻らずメーユで生き延びてみるわ。

ただしお義父さま、あなたはダメよ。

こんなにたくさんの金貨、ありがたいけどもうちょっと自分の総資産を考えなきゃ。

私に対する処分も帳簿の読み方も甘いのよ。


とにかく悪役令嬢は退場するのみなのです。

……正直、泣いちゃうくらい悔しいけどね!

これから一体どうすればいいの?

なーんてことをこの私が思い続ける訳がない!

さて、どうやって生きていこうかな!

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