保護者
やべー
保護者…ホコシャ?金のシャチ…?
いや、ホゴシャ、だよな?
「ぼ、ぼくの、保護者…?」
「そ。なんか、お前、変なツボとか売りつけられそうだから。何か困ったことあってたら、俺に言えよ?セールスとか追っ払ってやるから」
「は、はあ」
保護者をゲットしました。
大学2年の夏。
お父さん、お母さん、僕には第2の父?母?が出来たようです。
これからも、二人のことは大切にしますが、僕には他にも大切にしたい保護者が…
「んじゃ、行くか」
気が付けば、二次会会場へ連れて行かれていた。
キリに掴まれた腕が熱くて、とてもじゃないけど、振り払えなかった。
「よーし、歌うか」
普段なら絶対参加しない二次会に、いつの間にか参加決定していて、そうして僕はキリの隣に座っている。
カラオケボックスのソファでキリとも体の左側がくっついている。
「なに歌う?」
体の左側にばかり気を取られていたから、急に聞かれても、何も答えられなくて
「えっと、あの、僕、あんまり」
「じゃあ、俺とな」
左側のすぐ近くから掛けられた声に、胸が高鳴り過ぎて、頷くしか出来なかった。
キリの体温で、茹だりそうな僕に、いつの間にかマイクが回ってきた。
とりあえず右手で持つ。これなら出来る。
ずっと俯いていた顔をそっと上げて、チラッとキリを見ると、僕と目が合う。
胸がギュウーっと締め付けられた。
「これは知ってるよな?」
画面を指差されて、この時初めて、これから二人で歌う曲名を知った。
某有名アイドルグループの代表曲。
これなら、僕も歌える。かな。
「う、うん、たぶん…」
僕の返事に安堵したように笑うキリ。
曲が流れると、僕から視線を外して画面を見ながら、低くて綺麗な声で歌い始めた。
僕は、ついそのままキリに見入ってしまって。
「歌え」
肘でキリにつつかれるまで、ぼんやりしていた。
「ひゃっ、ごめんなさいっ、えっと…♪ことさえも〜」
ようやく歌い始めた僕に、キリがクスっと笑ったのが分かった。
僕は見惚れてたことにも恥ずかしくなって、俯きたかったけど、俯くと歌詞が分からないから、なんとか頑張って歌いきった。
涙目になってたと思う。暗いから、皆にはバレてない、と思いたい。
それにしても…初めてじゃなかろうか。
人前でカラオケを歌ったのは。
なにせ、今まではあんまりこういう場にも出て来なかった。
おかげで、僕はヘロヘロに疲れていた。
「どした?疲れた?」
キリが、僕のほっぺたをつついてきた。
ぼんやりしていた僕は、急いで姿勢を正して
「ぜっぜんぜんっへーき!大丈夫!あ、です!」
ついタメ口になったことに気が付いて修正すると、ふっと笑ったキリが
「敬語禁止。保護者だから」
そう言って僕の真っ赤になってるだろう耳を軽く引っ張って囁いた。
「ーっは、はひっ」
僕の全身から湯気が出てるかもしれない。
いや、間違いなく出ている。
というか、血液が蒸発してしまったんじゃないだろうか。
だって、心臓がこんなにドックンドックンするのはありえない。
僕の体はどこかおかしいんじゃないだろうか。
これは、あれだ。
おかーーーーさーーー!ーーーん!!!!!
僕、トキメキ過ぎて死にます!!!!
犯人は、この人です!!
ダイイングメッセージ残します!!!
息子の早すぎる死を許して下さい!!!!
そう胸の前で両手を組んで母に祈った。
仕事遅刻する