ときめいてます
R指定無しで書く初のBL です。
うまくいくか、わかりませんので、生暖かい目で宜しくお願いします。
「あ、髪に何か付いてる」
キリが、僕の髪をスルッと撫でて、何かを取ってくれた。
そんな些細なことで、胸がギュッとなる。
「ありがとう」
出来るだけ、気にしてないように振り返って少し笑う。
大丈夫、大丈夫。普通に返せたはず。
「俺、コンビニ行くけど、ミノルはどーする?」
二人でコンビニ…
「えっと、今、お腹空いてないし、いいや」
自然に笑えてるかな。
「おー、じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
寂しい、けど、このやり取り…
新婚さんみたいやないかーーーい!!!
にやけそうになる表情筋を叱咤して、特に興味無さ気に振る舞う。
近くにある雑誌をペラペラ捲っているうちに、アパートの玄関の扉がバタンと閉まった。
近くのクッションを急いで手繰り寄せて、そこに顔を埋めて叫ぶ。
「……あーーーっ!もう、好きすぎる!!なんだよ、髪触るとか、もう、もう、ときめくだろ!!二人で深夜にコンビニなんて、そんなの、そんなの…結婚してるみたいじゃないかーーー!!!」
ハアハア、と息も絶え絶えになるまで一息でクッションに吸い込ませた。
あー、今日もキリが好き過ぎる。
そして、どこまでも僕を翻弄してくる。
今日から、二人で暮らすようになったアパートの一室で、僕は前途多難だな、と独り言ちた。
出会いは、大学のアングラ系サークルだった。
僕は恋愛経験が無くて、本当に自分が何なのかわからなかった。
女の子が好きなのか、男が好きなのかさえ、本当に分からなかった。
誰も好きになったことが無かったから。
そんな自分に自信が持てなくて、いつも下を向いて人と視線を合わせないで生きていた。
「何見てんの?お前」
ふいに頭上から降ってきた声に、パッと上を見たら、そこに居たのは明るめの茶髪をツーブロックにして、テロテロした素材の紫色のシャツを着た、垂れ目の男だった。
急に話しかけられて、ドギマギしながら、僕は辿々しく自己紹介した。
「あっ2年の、佐藤みのるですっ、すみませんっ」
顔が赤くなる。いつも、こうだ。誰かと話すと顔が紅く染まって恥ずかしくて、恥ずかしくて、やっぱりこんなところ、僕には無理だったんだ
「俺、3年。桐山だから、キリって呼んでよ」
優しい声に、また俯いていた顔が自然と上がった。
「き、キリ、先輩…?」
「ぷはッ」
急に笑われた。けど、全然嫌じゃなかった。
むしろ、その笑顔に胸がキュウッて絞られるような感覚になった。
「先輩付けとか、このサークルで誰一人してねーわ。いいからいいから、キリで呼んで?ミノル」
ツン、と頬を指でつつかれた。
頬を、指で、つつかれた。
ミノルって、ミノルって、名前で呼ばれた…
親以外に、生まれて初めて、ミノルって…
「なあ、ミノルって出身どこ?」
「えと、地元、です…」
フワフワしたまま、何となくで質問に答えていく。頭の中が、お花畑になったみたいに、浮かんでる。
「へー、じゃあ、実家から通ってんの?」
「あ、いえ、実家が田舎過ぎて通えないので、その、大学近くでアパート借りてて…」
俺の答えを、たどたどしい返事を、興味深そうに聞いてくれていて、それだけで全身が熱くなってしまう。
「ふーん、俺もアパート借りてる。県外だからなー。バイトは?」
次から次へと質問を投げ掛けられることに慣れていなくて、しどろもどろになりながらも、何とか答えていく。
「あ、えと、今は家庭教師と、ファーストフードのキッチンでバイトしてて…」
「へー、どこの店?」
レスポンスが速い。なんていうか、パソコンより速い。
頭がついていけなくなってる。
「えーっと、大橋店っていうところで、大学からは少し離れてて、近くに映画館がある…」
「あ!わかった!あそこの角のとこな!俺、この前、行ったわ、あそこ」
嬉しくて握る手が汗ばむ。
共通点があったことが、とにかく嬉しくて。
「俺、あそこのポテト好きなんだよなぁー。先週の金曜って、バイト入ってた?夕方くらい」
急いでバイトのシフトを思い出す。
思い出せ、僕!記憶を辿れ!
「その日は、入って無かった、です…」
せっかくの共通点が、無くなってしまった。
ショボンとして答えると、背中を軽く叩かれた。
「じゃあ、今度、ミノルがバイト入ってる時に行くわ。ミノル作ったポテト食ってみたいし」
笑顔が至近距離にあって、そんなことを言われて
…胸を、胸を撃ち抜かれました。
誰か救急車をお願いします。
「ミノル、全然食ってねーじゃん。ほれ、これうまいぞ」
口に無理やり押し込まれた手羽先をもぐもぐ何とか飲み込むと、頭をポンポンされた。
「小動物みたいだな、お前。かわいー」
か、か、かわ、かわい
かわいいって言われたーーーーー!ーーー!!!
おかーーーーさーーーーーんっ!!!!!
僕、生まれて初めて、お母さん以外から、かわいい頂きましたーーーーーーーーー!!!
「んぐっ、ごふっごふっ」
喉に手羽先詰まりました。
「大丈夫かよ、ほら、これとりあえず飲め」
口元に出されたのは、キリの飲みかけのソフトドリンク。
えっこれ、間接…
ええい、男は度胸だ!お母さん!
「全部飲んでいいよ。ほら、ゆっくり飲めって」
なんだろう、飲むごとに胸がドキドキするけど。
惚れ薬入ってる?この飲み物に、そんなファンタジーな薬入ってる??
隣からじっと見られるのも手伝って、全身が真っ赤になってる、たぶん。
「よしよし、おさまったか?大丈夫?」
また頭を撫でられる。
涙目でキリを見ると、ふわっと笑われた。
「なーんか、あぶなっかしいな、ミノルわ。俺、保護者になってやるわ」
うん、わからん。