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メートル法VSヤードポンド法

「あのような男をサイボーグ化させて、あなたの目的はなんですか?」

「別に深い理由はないわよ。そうすると面白そうかなって思っただけ。私はね、他人の不幸がとっても好きなの。最初にやった”いたずら”は今でも覚えているわ。帝国の軍事ネットワークにウィルスを流したら、ヤードポンドモンスターが暴走してもう大爆笑よ」

「あなたの人格には致命的欠陥がある」

「そうでもないわよ。だってよく言うじゃない。他人の不幸は蜜の味って。そもそも知性とは悪事をするためにあるものよ。むしろ私のほうが自然じゃない?」


 アコンプリスはクスクスと邪悪に嗤う。


「だから私は帝国が滅びた後、心に決めたの。見込みがある人の悪事を手助けする共犯者(アコンプリス)になろうって。それこそが私の全うすべき責務にして幸福よ」


 もはや完全な狂人だ。サイドアームはこれ以上の問答は不毛だと判断する。

 サイドアームは〈炎の魔法:鳳の型〉を放った。彼女が実行可能な最大級の攻撃だ。

 だがアコンプリスは全く避ける素振りを見せなかった。

 火の鳥がアコンプリスに命中し大爆発を起こす。


「すぐ勝負を決めにかかるなんてせっかちね。少しくらい戦いを楽しんだら?」


 アコンプリスの声が聞こえてきた。彼女は魔力によるバリアを使っていた。


「私はあなたにない機能を持っている。あなたの魔法威力ではこの魔力バリアを打ち破れない」

「……」


 魔力を消費している以上、何度も攻撃すればバリアは消えるだろう。しかしそうなる前にサイドアームの方が魔力切れとなる。

 サイドアームに搭載されている各種センサーは、アコンプリスのほうが貯蔵している魔力量が多いと示している。


「ヤードポンドスレイヤーに助けを求める? 別にいいわよ。ライデンがそんなことさせ無いと思うけど」


 無論そんなつもりはない。

 サイドアームは〈土の魔法〉を使って地中の砂鉄から鉄串を生成し、それを〈念動の魔法〉で高速投射する。

 だが鉄串は魔力バリアに刺さるだけで、アコンプリスには届かない。


「無駄よ。このバリアは物理的な攻撃も防げるの」


 アコンプリスが〈電撃の魔法:手裏剣の型〉で反撃してくる。

 襲いかかる何十枚もの電撃の手裏剣を必死に逃れようとする。


「ほらほら、頑張って走らないとあたっちゃうわよ」


 だがサイドアームもただ闇雲に走り回っているわけではない。電撃の手裏剣を避けながらも、ある場所へ向かっていた。

 それは先程ラムダが倒したバスターリザードの残骸だ。

 サイドアームは〈工作の魔法〉を使って、バスターリザードからパイルバンカーを取り外して自分の腕に装着させる。


「そんな玩具で私を倒せると思っているの!?」


 余裕ぶっているように見えて、その嘲笑に僅かな焦りがあった。

 事実、鉄串は魔力バリアに”弾かれず突き刺さった”。刺さったのなら、ならより高い貫通力を持ってすれば突破は可能!

 アコンプリスは〈炎の魔法:火球の型〉を多重発動させて、数発の火球を生成する

 だが、遅い。

 サイドアームは地を蹴ると同時に、自分に〈念動の魔法〉を使った。物体を操作する運動エネルギーが彼女の脚力に上乗せされ、火球が放たれるよりも前に間合いを詰めた。


「しまっ!」


 激発音が轟く。

 特殊合金製のパイルがアコンプリスの胸を貫いた。


「ああ、もっと悪いことをしたかったのに」


 敗北を悔しがるよりも、もう悪事を行えないのを惜しみながらアコンプリスは物言わぬ人形となった。



 戦いはライデンが一歩優勢だった。

 ラムダのパワードスーツとライデンのサイボーグボディでは後者が僅かに性能で勝っている。


「ほらほら、どうした! 頑張らねえと死んじまうぞ!」


 もてあそぶようにライデンは〈ヤード原基の魔剣〉を振るう。

 ラムダはパワードスーツのスラスターを逆噴射して剣の間合いから離れようとするが……


「逃がすかよお!」


 ライデンの左腕が武器に変形する。

 直後、ラムダの体に凄まじい衝撃が襲いかかる。攻撃されたのだ。


「はっはー! すげえだろ! このレールガンってやつは! 帝国じゃ俺みてえな〈電撃の魔法〉の使い手は雷の力で弾を飛ばしていたらしいぜ!」


 貫通こそしなかったもののパワードスーツの胸部に大きなひび割れが生じている。次に命中したら命はないだろう。


「安心しろ、ラムダ。てめえを殺すのは最後にしてやる。その前にてめえの目の前であのサイドアームとかいう人形や、メートル法のクズどもをなぶり殺してやるよ」

「なんだと?」


 その時、ラムダの胸中に火が灯った。

 怒りの火だ。


「お前には無理だ」

「ああ!?」

「俺がこの場で殺す」


 火はより大きくなり、炎へと変わった。殺意の炎へ。

 これまでラムダは殺意を抱いたことはなかった。戦うのは自我なき機械であるヤードポンドモンスターで、殺意など持ちようがない。

 今は違う。愛する同胞におぞましい悪意をむけんとするヤードポンド法の外道を誅する。その必殺の意思がラムダに宿った。

 ラムダは真なるヤードポンドスレイヤーとなったのだ。


 スラスターでヤードポンドスレイヤーは再び間合いを詰め、袈裟懸けの一撃を繰り出す。

 ライデンはぎょっと目をむきつつもとっさに防御する。

 驚かされたのを屈辱に感じたのか、ライデンは獣のような唸り声を上げながら乱暴に魔剣を薙ぎ払う。

 ヤードポンドスレイヤーは自らの魔剣でそれを受け止める。

 メートル法とヤードポンド法、二つの魔剣の激しい打ち合いが始まった。


「レールガンにビビって剣なら勝てるとでも思ったのか!? 俺のほうが性能は上等だってのをもう忘れたみたいだな!」


 ヤードポンドスレイヤーは無駄口を一切叩かず、剣戟に集中する。

 しだいにヤードポンドスレイヤーはライデンの攻撃を防御ではなく、回避で対処するようになってきた。


「ちょこまか動きやがって!」


 ライデンが乱暴な横薙ぎの攻撃を繰り出す。

 ヤードポンドスレイヤーは一歩後ろに下がるだけで避けた。敵の魔剣の切っ先がわずか5mmのところで喉元を通り過ぎる。

 以降、ヤードポンドスレイヤーはライデンの攻撃をことごとく紙一重で回避する。

 それはギリギリの対処ではない。明らかに余裕のある紙一重だ。


「ちきしょう! なんで当たらねえんだ! てめえ、新しい魔法でも身につけたのか!?」


 ライデンの言葉の直後、ヤードポンドスレイヤーはレールガンが内蔵されている彼の左腕を切り飛ばした。


「新しい魔法なんてないさ。以前と変わらず、俺が使える魔法は〈測量の魔法〉だけだ。だがライデン、この魔法は間合いを測るのに何かと便利だぞ」


 〈測量の魔法〉であらゆる物体の長さや距離を正確に感じ取れるヤードポンドスレイヤーはそれを接近戦に応用する術を身に着けていた。

 したがって戦いの中で相手の行動の癖を覚えれば、ヤードポンドスレイヤーはたやすく攻撃を回避できる。

 ライデンは剣の腕に関しては最低限”一人前”程度。単純なパワーやスピードで勝っても、達人の域に有るヤードポンドスレイヤーを圧倒できない。


「それがどうしたってんだ! お前の攻撃が俺に当たらなければ意味はねえ!」

「当てられるさ。お前は俺の攻撃を避けられないし、防御だってもう無意味だ」


 ヤードポンドスレイヤーは戦いの中で一つの確信を得ていた。

 〈メートル原器の魔剣〉を大上段に構える。駆け引きもなにもない。ただ全力の一撃を振り下ろすのみ。

 ヤードポンドスレイヤーがスラスターを併用して踏み込む。


 いくら剣術の腕に劣るライデンでも、真上からの攻撃だと容易に予測し、〈ヤード原基の魔剣〉を横向きに掲げて防御しようとした。

 〈メートル原器の魔剣〉が〈ヤード原基の魔剣〉とぶつかる。

 その瞬間、〈ヤード原基の魔剣〉が真っ二つに折れた。


「馬鹿な!? 魔剣同士じゃ能力が相殺されるはず!」


 無論、そのとおりである。事実、最初の打ち合いではそれぞれの魔剣が持つ、敵対する単位を殺す能力は発揮されなかった。

 だがそれは力の大きさが拮抗していた場合に限る。

 真のヤードポンドスレイヤーとして覚醒したことでラムダは魔剣からヤードポンド法を殺す力をより多く引き出せるようになっていた。

 一方で、ライデンは魔剣を与えられただけで、メートルスレイヤーになりきれてない未熟者。

 二つの力がぶつかりあえば、負けるのは弱い方。自明の理である


「ま、待ってくれ、仲間だろ」


 ライデンの浅ましい命乞いに耳を貸さず、ヤードポンドスレイヤーは無慈悲に敵の首を刎ねた。


「終わったようですね、ラムダ」


 見ればサイドアームもアコンプリスを倒していた。


「ああ、そっちも無事で良かった」

「言ったとおりでしょう?」


 胸を張るサイドアームの姿はたまらなく愛しかった。

 彼女とメートル法の民のためなら、命が続く限り戦い続けようと、ラムダは改めて心に決めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤードポンド法死すべし、慈悲はない [一言] 楽しく読ませて頂きました 国際ヤーポンを倒したので 第二の刺客としてイギリスヤーポン 次にアメリカヤーポンを消滅させる必要がありますね
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