Fクラスの教室
じじいを尋問するのはアリスたちが目覚めるか、俺がスキルを正常に使用できてからがいいだろうと判断した。
警察になんて引き渡すわけない。
じじいとの戦いは楽勝に見えるが、実際は紙一重であった。
本来、戦いに備えたBランクに俺の攻撃が通じるわけない。
だから、意識の虚をついて人体の急所を攻撃をしたわけだ。
次に戦っても勝てる保証はない。
何事も万全の状態で挑まなきゃな。
ちょっと学校に遅れちまったけど、バイト先の冒険者ギルドに頼んでじじいを拘束してもらった。
ギルド長は――
『ちっ、しゃーねーな。てめえの頼みだ。てめえが仕事すると売上が上がるから、来月は真面目に働けや』
というわけで、今日の夜にでもバイト先に向かおう。
バイト仲間と尋問の時間だ。ちなみにヒカリも同じバイト仲間である。
そんなヒカリと俺は昼休みだ。
流石に中庭はミヤビと会う可能性が出てくるから、今日はおとなしく教室で飯を食っている。面倒はごめんだ。
俺たちがいま食べているのは東方国家由来のおにぎりというものだ。
具材を米で包んだもので、手軽に食べられるから気に入っている。
ヒカリは大きなおにぎりを頬張りながら今日の授業の復習をしている。
「うーん、魔法授業っていまいちわかんないんだよねー。魔力ってなにさ。私、ほとんど魔力ないから意味わかんないよ」
「んあ? 俺だってファイアーボールだってまともに打てねえよ。どうせ騎士になるつもりないからいらねえんじゃね?」
「あ、そっか。でも留年したくないから、お勉強頑張る!」
この国は王国や超大国みたいに魔力を重視していない。どちらかというとスキルの有無と個人の強さの方が大事だ。
さっき戦った糞じじいレベル――B−ランク相当だと、仕事に困ることはない。帝国近衛兵や帝国騎士にはなれないけど、帝国兵や冒険者として働く事ができる。
ランクの格の違いは大きい。ランクAにとって、ランクBは雑魚である。それだけ力の隔たりがあるのだ。
「ていうか、相変わらず騒がしい教室だな……」
教室を見渡すと、クラスメイトが友達と楽しそうに話している。
チラチラを俺を盗み見る奴もいる。
「……ねえねえ、やっぱりマサキ君ってミヤビさんと付き合ってないんだって」
「うっそ、よりを戻したって聞いたのに?」
「わ、私、実は……夜の帝都でチンピラ冒険者に絡まれた時……マサキ君に」
「あ、私も助けてもらった事あるよ!」
「珍しく教室にいるから……話しかけちゃう?」
……おかしい。俺はあまり好かれていなかった覚えがあるんだが? 何故こんなことになっている?
『はい、推測ですが、偽装スキルによってご主人様の魅力も抑えられていたと。偽装が無くなった現在の姿はとても素晴らしく――』
はいはい、お世辞はいいよ。って、偽装でそんな効果もあったんだな。
どうせ話しかけて来ないだろ。俺とヒカリは底辺の中の底辺と思われているし。
話しかけて来るのは、パシリにしようとするジャイアと、威圧的なサナエと――
「マサキ!! あんたまた喧嘩したんだって! マジ最悪じゃん! あ、あんたが悪事をしないか私が見ていないとね!!」
……正義感が無駄に強いクラス委員のテツコだけだな。
クラス委員長なのにギャルっぽいテツコは顔を真っ赤にさせながら俺の横に立つ。
いつも顔を赤くして怒っている感じだ。ていうか、俺は何もしていないのに……。
テツコが来ると――
「ちょっと、テツコ! 底辺の面倒は私がみるわよ! あんたは引っ込んでなさいよ! わ、私がマサキの監視役なんだから!」
「はっ? 超うざいじゃん。ダンジョン三層で気絶しておしっこチビッたサナエなんて役に立たないじゃん! マサキは――」
「がはははっ! マサキ、俺のジュース買ってこいよ! あっ、金は手間賃として倍払ってやる! 俺様の言うことを聞きやがれ! ヒ、ヒカリ、お、俺も横に座っていいか?」
「うーん、ファイバーボール! あっ、少しだけ炎が出た!」
「あちちっ!? お、俺の制服が!!」
ヒカリが放った魔法がジャイアの制服に燃え移った。ジャイアは転がりながら火を消そうとする。非常に滑稽だか仕方ない。
教室でジャイア達が俺に声をかけてくるのは珍しいが、きっと今朝の事を気にしているんだろう。俺とヒカリがAクラスに絡まれていたのを見てみぬふりをしたことを。
ったく、お前らには関係ないから気にする必要ないのにな。
こいつらは底辺だから底辺の気持ちがわかる。まあ、なんだ、強気な口調だったりするが、本気で俺を見下しているわけではない。優しい奴らなんだろうな。
俺は立ち上がった。
「しゃーねーな。ジャイア、金よこせ。買ってきてやるよ。ヒカリ、ちょっと購買行ってくるからおとなしくしてろよ」
俺はそう言って一人教室を出た。