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落第生の生き様


 遠くでジャイアとサナエの姿が見えた。

 俺とヒカリを見つけると何故かあいつらは笑みをこぼして駆寄ろうとしたが、ミヤビたちを見て足を止めた。

 ジャイアとサナエは苦々しい顔を下に向けて通学路の隅っこを歩く。


 それが正しい選択だ。俺たちFクラスが他のクラスに関わると碌な事が起きない。

 Fクラスは最底辺だ。俺はFクラス内で馬鹿にされるが、Fクラスのみんなは他のクラスから馬鹿にされる。


 ジャイア達を目で見送ったあと、俺は現実に引き戻された。

 ミヤビがタンゲに威圧をかけていた。


「タンゲ君、マサキは私の大切な幼馴染なのよ。彼があなたに何かしたの? ねえ、答えて」


「い、いえ、そ、それは、わ、私は彼に教育をしようと……」


「教育? 同じ学生なのに? ……確かにFクラスの生徒は弱いけど、一人の人間としてちゃんと見てあげて頂戴。強者が弱者を守るのが常識でしょ? 私達にはその義務があるわ」


「は、はあ……」


 俺の横にいるヒカリを見ると嫌そうな顔をしていた。

 俺も同じような顔をしているだろう。

 ミヤビは俺をかばっているように見えて、ナチュナルに俺を見下している。


 タンゲは悔しそうに俺をにらみつける。

 いや俺のせいじゃねえだろ!? お前が勝手に絡んできただけだろ!?


「こ、この男が、我がAクラスのリーダーであるミヤビ様に馴れ馴れしいのがたまらなく我慢出来ません。い、いくら同郷だからと言っても限度があります」


 まあな、この帝国騎士候補生学校では強さとランクが序列を作っている。

 最高位が最底辺に優しいなんて聞いたことがない。

 俺もAクラスを目指そうと努力したが、いつも期末テストで邪魔が入る。


 ある時は大人数で闇討ちされて腕を骨折してテストを受けられなかった。

 痴漢の冤罪にかけられてテストに間に合わなかった。

 普通にテストを受けられた時も、あとからカンニングとマジックアイテムを使ったと言う密告をされたり……。



「だから、マサキは私の恋人なのよ!」

「し、しかし、それは去年に別れて、レオンハルト様とお付き合いを……、その後ハヤト様やルドルフ様と……」

「はっ? マ、マサキの前で嘘言わないで頂戴!! あなた、私のパーティーから抜けたいの?」

「そ、そんな事は……、し、失礼しました……。くっ」


 いやいや、俺の事をすごい勢いで睨んでくるけど、俺は関係ねえからな!

 それに、俺はミヤビをかまっている暇なんてない。黒い男と俺のスキルについて考えなくてはならない。


 それにミヤビとの関係は俺の失恋で終わった事だ。

 ミヤビは他に男を作った。俺は一年かけて傷を癒やし、それでもミヤビが他の男と歩いているのを見るとまた傷が広がったり……。


 もう俺を振り回さないで欲しい……。

 あー、本当に面倒くさくなってきた。


 ヒカリは俺の変化に気がついた。


「あ、マサキ、暴走しちゃだめだよ! ほ、ほら、教室行ってUNOしよ!」


 ヒカリの声で頭が冷える。

 やばいやばい、こんなところで暴れちゃまずい。


「んじゃ、遅刻したくないから俺は行くぜ」


「待ちなさい、マサキ! そもそもあなたがはっきりしないから悪いのよ! そうよ、全部マサキが悪いのよ……。あなたがもっと頑張ってくれたら……」


 その言葉を聞いて俺の心が冷え切ってしまった。

 俺は努力した。だが、俺の事を見向きもしてくれなかった。

 俺にも悪いところがたくさんあったかも知れない。

 だが、教会での誓いは裏切られた……。ミヤビを恨まないように自分が悪いと思うようにした。

 心が荒まないように楽しく過ごしているフリをした。

 どうやら、ちゃんと言わなきゃ駄目なようだ。


 俺は立ち止まった。

 そしてミヤビを見つめた。


「あっ、マサキ、わかってくれたんだ……」


「……俺は捨てられたんだ。頑張ってミヤビを忘れるように努力した……。悪いが、ミヤビとよりを戻す事は二度と無い。あの苦しさを二度と味わいたくないんだ……。消えてくれ……」


「え……、マサキ……、そ、それは……」


 ミヤビが涙目になり、取り巻きの女子にすがりつく。

 取り巻きからは敵意の眼差しで一杯であった。


 ヒカリがひとり愚痴る。


「うーん、他の人と付き合ったけど、やっぱりマサキが一番良かったっていうのは都合が良すぎるんじゃないかな? まあどうでもいっか!」



 俺とヒカリは学校に向かおうとした――が、見えない壁があって先に進めなかった。


『――不可視の結界を張られています。現在のご主人様の力では破壊不可能です。敵が後ろから迫っています』


 後ろを振り返ると肌が黒いじじいが現れた。








「このぉぉぉぉぉ、スバル様のご帰還が遅いと思ったら何故貴様がここにいる? スバル様はどこじゃ!」


 ――スバルって誰? 


『ダンジョンで出会った男だと推測します。黒い男は帝国ランクだとA+ランク相当の強さでした。現在対峙している黒い爺はB−ランク相当です。従者だと推測します』


 ああ、やっぱりこの前の男はAランクオーバーだったか。絶対勝てないと思ったもんな。

 多分俺の千倍強かったと思う。そう考えるとアリスとビビアンってやべえな。あれで本調子じゃないんだろ?


 突然の乱入者にミヤビとその取り巻きが身震いをして動けなくなっていた。


「な、なに、あの殺気は……、や、やばいわ。私たちよりも遥かに強者じゃない……」

「ミ、ミヤビ様、逃げましょう! あ、あの下等なFクラスの奴らを置いて――」

「ナニコレ!? 結界じゃん!! 逃げられないよ!」

「待って、あいつのヘイトってFクラスのクズ男に向いてるじゃん! なら、囮にして――」


 散々な言われようだ。

 まあFクラスだから仕方ない。


『ご主人様、眷属が休眠しているので、撤退を推奨します。眷属の力を十全に発揮できるのはあと12時間ほど必要です。ですので、今のご主人様の力は以前と変わりません。現状ではあの男に勝てる術がありません。先程の女性たちを囮に――、結界は誰かの魂を力へと変換して――』


 それって、あれか? 俺がミヤビ達を犠牲にして逃げるって事か?


『――この状況では仕方ありま』


 俺は心の中で大声で叫んだ。


 ――うるせえ、黙れ……。なんで俺があの女を犠牲にして逃げなきゃならねえんだ。ていうか、これは俺の問題だろ? なら俺が解決するしかねえだろ? システムさんは黙って見てろ。


『――っ、し、しかし……』


 意識をじじいに向けると、俺に超殺気を放っていた。

 ミヤビ達は動けないでいる。アリスとビビアンが起きる気配はない。

 ヒカリだけが俺の横に移動してきた。


「ねえねえ、マサキ。また喧嘩? 昨日は絶対勝てないと思ったから死ぬ気で向かったけど……、今回はどうするの?」


「んあ? まあいつもどおりだな」


「ん、了解!」


 じじいが俺に向かって叫ぶ。


「おい、わしは貴様に言っておるんじゃ! 女神教の幹部であるスバル様をどこにやった!! 貴様は生かして攫う予定だが、返答次第では痛い目をみるぞ!!」


「うっせーじじいだな。マジ女神教ってやばいな、ヒカリ」


「じじいうざい。……またマサキを攫おうとしているよ。……あれ、すごくムカつくのに【暴れるモノ】が発動しないよ? すごい! 理性保ってるよ!!」


「あ、ああ、説明してなかったな。後で説明してやる」


 じじいが鬼の形相をしながら剣を抜いた。

 その威圧はB−にふさわしい力であった。

 ここにいるAクラスのトップであるミヤビでさえ勝てないだろう。


 そんなミヤビは――


「わ、私がマサキを、ま、守る……、い、いや、止めないで!!」

「待ってください、ミヤビ様!! あのじじいに勝てるわけないです!」

「そうですよ! あれって帝国ランクB近くだってばよ!」

「俺たちが目的じゃないならおとなしく――」


 アイツらを意識から外した。

 温厚な俺もいい加減ストレスが溜まっていたんだ。

 ちょうどいい。このじじいを生け捕りにして情報を奪おう。


『否、それは不可能だと――』


 だからてめえは黙って見てろ! 俺にだって特技があるんだよ!! いま見せてやるよ!





 そんなやり取りをしていたら、じじいが俺めがけて剣を振りかざした。

 かなりの腕前だろう、剣速が尋常じゃない。


 だが――


 俺はじじいの細かい動きを先読みして動く。そしてじじいの剣を紙一重で躱して、じじいの腕を優しく触るように取る。

 その瞬間、じじいが宙に舞った。

 これが俺の努力の結晶だっての! 技を磨き続けたんだよ! 

 逆さになったじじいの呆けた顔から声が漏れていた。


「はっ?」


『――はっ?』


 なんでシステムさんまで驚いてんだよ。


「グッドだよ、マサキ!」


 ヒカリはどこからか取ってきた大きな石をじじいの顔面めがけて叩きつける。

 じじいは激しく地面に打ち付けられた。

 俺は走りながらじじいの喉を蹴りつける。


「ぐふっ……」


 これで厄介な魔法の詠唱が出来ないはずだ。

 流れるような動きで腕を逆に取り、一瞬で関節を破壊する。


「ぐぎゃ!!? 〜〜〜〜っ!?!?」


 痛みが思考を停止させる。じじいの判断力を奪う。

 そのままじじいの後ろを取って渾身の力で首を締め上げた。

 じじいはタップしたが、俺は気にせず力を込め続ける。

 殺らなきゃこっちが殺られるんだよ。


 そのうちじじいの口から泡が出てきて、身体の力が抜けていくのがわかった。

 だが、ヒカリは追撃をやめない。そうしないと、もし死んだふりだったら俺たちが殺られるからだ。


 誰かがポツリとつぶやいた。


「――あ、結界が壊れた……」


 俺はじじいの頭を掴んで顔を確認した。

 ――ふむ、やっぱり知らない人だな。やっぱランクBだと油断ならないわ。


 普通に戦ったらFクラスでFランクの俺たちは負ける。だがら油断してる初めが肝心なんだよ。

 俺は最後の締めにじじいの頭を地面に叩きつけた。

 意識が無い時が防御力が一番低い。止めに最適だ。


 バキッと頭蓋骨の割れる音が響いて、この戦いが終わった。


 ――ったく、だから言っただろ? この前のやつは絶対勝てないけど、ランクB程度との喧嘩は慣れてんだよ。超戦ったからな。


『……た、大変失礼しました。わ、わたしの計算ミスです。感服いたしました。流石【覇王】の持ち主です、スキルを使わずにBランクを叩きのめすとは……。わたし如きでは計算が――』


 いいよ、これから勉強してね。っていうか、なんか周りの視線が……。


 俺がじじいを投げ捨てると、ミヤビたちは怯えながら後退る。


「ひ、ひい……、じ、実戦でランクBを瞬殺だと!」

「あ、う、噂って本当だったかも知れないじゃん……」

「Fクラスに喧嘩が恐ろしく強い生徒がいるって……」

「いやいや!? 彼って存在力5しかないんだよ?」

「偽装? それにしたって……」


 俺はミヤビたちに一声かけた。


「おい、俺を囮にして逃げようとしたやつら。早く学校へ行ってくれ。俺たちは警察を呼ばなきゃならん。ほら、しっしっ」


 ミヤビは複雑な顔をしていた。一瞬だけ俺に向けて手を出そうとしていたが、それを引っ込めた。


「マ、マサキ……、ま、また後で話を聞いてくれる? わ、私は……」


「へ? その話はもう終わったからやだね」


「――――っ、う、ううぅ……、わ、私がマサキを裏切ったから……、う、ひっぐ……、うわぁーん――」


「ミ、ミヤビ様ーー!!」


 ミヤビは学校へと走り去った……。

 そしてこの場に残されたのは、俺とヒカリと死にかけたじじいだけであった。




楽しく書けました!

ここまで読んで下さってありがとうございます!

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頑張ります!

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