登校
ヒカリは馬鹿だ。
だが、ただの馬鹿ではない。
非常に勘が鋭いのだ。時折人間の心理を突く質問をしたり、誰にも解けない問題を簡単に解いたりする。
ダンジョンで襲われた時だって、ヒカリじゃなかったら瞬殺されていただろう。
スキル【暴れるモノ】は理性をなくすが、非常に強い力を持っていた。
というわけで、俺とヒカリは普通の学校に登校している。
アリスとビビアンは俺のカバンの中で眠っている、というか力をためている。
カラオケをしていたらいきなり眠りこけてしまったんだ。
受肉されたあの二人は、前世の力を発揮出来ないでいるらしい。それでも馬鹿げた存在力を持っていた。
だから、休眠をして力を少しでも取り戻す必要があるらしい。
ちなみに二人はシステムさんのことは知らなかった。だけど、王系スキルの持ち主には疑似人格サポートが付く事があるらしい。それの一種だとビビアンが言っていた。
ヒカリがボケっとしながら歩く。朝が弱いから仕方ない。
「……眠いね。あっ、今日もカラオケ?」
「いや、流石に連チャンは無理だろ。仕事しなきゃ金がねえよな」
「うーん、そういえばさ、昨日の黒いおっさんて何者だったの?」
「あっ……」
決して忘れていたわけではなかった。
アリスとビビアンと話していたら黒い男の事を話す間がなかった……。
決して忘れていたわけではない。
「というか、考えてもわからんが、一つだけわかる事がある」
「うん、あれだよね。マサキを狙ってたもんね」
そう、あいつの目的は俺であった。真意はわからんが、あいつは俺を攫おうとした。
ビビアンとアリスによって撃退したが、生死がどうなったかわからん。
あとで二人に聞いてみるか。
『――黒い女神教の男は、ビビアンの魔法によって闇の牢獄に捕らわれております』
お、マジで。ビビアンできるわんこじゃん!
『また、拉致の理由ですが、超絶レアの王系スキルですので、女神教がご主人さまを手駒として攫おうとしたと推測します。もしくはスキルだけ抽出して他者へ譲渡しようとした可能性もあります』
――なるほど。どっちにしろ面倒だな。両親が俺のスキルを偽装しようとした理由がわかるわ。
「はぁ、面倒だな。なあヒカリ、どっか違う国へ転校しね? 超大国にはすげえゲーセンがあるらしいぞ。水晶通信もやばい性能らしい」
「あ、悪くないね。……私も家族がいないしね。ビザの問題がなければイケるね。今日の放課後、留学のパンフレットをもらいに―――きゃっ!?」
ヒカリがつまずいて転びそうになった。
俺はとっさにヒカリの身体を支えようとしたけど、ヒカリは宙で一回転をして華麗に着地をする。パンツがチラリと見えたけど気にしない。
俺は後ろを振り返った。
そこにはヒカリの足を引っ掛けた男がニヤニヤといやらしい笑みで立っていた。
「おやおや、底辺君たちは隅っこを歩いて欲しいですな。私達Aクラスの邪魔ばかりして……、全く学校のお荷物には困ったものですな。はははっ!」
こいつはミヤビの取り巻きの一人であるタンゲという男だ。
時代遅れの長髪が似合ってると思っているキモい男だ。
嫌味な顔をしているが、性格もネジ曲がっている。
底辺のFクラスに干渉する生徒なんて全くいない。みんな陰で馬鹿にして終わりなだけだ。
だが、こいつは違う。
事あるごとに俺に突っかかってくる。
「ミヤビ様の考えがわからん。なんでこんな下民に手を差し伸べようとするのだ。全く、慈悲深いのも困りものだな。……そう思わないか、マサキ君?」
絡まれるのも慣れたもんだ。こういうときは流せばいい。
「はいはい、俺達は端っこを歩くよ。じゃあな――」
今にもタンゲに襲いかかろうとするヒカリの肩をぽんっと叩いて、俺達はタンゲから離れようとした。
いつもだったらそれで終わりだ。
それなのに――
「ちょっと、タンゲ君。私の幼馴染をいじめないでくれる?」
ミヤビが取り巻きを引き連れてタンゲの後ろから現れた――




