カラオケ
カラオケに着くと、なぜか受付の人に四名様ですか? と聞かれた。
俺は驚いて周りを見ると、あのうさぎと犬が突っ立っていた。
受付の人は「可愛らしい使い魔ですねー、魔獣使いですか? あっ、ワンドリンクでおなしゃす」と言いながらテキパキと準備をする。
俺は叫びたいのをこらえて、平静を装って自分達の部屋へと向かった。
ぴょこぴょこと歩くうさぎと犬はおとなしく付いてきてくれた。
ヒカリが興味津々だったけど、「部屋で落ち着いて話す」と伝えた。
ヒカリは時折、犬にツンツンしたり、うさぎの耳を触ったりしていたが、二匹は我慢してくれた。
「――とういうわけで、お前ら何者なの? ていうか、システムさんって何かわかる? どこから出てきたんだ? 俺って召喚なんて出来ないはずだぞ?」
うさぎが俺の足をよちよちと登る。膝のところに座って「もきゅー」とひと鳴きした。
犬がしっぽを振りながら俺に答える。ヒカリはジュースを飲みながら興味津々であった。
「は、はじめまして、ご主人。我はご主人との契約により受肉した存在なのだ。さまよえる魂を救ってくださって感謝ですぞ。我の名前は……ないのだ。前世では魔王をやっていたのだ!」
「きゅきゅ、そうね。わっちも現世での名前が無いね。ご主人さま、つけてほしいね! あっ、わっちは前世では女勇者をしてたね。今後ともよろしくね!」
「えっと、私はヒカリ! 帝国騎士候補生学校の二年生でマサキのマブダチ! うさちゃんもわんちゃんもよろしく!」
「おおっ!! なんと可憐なヒューマン族ではないか。汚れなき魂の美しさがまばゆいばかりなのだ」
「そうね。この子、わっちの次に可愛いね! あ、こ、こら、わっちをもふもふするな!」
ヒカリは俺の膝の上にいるうさぎをもふもふし始めた。
犬とうさぎは俺を見つめている。どうやら名前が欲しいみたいだ……。
というか、魔王と勇者って……何言ってんだこいつら。子供の遊びみたいなものか……。
気にしないようにしよう。
「あー、わかった。適当につけるぜ」
名前か……、うさぎの方は真っ白で艶の良い毛並みが綺麗だ。ぬいぐるみみたいで可愛いけど、口が悪そうだ。……うん、アリスだ。
犬の方は尊大な口調だけど、どこか苦労人のような雰囲気を伺える。
えっと、こっちはビビアンだ。
何故か頭の中ですんなりと名前がひらめいた。
「こっちがアリスで、そっちがビビアンだ。……性別がわからんけど女性っぽい名前になっちゃったけどいいのか? マジで思い浮かんだ名前をつけただけで――」
二匹は身体を震わせながら目には涙が溢れていた。
「わ、我の本当の名を――ひぐ、こ、こんな名誉な事は……、もう、捨てたはずの名前だが……、感謝するのだ」
「きゅきゅ、やっぱご主人様はすごいのね。僕の真名をつけて下さるなんて……、ありがと」
「むむ、マサキ、ずるいよ! 私にだってあだ名つけてよ!」
「バカ! ヒカリはあだ名つけづれえだろ!? ヒカリが一番呼びやすいからいいんだよ! お前はヒカリだ!」
頭の中でシステムさんの声が聞こえてきた。
『――魂の記録に登録しました。アリス、ビビアン、ヒカリとの繋がりが強化されました』
……今は放置しておこう。少しずつ、少しずつこの状況を紐解いていくしかない。
ていうか、ヒカリもこの二人と同じ扱いなのかよ!!
「わーい、カラオケしよっよ! バイトなかったから嬉しいな!」
「むむむ、我の時代ではなかった面妖な装置。……興味深いのである」
「わっちは懐メロ歌うね! スキル【鑑定】で使い方はばっちりね!」
……スキル【鑑定】は超レアだ。……まあいいか。とりあえず俺も歌ってストレス発散するか! そのあとで面倒な話しをすりゃいいか!
「おいおい、俺の出番だぜ? てめえらはちょっと待ってな! ヒカリの次は俺だ!」
「ご、ご主人、我は次に歌うのだ!」
「ビビアンって音痴なのね。わっちも一緒に歌ってあげるね」
「百点目指すよ! 今ならいける!」
そんなこんなでカラオケは意外と大盛り上がりとなった。