保健室の夢
昔の思い出を夢で見ているのだろう。
まだミヤビが優しかった時の事だ。
孤児院の仲間に冷やかされながらも二人で森を散歩している。
『えへへ、私は将来騎士になってマサキの事を支えるんだから!』
『うん、俺もミヤビに負けないくらいの騎士になってから……プロポーズするぜ』
『マサキ……、えへへ、ずっと一緒だよ』
『ミヤビ、俺が悪いやつから守ってあげるから……』
これは夢だと理解している。現実の未来は違う。俺は騎士にもなれない落第生で、ミヤビは学年主席として君臨している。
入学して数カ月たった時の事だ。
『マサキ、私達距離を置きましょう。別に嫌いになったわけじゃないけど……色々視野を広げてみたいの』
『ま、待ってくれ、ミヤビ! 俺は必死で努力するから――』
『ううん、違うの。遅いのよ、マサキ……、ごめんなさい』
『ミヤビ、ミヤビ!!』
急速に意識が覚醒してきた。
嫌な事を思い出したのか、汗をひどくかいている。
目を開けて周囲を見渡す。
どうやら保健室で寝かされていたようであった。
隣のベッドにはヒカリが寝ていた。向かい側のベッドにはサナエとジャイアが同じように寝ていた。
そして――俺の横には何故かミヤビが立っていた。その後ろにはミヤビの取り巻きの男子生徒がいた。
ミヤビは俺が起きたのに気がついたのか、いつもみたいに口元を歪めていた。
「……三層で魔物に負けて気絶するなんてありえないわよ。……はぁ、暇だったから立ち寄っただけよ」
「ミヤビ様、そろそろ皆様が心配しています。放課後の課外活動の準備を――」
「ええ、今行くわ」
男子生徒に促されて保健室を出ようとするミヤビ。
……もしかして心配して来てくれたのか?
いや、気にしないほうがいい。
だけど――
俺はミヤビの背中に声をかけた。疲労と混乱でうまく声出せなかった。
「――ミ、ミヤビ、あ、ありがと、な」
一瞬だけミヤビが止まったように見えたが、何事もなかったかのようにミヤビは保健室を去っていった。男子生徒の舌打ちだけが保健室に響いた。
ミヤビの事は置いといて、状況を整理しよう。
俺はダンジョンで女神教と名乗る男に攫われそうになった。
ヒカリは瀕死の傷を負ったが、変な生き物の回復魔法によって一命をとりとめた。
いまも隣で安らかに眠っている。
「――ぐがっ、マサキ……、行っちゃ嫌……、すぴーー」
……うん、寝言が言えるくらい元気そうだ。
そういえば俺のスキルが変化しただか、偽装が解除されただがよくわからない事が起きた。
ヒカリを守るために死を覚悟した瞬間だった。
『はい、ご主人様はご両親にかけられた偽装によって本当のスキルが隠されていました』
――また頭の中で声が聞こえてきた。この声はなんだ?
『回答します。私はスキル【覇王】によって生み出されたサポートシステムです。今後ともよろしくお願いします』
――あ、はい、よろしく……。って、意味わかんねーよ!? それになんか変な生き物を召喚したような気がするが……。
『あの二人は現在小さくなってご主人様を見守っています。……大きくなるとうるさいので』
――あ、そう。うん、やっぱ俺が召喚したんだな。……心に変なつながりを感じる。きっとあの二人? と通じ合っているんだろう。
……あいつら何者なんだろう。
『……』
システムさんは黙ったままであった。
それに【覇王】って王系スキルじゃないか……。スキルの最上位と言われる王系スキル。
【剣王】【魔王】【賢王】【獣王】とか神話で聞いた事があるけど、実際持っている人がいるかわからないほどの未知数なスキル。
『はい、非常にレアなスキルです。【覇王】の特徴は、魂でつながった眷属の力を上乗せすることができます。現在スキルを構成中で、力を上乗せするにはもうしばらくお時間をください――』
システムさんの声が止まったと思ったら、いきなり何かに抱きつかれた。
「マサキーー!! 無事だったか? 良かった……死んだかと思ったよ。……怪我はない? 大丈夫?」
「いてて……、お、お前が抱きついて苦しいわ!? ったく、俺の事よりヒカリは大丈夫か?」
「うん? なんか超元気だよ。すっごく調子いい感じ! あっ、今なら100点出せるかも……カラオケ行かなきゃね!」
「だから、それは明日だろ! ったく……」
本当に良かった。ヒカリは元気そうであった。自分の心配よりも俺の事を心配してくれるんなんて……本当にいい友達だな。
保健室の時計を見るともう下校の時間であった。
うん、帰ろう。流石に疲れたし、色々ヒカリと相談したいこともあるからな。
『ササキ・ヒカリとの魂のつながり確認出来ました。スキル【暴れるモノ】から【達人】へ進化しました』
一瞬思考が止まってしまった。ヒカリと魂のつながり? スキル【達人】だと?
ヒカリは俺から離れて、自分のカバンを持ってバイトに行こうとしていた。
「バイト行かなきゃ。面倒だなー、嫌だなー」
「ヒ、ヒカリ、きょ、今日は色々あったからバイト休め。俺が連絡しておいてやる」
「マジ! やった!! じゃあ今日はカラオケね!!」
カラオケは個室だしそこで話し合えばいいか……。
「あ、ああ、カラオケ行こうぜ」
俺たちはサナエとジャイアを残して保健室を出るのであった。