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タンゲとミヤビ


 俺、タンゲ・ヤマダは嫉妬するだけの人生を送っていた。

 上級貴族だけど没落寸前の実家。そんな家の長男である俺が家の将来を支えなければならない。

 貴族の時代は終わった。そんなの頭では理解している。

 だけど、俺の父と母は家の資産を食いつぶし、贅沢三昧をする……。


 俺は幸運にもスキル持ちであった。スキル持ちは騎士学校へ入学できる。この学校を卒業したら幹部候補生にもなれるし、大企業や有名ギルドに就職も可能だ。家を立て直すこともできる。


 だが俺は才能がなかった。Aクラスに入れたのも、俺が上級貴族であり、貴族派の教師が根回ししてくれたからだ。

 ……この学校には才能が溢れている生徒ばかりであった。俺の目には眩しく見えた。


 便宜上、Fクラスと言われているが、そこにいる生徒からあふれる才気が妬ましかった。

 とくにあのマサキという男……。


 初めて見た時は、学校の裏で上級生ヤンキーをボコボコにしている時であった。

 明らかに格上の上級生、しかも武闘派で有名なヤンキーグループ。Bランクに届くであろう存在。

 そんなヤンキーたちを蹂躙するマサキを見て……、俺は嫉妬した。


 しかも、俺の憧れであるミヤビと付き合っていると聞いて、気が狂いそうになった。

 ……ミヤビは男の見る目がない。マサキは男の俺から見ても最良の彼氏だったと思う。……Fランクという肩書を除けば。


 ミヤビがマサキと別れたと聞いた時、嬉しさと怒りがこみ上げてきた。

 マサキだったから俺の嫉妬は抑えられていた。ミヤビが数々の男に乗り換える。その男たちはクズな貴族ばかりであった。俺の嫉妬が漏れ出しそうであった。


 ミヤビは美しい女性だ。内面的にも素晴らし……かった。

 貴族に毒されるミヤビを見ているのが辛かった。そんなミヤビと仲良く会話する貴族が妬ましかった。

 自分に力が無いのが悔しかった――


 ある日、俺の前に一人の男が現れた。初めは訝しんだが、男の軽快な話術に夢中になり、男が主催する集まりに出向く。

 そして、とある組織に勧誘されたが――


『君は才能がある。その才能を活かせるのは私達だけだ。きっとミヤビさんも君を見直してくれるだろう』


 そこでも、俺の拗れた嫉妬心がおかしい方向に働いた。

 俺は捨てセリフを吐いて――その場を立ち去った。

 俺は自分の力でミヤビを振り向かせたい。……嫉妬まみれの俺だけど、いや、嫉妬まみれだからこそ、怪しい男の誘惑に負けなかった。俺の負の感情は俺にしかわからないだろう、と。



「……ミヤビ様、お怪我はありませんか?」

「う、うん、な、何が起こったの?」


 上級生であり、貴族派代表のレオンハルトとの会食中に俺たちは意識を失った。

 気がつくと、俺とミヤビ様は見たこともない屋敷に閉じ込められていた。

 拘束されているわけではないが、大きな部屋は施錠されている。

 そして、どんどんうちの学校の生徒が放り込まれた。


 みんな攫われたようで、不安げな顔をしている。

 俺も正直不安に潰されそうであった。

 そんな時にミヤビが捨てて、俺が拾った魔石を握ると心が落ち着く。


 ……これはマサキの魔石か……あいつは何か気がついていたのか?


 ミヤビの心は難しい。素直になりたくてもプライドが邪魔をする。

 本当の気持ちに気がついた時はすでに遅い。

 ……俺はそんな弱いミヤビを含めて好きであった。


 マサキの事は好きじゃないが、魔石をミヤビに渡した事に意味があると思った。だから俺が拾った。


「タ、タンゲ、こ、怖いよ。……わ、私がマサキの誘いを断らなければ……」

「いえ、それは違います。この状況は誰にも予想が付きません」

「うん……、タンゲがそう言うなら……」


 俺はミヤビに綺麗事しか言えない。本心を喋った事なんてない。

 自分に自信がないからだ。俺は見ているだけでいい。……心が苦しくなってもそれは全部自分のせいだ。



 突然、扉がガタガタと大きな音が鳴った。

 きしむ音とともに扉が開く。


「これで全員ね。……これからあなた達を女神教に仕上げるわ。……ダイジョブ、苦しいのは最初だけよ。あっ、これから洗脳が終わるまで一緒にいることになるテスラっていうわ。よろしくね」


 白衣を着た気味が悪い女性が室内に入ってきた。

 テスラと名乗った女の人の声に感情がなかった。


「ええっと、まずは精神と肉体を弱らせる所から始めるね。……その状態じゃないと言うこと聞いてくれないもの。大丈夫よ、ここは現世と断絶しているから時間はいくらでもあるわ」


 確かに窓から外を見ると、異様な空間が広がっていた。

 明らかに異常な世界。


「指を一本一本折って、足の骨も折って、身体全部の骨を魔法で折って……、ゆっくり時間をかけて……、ふふ、大丈夫、安心してね。スタッフはたくさんいるからみんな一斉に始めるね」


 レオンハルトが震えている声でテスラに懇願をする。


「ま、まて、ぼ、僕は大貴族だぞ!? か、金か? 金ならいくらでもやろう!! 僕を傷つける事は許さん!!」


 テスラはレオンハルトを見て首をかしげる。


「……っ? 私、あなたに発言を許可してないわ。……バツとしてあなたには上級コースを選択する権利をあげます」


「はっ? こ、言葉が通じないのか! こ、これだから庶民は――がはっ!?」


 いきなりレオンハルトが吹き飛んだ。テスラは指一本動かしていない。

 何が起きたんだ?


「……はぁ、この子の粗相は違う子にバツを与える事にするわ。……それが連帯責任よ? わかるかしら? ふふ……、じゃあそこの勝ち気そうな女の子でいいわ」


 テスラはミヤビを指差した。

 突然の指名でミヤビは声も出せないでいた。


「…………っ。わ、わ、た……」


「大丈夫よ。全身の骨を壊して数時間後に回復魔法をかけてあげるわ。また壊すけどね。……大体十巡したら終りかしら? その後が本番よ」


 ミヤビはすがるような目を俺を見る。

 何かに期待している眼差し。俺はいつもミヤビの期待に応えていた。

 だから、俺がミヤビの身代わりになることだって苦にならない――はずであった。


「ちがう――」

「へっ……、タ、タンゲ?」


 そうだ、いつからミヤビは変わったんだ? 初めてミヤビを見たとき、ミヤビは自分を盾にしてチンピラ冒険者から同級生を守った。あの姿に心を打たれたんだ。

 それなのに、時が経つごとに俺を下僕のように扱い、それが当たり前で――

 俺は命令される事でミヤビとの繋がりを感じて――


 俺は気がついた。俺のせいでミヤビは変わってしまったんだ――

 俺の毒がミヤビに侵食していったんだ……。


 俺がミヤビの前から消えれば――




 ミヤビは泣きそうな顔で俺を見る。


「ミヤビ、昔のお前だったらどうしていた? なあ、答えてくれ。俺の大好きだったミヤビならどうしていた? ……俺は、もう、お前のそばにいない事にしたんだ。俺がいるとミヤビが駄目になる」


「え、タ、タンゲ? ど、どうしたの……」


 俺はミヤビを放置してレオンハルトのそばに近づく。

 ポケットに入れていた魔石が俺に勇気をくれた。


 ……痛そうなフリをしているレオンハルト。頭を抑えているけど外傷はない。それに、こいつは初めからおかしかった。


 俺はレオンハルトの胸ぐらを掴んだ。


「き、貴様、俺に向かって何を――」

「お前が俺たちを攫ったのか?」


 俺はレオンハルトよりも弱い。ましてや、テスラと名乗る女はAランクオーバーの化け物だだ。

 俺はレオンハルトに殴りかかった。

 レオンハルトは俺の拳を弾いて立ち上がる。


「なんだよ……、なんだって俺が女神教だって分かったんだ? はぁ……、まあいいや遊びは終わりだ、テスラ、早く洗脳しようぜ」


「ふふ、あなたがバレるのは珍しいですね。とりあえずこいつは才能がないから殺してもいいわ」


 ――やっぱりこいつも最悪の女神教だったんだ。ははっ、もうそんな事どうでもいい。最後くらい自分の好きに生きよう。


 俺はマサキの魔石をミヤビに放り投げた――あの魔石には防御結界魔法がこめられてあった。

 魔石が俺の魔力を全て吸い尽くすと砕け散った。そして、ミヤビの身体を包み込む結界が生まれた。



「え……、な、なんで? タ、タンゲ? タンゲは? ねえ、わ、私も戦うよ! タンゲ弱いでしょ!?」


 ……ミヤビの顔付きが変わったのがわかった。まるで昔のミヤビを見ているようで……、泣きそうになる。これが見納めだ。


「……ミヤビ、好きな女の前でカッコつけてもいいだろ。なに、マサキがくれた魔石だ。きっとマサキがお前を助けに来る。俺は時間を稼ぐ」


「ば、馬鹿っ、タンゲはそんな口調似合わないよ!」


「ははっ、ではミヤビ様、しばらく目を瞑っていて下さい――」


 勝てなくてもいい。死んでもいい。

 誰かが俺たちに気がついてくれていればそれでいい。

 俺は覚悟を決めた――






 その時――扉が真っ赤に染め上がり、熱量によって溶けてしまった。


「あらあら、お邪魔だったかしら? ふふっ、タンゲ君でしたね? マサキじゃなくてごめんなさい。でもね、ここは私一人で十分かしら?」


 そこには四帝であるエリ様が立っていた――


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