お泊り
流石に公園でこの人数で飯を食うのは不可能であった。
それにギルもエリさんも大貴族だ。帝都新聞社の格好の餌食になる。
俺たちはじじいの別宅へと移動した。
なにせ転移魔法で一瞬だ。時間はかからない。といってじじいの別宅は比較的帝都郊外にある。静かな場所だけど歩くには遠すぎる。
別宅は非常に広く美しい建物であった。
木材をベースで建てられた別宅は、異世界の文化をふんだんに取り入れてあった。
リビングには畳と呼ばれる草の匂いがするクッションが敷き詰められている。
床に直接座ってもお尻が痛くない。
なんだか不思議な空間であった。
ゼンジはたまに一人で来ては掃除をしていたらしく非常に綺麗に整理されていた。
「それではテーブルを並べて皆様の食器の準備を――」
「「はい、エリ様!」」
「じゃあ、私たちは買ってきた料理の開封をして並べようか? みんなよろしくね」
「「はっ、ギルバード様!」」
「えっとね、僕は何をすればいいのかな? あっ、わんちゃんとうさちゃんだ!!」
俺は自分の目を疑った。何故ここに四帝の一人であるハカセ先輩がいるんだ……。
「せ、先輩? ど、どうしてここにいるんだよ? 転移した時全然気配なかったぜ!?」
小さな女の子であるハカセ先輩。高い魔力と知能で特別枠で騎士学校に通っている。
俺の三つ下であり、地味でメガネをかけた先輩だ。いつも白衣を着ている。
流石にあの白衣を着てたら分かるんだけど……。
「えっへん。なんと新製品の【透明マント】だよ! これをつけると存在が希薄になって誰も気が付かなくなるんだ! へへっ、その代わり大量の魔力が必要だけどね!」
「いや、それは色々問題がありそうな装備っすよ。商品化は見送りな方向で……」
「むぅ、助手が言うなら仕方ない。あっ、パーティーしてるんだよね! 僕ももふもふしながら楽しみたい!」
「……まあいいか。マリサと年齢近そうだし……。じゃあそこで座って待ってな」
「うんっ!」
程なくして準備も終わり、各々好きな席に座った。
まあ公園の食事会の延長だ。みんな好きに食べ始めた。
マリサが恥ずかしそうにしながらハカセ先輩と話している。それを温かい目で見守るアリス。部屋の端っこでは将棋という遊戯をしているビビアンとじじい。あの二人は意外と気が合いそうだ。
ギルの親衛隊とエリさんの円卓ガールズが合コンみたいな雰囲気になっている。
まあ同ランクの貴族が多いしな。
スバルは相変わらず走り回っていた。本人が楽しそうだから気にしない事にする。
ジャイアとサナエも場の雰囲気に圧倒されながらも、料理を楽しんでいる。
時折、ギルやエリさんがちょっかいをかけて戸惑っている。
そのうち、ジャイアたちも砕けた雰囲気になって、ビビアンたちと遊戯をしたり、俺と学校の話をしたり、楽しんでくれた。
「えーーっ、ジャイア君、ちょっと待って、その装備は自分で作ったの!?」
「は、はい、俺の家が鍛冶屋なので……、手先が器用です」
「うん、君は僕の助手二号に決定する」
「い、いや、俺なんかがハカセ様に話しかけたら――」
「ぶぁかもん! 意味もない称号なんでクソ喰らえだ。僕は実力主義なのだ! 君の作品リストを見せて頂戴!」
ジャイアが水晶通信に入っている写真を見せる。ハカセは作品を見るたびに感嘆の声をあげる。……あいつら、やべえ武器作らねえよな……。
『……魂の繋がりを確認したジャイアですが、一部の能力の急激な上昇を確認しました。それに伴いスキルの上書きが発生します。スキル【鉄を鍛えるモノ】から【鍛冶隊長】に変化しました』
……うん、もう少しハカセ先輩と仲良くさせて、どんな事でも驚かなくなったら教えてあげよう。
親衛隊の方からどよめきの声が聞こえてきた。
「お、おお、これは――素晴らしい。ちょうど屋台の料理に飽きてしまった所だったから嬉しいですな」
「うん、僕も美味しいと思うよ。サナエさんすごいね! あっ、しかもこれって身体能力向上の付与がかかっているよ」
「なんとっ、通常だと非常に高価な料理になります。いやはや、サナエさんはどこでこの技術を――」
円卓ガールズはサナエに質問攻めであった。
「――こ、これはどのように作ったのですか?」
「今の時代、令嬢だって料理が出来ないと彼氏が出来ないんです!」
「お、教えて下さい!」
当のサナエ本人は戸惑っていた。
「え、ええ、わ、私、ゼンジさんの食材を借りて、ありあわせで適当に作っただけですよ!? こ、今度ちゃんと作ります……。――でも、なんで付与効果が出たんだろう?」
エリさんがサナエの肩を掴む。
「ひぃ!?」
「あらあら、素晴らしい料理の腕前ね。……しかも付与効果が尋常じゃないわ。継続時間もすごい……。あなた、円卓ガールズに来ない?」
「え、あ、ちょ、わ、私、マサキと……」
「あら、マサキと友達なのね。ならもう私達お仲間ね。これからもよろしく、うふ」
「は、はぁ……、よろしくお願いします……」
すまん、サナエ。エリさんは超面倒な人なんだ。お前にもそれが分かってくれたら嬉しい。仲間が出来た気分だ。
『サナエのスキルが変化して――』
――ああ、また今度聞くわ。ちょっと色々変化が多すぎて……
『…………』
――あれ、拗ねたのか? 後でちゃんと聞いてあげるから……。
さて、盛り上げっているけど、そろそろいい時間だ。
帰りたい奴も出てくるだろう。
「おーい、そろそろ帰りたいやつはいないか? 俺が近くまで転移して――」
エリさんとギルが残念なモノを見るような目つきになった。
「はぁ……、転移なんて簡単に言ってくれて……、伝説魔法だって伝えたんだよね? エリ」
「もちろんよ。軽々しく人前で使わない。転移できるなんて言わない。自分を規格外だと思えって」
「そうだよね、規格外じゃなきゃ通常時でAランクの私がFランクの彼と互角なわけない」
「ふふ、あなた彼の事大好きね」
「そんなエリもすごく気に入ってるね」
いや、ちょっとお二人さん、そんなどうでもいい話はいいから!? ほら、スバルが正座して二人の話を聞いてるよ!?
ていうか、誰も帰ろうとする奴はいなかった。
そこに、ゼンジが俺に進言してくる。
「……わしの別宅はこの人数でも宿泊可能なのじゃ。大浴場もあるのじゃ。もしよかったらいくらでも泊まってほしいのじゃ」
「……え?」
ゼンジの話を聞いたみんなは神妙に頷く。
「ちょっと父上に連絡を取ってくる。今日はここに泊まろうと思うよ」
「あら、私も泊まろうかしら。どうせ放任主義だから大丈夫だし。あなたたちは好きにしなさい」
「やったのね! マリサ、みんな泊まるから寂しくないのね!」
「えへへ、でもアリスがいてくれるからどっちにしろ寂しくないのさ」
「ふふ、我の真の棋力を見せよう。貴様らかかってこい」
「え、お、俺もいいの? な、なら親父に連絡して……」
「うん、たまにだからいいよね? ママに水晶通信で……」
うん、たまにはこういう日もあってもいいか。
こうして俺たちはこの別宅に泊まることになった――




