宴会
俺たちはギルドの近くにある子供公園にいた。
俺はしどろもどろになりながらもリュータロウさんに説明をする。
アリスとビビアンはマリサと近所の子供たちと遊んでいた。
スバルとゼンジはやはり正座をしながら俺の横に付いている。
一通りの説明をし終えると、リュータロウさんがため息を吐いた。
「ふぅ……、女神教か……、また厄介な奴らに目を付けられたな。まあいい。ふん、ちょうどギルドも手狭になっていたから引っ越す手間が省けた」
ギルドの事務のお姉ちゃん、パセリさんがリュータロウさんの肩を揺する。
「ちょっとちょっと、私のビトンは? それにみんなの私物もあったでしょ! ていうか、ギルド長冷静すぎでしょ!」
リュータロウさんは紙切れを懐から取り出した。
パセリさんがその紙を見てワナワナと震える。
「おい、パセリ、この小切手で新しい事務所を探せ。今の売上の10%になるように調整しろ、前の物件の事後処理もこの金で頼む。交渉が長けているお前にしか頼めん」
リュータロウさんパセリさんに顔を近づけてお願いをする。
それだけでパセリさんは少女みたいに顔を赤らめた。
「う、うん、わ、わかったわ。私に任せてよ! 超すごい物件探してくるわね! ――ふふ、次の物件はギルド長室を作って……私を囲ってもらって……ふふ」
パセリさんは実現不可能な妄想を漏らしながら意気揚々と不動産屋へと向かった。
リュータロウさんはため息を吐く。
「……まあ優秀だから、な。で、お前はこれからどうする? 俺も手伝うか?」
リュータロウさんは多分この帝都のギルド長の中でも最強だ。
俺が組手で指一本も触れた事がない。エリさんやギルとは違った強さだ。
魂の根底から違う。生まれ持っての強者としての風格がある。
確かにリュータロウさんが手伝ってくれたら心強いが……、
「いえ、リュータロウさんはギルドを立て直して下さい。……壊した俺が言うのもなんですが……」
「そうか、了解した。なら、女神教を潰すまで返ってくんな。――ほらよ、今までのバイト代だ」
リュータロウさんは明らかに俺が働いた以上の金額の金貨を俺に手渡す。
金貨に一瞬だけ意識いくと、すでに俺に前にはリュータロウさんがいなかった。
公園を出て遥か先を歩いていた。
俺は大声でリュータロウさんに向かってお礼を言った。
「ありがとうございます! 絶対みんな無事で帰ってきます!!」
リュータロウさんは振り向かず、ただ手をあげて俺の声に答えてくれた。
****************
『ご主人様、シリルが戻りました。――報告をさせていただきます』
――んあ? ああ、そっか俺の中から出かけていたんだっけ? またすぐに襲われそう?
『……いえ、すぐにご主人様を襲う気配は無いです。情報の共有が出来てないため王系スキルの持ち主がご主人様だと分かっていません』
――そう……、じゃあシリルもご飯楽しもうぜ!
『は、はい、雰囲気だけでも……』
スバルとじじいが帝都にある屋台から食べ物や飲み物を買ってきた。帝都の街はいつもお祭りみたいに人が賑わっている。
どこかお店に入ってもいいけど、今日は風も気持ち良い気候なので野外で夕食だ。
ビビアンは土木魔法で簡易的な椅子とテーブルを作り出す。
「ご主人、我の隣に座るのだ!」
「きゅきゅ、ジュースでいいの? わっちは人参ジュースがいいね。……ないの? なら人参買ってくるね。自分で作るね」
「わぁ、お肉がたくさん……、ね、ねえ、食べていいのかな? ジュースも飲んでいいのかな? み、みんなでご飯ってあんまりしないからわからないのさ……」
「マリサ、ほらこれ食えよ。ジュースもこれ飲めや。お、ヒカリ、このピザうめえぞ」
「もぐもぐ、うん、もぐもぐ、そこ、私のイチオシ、もぐもぐ」
スバルが嬉しそうに働く。なんかあまり活躍出来なかったのがショックだったらしい。
ゼンジは刺し身を買ってきた。有名な東方料理だが帝国では生で魚を食べる習慣がない。海に面していないからだ。
ゼンジはうまそうに刺し身を食べる。……スバル働いてるけどいいのか? まあいいか。
色々あったけど、みんなと笑い合いながらご飯を食べれる状況になって良かった。
ご飯が食べ終わって落ち着いてから話をしよう。
……あっ、そういやギルドがねえかマリサ、スバル、ゼンジの寝る所がねえ。
俺とヒカリは寮住まいだ。ワンルームだから人を招待するほどの広さがない。
「うーん、どうすっか」
「どしたの、マサキ?」
「んあ、ああ、こいつらの家をどうすっかな……」
「あ、一日くらい野宿でもいいけど、流石に家が無いと駄目だね」
ゼンジが俺たちの会話を聞いていた。少食なのか、もうお茶をすすってホッと一息ついている。
「……マサキ殿、ご心配御無用ですじゃ。わしは曽祖父の資産としてこの帝都に別宅があるのじゃ」
「ゼ、ゼンジ爺? せ、拙者も知らないのだが……」
「スバル様に教えると入り浸りそうで嫌だったのじゃ。……この状況は仕方ないのじゃ」
なんとも食えないじじいである。
まあ、あとでみんなでその別宅という所へ行ってみよう。
「マサキくーん、あらあら、こんな所で宴会しちゃって悪い子ですわ――」
「うおぉ!? け、気配消さないでくれよ!?」
いきなり俺を後ろから抱きしめるエリさん……。やっぱ顔が近いって! 良い匂いがするけど全然タイプじゃないからやめてよ!
そんな事言えるわけないけど……。
「あらあら、今なにか失礼な事考えなかった? ふふ、知らないふりをしてあげるわね」
「あ、ははっ……」
いや、エリさんにスキルに心を読む能力はない。ただの魔性の女の勘だ。
くそっ、綺麗すぎる女の子は苦手だ。俺はもっと地味で、『あれ? あの子よく見たら可愛くね?』っていう子が好きなんだよ!
「私も一緒にいいかしら? 嫌だったらちゃんと言ってね」
「んあ、別にご飯一緒に食べるくらいかまわねーよ。ヒカリの隣空いてるからそっちに行って」
「ふふ、ありがと……」
スバルがエリさんを見て固まった。開いた口が塞がらない。
ていうか、スバルっていくつなんだ? 見た目二十代後半の黒い肌が似合うロン毛だけど……。ダークエルフと異世界人の末裔ならもっと長生きか。
スバルが小さく呟く。
「……か、可憐だ。まるで拙者の森で咲き誇る、サクラの花びらのように美しい……。ああ、拙者、生きてて良かった……」
おい、泣くなよ。絶対お前騙されるタイプだろ?
こいつらは放っておこう。
ふと、視線を感じて俺は公園の外を見た。
そこにはジャイアとサナエが一緒に帰る所であった。
なんだあいつら付き合ってんのか?
なにやら二人で真剣に話し合っている。
俺は中座してアイツらに近づいた。
「……そうか、もう少し柔らかい表現が必要なんだな」
「難しいよね……、どうしても言葉が強くなっちゃうよね」
「がははっ、俺たちは見栄っ張りだからな。本当はダメダメなのにな」
「でもちょっとは良くなったよね? 今日はクラスメイトと普通に喋れた気がするわ」
「ああ、少しだけでも成長してる。この調子でマサキとも――」
「んあ? 俺が何だって?」
二人は驚き過ぎて声が出せなかった。
「あ、わりい、話に口を挟むつもりなかったけどさ。ところで、お前らって付き合ってんの? 仲良しだな!」
「絶対に違う! この馬鹿!!」「つ、付き合ってるわけないわよ! ジャイアは良い友達よ!」
なんだ、残念だ。せっかく祝福したかったのに。
『すでにご主人様からの祝福を受けています。微弱ですが、魂の繋がりを確認しています』
マジ? ……うん、あとで考えよう。
「わりいわりい、あっ、そうだ。お前らも寮だもんな。飯まだだったら食わねえ? ……ちょっと俺の友達もいるんだけど、大丈夫か?」
ジャイアとサナエがお互いの顔を見合わせた――
そして戸惑いながらも頷く。
「……俺が行ってもいいなら。あっ、金はちゃんと払うぞ」
「うん、わ、私もマサキの友達に興味あるし……一緒に食べたい。」
俺も笑顔で二人に返す。気がつくと俺の隣にはアリスとビビアンがいた。
「もきゅ? マサキの友達なの? お前らもご飯食べるの? こっち来るのね!」
「ふふふ、我が貴様らにご主人の偉大さを語ってやろう。さあ来るのだ」
「ああ、二人は俺の友達だよ。あっちまで連れてってくれや。……ちなみにお前らの後輩に当たるぞ」
サナエとジャイアは何の話かわからないのか、ポカンとしていたが、二人は何故か嬉しそうにしていた。
「……と、友達……、ふへへ……」
「ジャイア、良かったね……、行こ……」
俺も一緒に席に戻ろうとしたが、後ろから声をかけられた。
タンゲたち取り巻きを引き連れたミヤビが立っていた。
「マサキ? あ、あなた何してるの?」
「んあ? ああ、みんなで飯食ってんだ。お前も食うか? って、そんわけないか」
立ち止まったジャイアたちを手で促し、俺はミヤビの相手をする。
裏切られて信用していないけど、嫌いとかそういう感情はない。
――どうでもいい。そんな思いしかなかった。
ミヤビは顔を歪める。
「くっ、あ、あんな所でご飯なんてみっともないわ。……わ、私はこれからレオンハルト様と会食があるのよ。……私だって……成り上がれるんだから……」
本当にミヤビは上昇志向が強い。まああの学校内で言えば悪いことじゃない。
どうでもいいけどね。
「ん、了解。じゃあな――」
「待て貴様……、何故あそこに大貴族であるエリ様がいらっしゃるのだ。それに――ギルバード様まで――」
「へっ? ギルだって?」
囲っているテーブルを見ると、ギルが肉を頰張りながら俺に手を振っている。
アレン君は泣きそうになりながら水晶通信で誰かと連絡を取っていた。
親衛隊がどうしていいかわからず困っていた。
そういや円卓ガールズも増えてるじゃん!? 普通に飯食ってるよ!?
「やべ、戻らなきゃ……、ていうか、あの人数はやべえな、どっか場所移動すっか……」
「貴――」
ちょっとタンゲの相手をしてる場合じゃない。お前は大好きなミヤビを守ってあげろ。レオンハルトの事嫌いだろ。
少しだけ目の力を強めた。それだけでミヤビ率いる取り巻きたちの身体が震え始める。
俺はミヤビたちから意識を外して―――、ん、待てよ。レオンハルト……、嫌な予感がするな。
俺はポケットに入っていた魔石をミヤビに向かって放り投げる。
「あー、この前ギルド長に一杯もらったからミヤビにやんよ、じゃあな」
今度こそ俺はみんなの元へ走り出した。




