表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/30

システムさん


「ていうか、やりすぎた感があるけど、仕方ないよな?」


 俺は頭をかきながらヒカリに訪ねてみた。

 ヒカリはいつもどおり笑顔で答えてくれる。


「うん、いいんじゃないかな! みんな無事だったし!」


 俺たちは崩壊したギルドの前で座り込んでいた。

 マリサはアリスを抱きしめて、ビビアンはそんな二人を抱きしめて……。

 スバルとゼンジは何故か正座して待機して。


 俺とヒカリはそんなみんなを温かい目で見守っていた。

 アリスがマリサの胸の中から抜け出して俺にぴょこぴょこ近づく。


「……ご主人さま、ありがとね。……わっちとビビアンは油断してたのね。これはわっちたちのミス……。ごめんなさい」


 ビビアンも俺に向き直る。


「……我も反省してるのだ。たかだが魔王の力でうぬぼれていたのだ。……我がもっと早く気がついていれば……」


「そ、そんな事ないのさ! うちが女神教だったからいけないのさ……、二人は悪くないのさ――」


 みんな無事で本当によかった。

 三司祭は洗脳されているか確認してからリュータロウさんに任せよう。

 ……ていうか、ギルドぶっ潰しちゃったからリュータロウさんに怒られるよな。ヤバ、どうしよう。


 ギルドの崩壊っぷりは見事なものであった。

 正直俺は自分のスキル【覇王】の特性を完全に理解していない。

【神殺し】だってその場で思いついて試しただけであった。


『王系スキルは所持者の願いによって、能力が変化します。【覇王】の基本的なスキルは眷属強化ですが、個別能力は未知数です』


 あ、そうだ、システムさんもありがとな。色々情報があったから助かったし、魔法の構築を補助してくれたもんな。


『――こちらこそありがとうございます。もう少ししたら本部の場所も判明します。今しばらくお待ち下さい』


 なんだかシステムさんの声が照れているように聞こえた。

 面白いな、ていうかシステムさんって結局何者なんだろう?


『……あの、私にも名前を付けてもらってもよろしいでしょうか? その方がやる気が……』


 ――そういうものか。てっきりシステムっていう名前かと思っていた。そうだな……、システム……システム……、物知りで知的な感じで……メガネかけてそうで……、シリ、ル、うん、シリルってどうかな?


『――ありがとうございます。それでは私はこれからシリルと名乗ります。しばらく留守にしますのでお待ち下さい』


 ――ん、おお、了解した。なんかわからねえけど気をつけろよ!


 シリルの存在が頭の中で消えたのを感じた。

 誰かの叫び声が聞こえてきた。

 あっ、ギルドの事務の姉ちゃんだ……。


「ひぃぃぃーー!? ギ、ギルドが……、わ、私のビトンのバッグが!? はわわ……、ギ、ギルド長……、これは一体」

「ふん、ギルドが崩壊してるな。そういうときもあるだろう」

「え、それだけ!?」


 俺たちの空気が固まった。魂の繋がりを通してスバルの魂から恐怖を感じる。


 リュータロウさんが俺を一瞥して言い放った。


「おい、マサキ、この状況をてめえが説明しろ」





 ***********




「ふぅ……、義体で助かりました。……しかし化け物じみた強さですね」


 小さな小部屋に大司教であるフルーチェが魔法陣の真ん中で座っていた。

 その額からは汗が出ている。ご主人様の攻撃が精神体を傷つけ、本体にまで影響を及ぼした。


 私、シリルは……、ふふ、ご主人様にもらった名前……ふふ……嬉しいです。

 ご主人様が放った攻撃によってフルーチェの身体が燃え尽きる時、違和感を感じた。

 魔力の粒子がどこかへと繋がっていた。精神体である私は、それに潜り込んでフルーチェの居場所を突き止めた。


「くそっ、溜め込んだ魔力の半分を消費してしまった。……三司祭を失ったのも痛い。これでは他の大司教との派閥争いに負けてしまう。盟主様の慈愛は私に向けられていなければ……」


 そういえば、マリサの身体の中で同族が覚醒したのを感じた。

 あれは王系スキルと直系である姫系スキルの気配であった。

 ……私が先輩だから挨拶してもらわないと。


 フルーチェは回復ポーションをかぶ飲みして瓶を投げ捨てる。

 苛立った様子で壁に八つ当たりをする。


「どうする? あの収穫所を捨てて一度盟主様に直に報告をするか。……王系スキルの捕獲も出来ず、四帝をまだ洗脳できていないのに……」


 この魔力地場は帝国、それも帝都の中心部……、あっ、ここは――

 場所を理解できた。ご主人様に喜ばしい報告ができる。

 そう思うだけで私の心が弾んだ。


「……さっきから妙な気配がするな。……まあいい、収穫所に潜入している司教に閉鎖をお願いして……」


 そろそろ終わりにしましょう。

 私はご主人様の怒りを沈めたい。この外道が生きている限りマリサに安らぎはない。

 それにしても、先程戦っていた時よりもランクが随分と低く感じる。

 推定でBランク相当。

 まあ、仕事だから気にしないです。……ふふ、私もご主人様に似てきたのかしら。

 本当にご主人様は素晴らしい。

 スキルに覚醒する前なのに、遥か格上を圧倒する存在。私如きの想像を遥か先に行く。


 あんな魔法を使えた【覇王】の使い手は今まで見たことない。




 私は現世に姿を顕現した。

 フルーチェが私の姿を見て驚いた顔をした。


「はっ? な、なんだ貴様……、いや、貴方様? いや、盟主様ではない。似ているが違う、誰だ貴様!?」


「―――意味がわからないわ。私は残業が嫌いなの。だから、大人しく――死んで下さい」


 そう言い放つと同時に、私は先程拝借した【神殺し】の魔法陣を宙に放った。

 魔法陣が大きく膨らみ、人間が覆い尽くす程の大きさに変化する。


「い、一体なんなんだ、貴様らは――、め、盟主様と同じ力を――」


「――さよなら。古代魔法【メギド・フレイム】」


 エンシェント・ノヴァの上位魔法メギドによってフルーチェはこの世界から完全に消え去った。

 ――ご主人様は優しいから、手を汚させたくないです。これからも私が陰から見守ります。


 私は魔力の粒子に変化して、ご主人様の元へと急いだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ