システムさん
「ていうか、やりすぎた感があるけど、仕方ないよな?」
俺は頭をかきながらヒカリに訪ねてみた。
ヒカリはいつもどおり笑顔で答えてくれる。
「うん、いいんじゃないかな! みんな無事だったし!」
俺たちは崩壊したギルドの前で座り込んでいた。
マリサはアリスを抱きしめて、ビビアンはそんな二人を抱きしめて……。
スバルとゼンジは何故か正座して待機して。
俺とヒカリはそんなみんなを温かい目で見守っていた。
アリスがマリサの胸の中から抜け出して俺にぴょこぴょこ近づく。
「……ご主人さま、ありがとね。……わっちとビビアンは油断してたのね。これはわっちたちのミス……。ごめんなさい」
ビビアンも俺に向き直る。
「……我も反省してるのだ。たかだが魔王の力でうぬぼれていたのだ。……我がもっと早く気がついていれば……」
「そ、そんな事ないのさ! うちが女神教だったからいけないのさ……、二人は悪くないのさ――」
みんな無事で本当によかった。
三司祭は洗脳されているか確認してからリュータロウさんに任せよう。
……ていうか、ギルドぶっ潰しちゃったからリュータロウさんに怒られるよな。ヤバ、どうしよう。
ギルドの崩壊っぷりは見事なものであった。
正直俺は自分のスキル【覇王】の特性を完全に理解していない。
【神殺し】だってその場で思いついて試しただけであった。
『王系スキルは所持者の願いによって、能力が変化します。【覇王】の基本的なスキルは眷属強化ですが、個別能力は未知数です』
あ、そうだ、システムさんもありがとな。色々情報があったから助かったし、魔法の構築を補助してくれたもんな。
『――こちらこそありがとうございます。もう少ししたら本部の場所も判明します。今しばらくお待ち下さい』
なんだかシステムさんの声が照れているように聞こえた。
面白いな、ていうかシステムさんって結局何者なんだろう?
『……あの、私にも名前を付けてもらってもよろしいでしょうか? その方がやる気が……』
――そういうものか。てっきりシステムっていう名前かと思っていた。そうだな……、システム……システム……、物知りで知的な感じで……メガネかけてそうで……、シリ、ル、うん、シリルってどうかな?
『――ありがとうございます。それでは私はこれからシリルと名乗ります。しばらく留守にしますのでお待ち下さい』
――ん、おお、了解した。なんかわからねえけど気をつけろよ!
シリルの存在が頭の中で消えたのを感じた。
誰かの叫び声が聞こえてきた。
あっ、ギルドの事務の姉ちゃんだ……。
「ひぃぃぃーー!? ギ、ギルドが……、わ、私のビトンのバッグが!? はわわ……、ギ、ギルド長……、これは一体」
「ふん、ギルドが崩壊してるな。そういうときもあるだろう」
「え、それだけ!?」
俺たちの空気が固まった。魂の繋がりを通してスバルの魂から恐怖を感じる。
リュータロウさんが俺を一瞥して言い放った。
「おい、マサキ、この状況をてめえが説明しろ」
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「ふぅ……、義体で助かりました。……しかし化け物じみた強さですね」
小さな小部屋に大司教であるフルーチェが魔法陣の真ん中で座っていた。
その額からは汗が出ている。ご主人様の攻撃が精神体を傷つけ、本体にまで影響を及ぼした。
私、シリルは……、ふふ、ご主人様にもらった名前……ふふ……嬉しいです。
ご主人様が放った攻撃によってフルーチェの身体が燃え尽きる時、違和感を感じた。
魔力の粒子がどこかへと繋がっていた。精神体である私は、それに潜り込んでフルーチェの居場所を突き止めた。
「くそっ、溜め込んだ魔力の半分を消費してしまった。……三司祭を失ったのも痛い。これでは他の大司教との派閥争いに負けてしまう。盟主様の慈愛は私に向けられていなければ……」
そういえば、マリサの身体の中で同族が覚醒したのを感じた。
あれは王系スキルと直系である姫系スキルの気配であった。
……私が先輩だから挨拶してもらわないと。
フルーチェは回復ポーションをかぶ飲みして瓶を投げ捨てる。
苛立った様子で壁に八つ当たりをする。
「どうする? あの収穫所を捨てて一度盟主様に直に報告をするか。……王系スキルの捕獲も出来ず、四帝をまだ洗脳できていないのに……」
この魔力地場は帝国、それも帝都の中心部……、あっ、ここは――
場所を理解できた。ご主人様に喜ばしい報告ができる。
そう思うだけで私の心が弾んだ。
「……さっきから妙な気配がするな。……まあいい、収穫所に潜入している司教に閉鎖をお願いして……」
そろそろ終わりにしましょう。
私はご主人様の怒りを沈めたい。この外道が生きている限りマリサに安らぎはない。
それにしても、先程戦っていた時よりもランクが随分と低く感じる。
推定でBランク相当。
まあ、仕事だから気にしないです。……ふふ、私もご主人様に似てきたのかしら。
本当にご主人様は素晴らしい。
スキルに覚醒する前なのに、遥か格上を圧倒する存在。私如きの想像を遥か先に行く。
あんな魔法を使えた【覇王】の使い手は今まで見たことない。
私は現世に姿を顕現した。
フルーチェが私の姿を見て驚いた顔をした。
「はっ? な、なんだ貴様……、いや、貴方様? いや、盟主様ではない。似ているが違う、誰だ貴様!?」
「―――意味がわからないわ。私は残業が嫌いなの。だから、大人しく――死んで下さい」
そう言い放つと同時に、私は先程拝借した【神殺し】の魔法陣を宙に放った。
魔法陣が大きく膨らみ、人間が覆い尽くす程の大きさに変化する。
「い、一体なんなんだ、貴様らは――、め、盟主様と同じ力を――」
「――さよなら。古代魔法【メギド・フレイム】」
エンシェント・ノヴァの上位魔法メギドによってフルーチェはこの世界から完全に消え去った。
――ご主人様は優しいから、手を汚させたくないです。これからも私が陰から見守ります。
私は魔力の粒子に変化して、ご主人様の元へと急いだ。