怒り
システムさんが情報を矢継ぎ早に伝えてくれる。
『――大司教フルーチェ、SSオーバーランクです。スキル【疑似魔帝】を所持。手下の司祭はAランクオーバーです。妨害結界は破壊されましたが、大司教が張っている弱体化結界は継続中です。アリスとビビアンは回復魔法により戦闘継続可能です。スバル、ゼンジは【覇王】の効果によって回復中です、戦闘は不能です。マリサは――』
――もういい十分だ、俺とヒカリでこいつらを叩き潰す。
『――っ、わかりました。全力でサポートします』
マリサの首を掴んでいるフルーチェという男が俺に見て笑った。
非常に不快な笑い方だ。
「ふふふっ、ふははっ!! 王系スキルの所持者のお出ましですか。……ふむ、そこまで強くないようですね。……こちらには人質がいます。この子の首をぽきりと折っても――」
マリサから不思議な力を感じた。目に意志が宿っている。……頑張ったんだな。
少し休んでくれ――
「――【集合】」
俺がそう呟くと、三司祭と戦っているヒカリ以外の仲間たちが俺の後ろに瞬間転移をする。
フルーチェはマリサがいなくなった自分の手を見つめて恍惚の表情となる。
「おお、これは素晴らしい力だ、空間転移の一種か? ……ふふ、もうすぐ私の手に王系スキルが……、貴様は【魔王】か? 【賢王】か? それとも【聖王】か? 補助系が強そうだから【魔剣王】か?」
『二度と【鑑定】は通じません。通じさせません』
システムさんの強い意志を感じた。
フルーチェからは余裕が見られる。
「うるせえ、黙れ。俺が女神教を潰してやるよ」
「ふふ、だから子供は嫌いなんですよ。……現実というものを理解していないので――」
正直、俺は戦いが嫌いだ。誰かが傷つくのを見るのが嫌であった。
だけど、喧嘩を売られたら徹底的に叩きのめす。中途半端は自分に返ってくる
女神教は俺に喧嘩を売った。
俺の大切な友達を――傷つけたんだ。
「だ、大司教!? た、助けて下さい!」
「この女……、我々では……、くっ」
「ま、魔法がただの木剣に切り裂かれて無効化されます!? ぐぼっ――、ば、化け物め……」
ヒカリの目が座っている。ヒカリは自分の大切なモノを傷つけられると暴走する子であった。今は俺との魂の繋がりによって暴走することはない。
だが、凄まじい怒りを感じる。
フルーチェがヒカリをチラリと見た。
「ふむ、あちらの子供も悪くない素材ですね。……あなたを拘束してさっさと――」
俺はこの世界が嫌いだった。
両親が事故で死んだ。現場に居合わせた俺だけ生き残った。
あれは事故じゃなかった。だけど、誰も俺の言葉を信じてくれなかった。
田舎は最悪だった。
人間の醜さを子供の頃に知った。
幼馴染だけが救いだった。だけど、その幼馴染さえも俺を裏切った。
適当に過ごせればいいと思った。同じような境遇のヒカリだけは心を開く事ができた。
……出会ってそんなに時間が経ってないけど、俺はヒカリ以外の友達が出来た。
アリス、ビビアン――
スバルやゼンジ、マリサだってきっと友達になれる。ジャイアやサナエも本当はもう友達だと思っていたんだ。
だから、友達を傷つけた俺の怒りを感じろ―――
俺が手を振りかざすと、小さな魔法陣が生まれた。それは拳と同じくらいの大きさ。
音も無く魔法陣が次々と生まれる。
まるで夏の日のホタルみたいに部屋中に魔法陣が浮かび上がる。
フルーチェは魔法障壁を張りながら、俺に向かって高速詠唱魔法を行使した――
「ふん、こんなちっぽけな魔法陣が集まった所で……、私の障壁を貫く事は絶対的に不可能! その前に死ぬほど苦しみなさい! ――古代魔法【エンシェント・ノヴァ】」
大きな光の玉がフルーチェの前に発生する。
光が弾け飛ぶと、無数の光が宙に浮かび上がる。
そして、光は不可避の光線となって俺たちに襲いかかる――はずであった。
光は俺の魔法陣によって全て吸い込まれてしまった。
フルーチェの間抜けな声が聞こえてきた。
「……はっ? わ、私の魔力が? いや、ありえない……、数カ月溜め込んだ魔力を使って行使した古代魔法だぞ!? 消えるんなんて――」
多分、俺は子供の頃から自分の特性をぼんやりと理解していた。
スキル覇王が目覚めてそれが確信に変わった。
――格上殺し《ジャイアントキリング》。
英雄なんて大層な存在じゃない。王なんて言われる器じゃない。
ただ、友達を守りたいだけの思いが俺の強さに変わった――
「マサキ、全員ぶちのめしたよ! えへへ、本気出したら疲れちゃった……、少し休むね」
ボロ雑巾のようになった三司祭が壁に埋まっている。
ヒカリはきっちり始末を付けた。なら、俺も出し惜しみ無しだ。
ヒカリはアリスたちに駆け寄る。何も言わずにただ抱きしめていた。
――――――
フルーチェの魔力を吸収した魔法陣が胎動する。
俺が生み出した魔法陣の特性は――喰らった魔法を倍の力にして、全ての魔法陣から同一のモノを放出する――
「おい、外道。言い残すことは無いか?」
「き、貴様、わ――」
俺は最後まで言葉を聞かなかった。外道の言葉を聞きたくもない。
魔法陣に覇王の力をつなげた――
それは神をも超える魔法を行使する力。俺の最大能力の一つ。
「――――【神殺し】」
俺が手を下ろすと、部屋にある数百の魔法陣、ギルドの外で生み出された数千の魔法陣、
それらが同時に光を解き放った――
最高位の古代魔法である【エンシェント・ノヴァ】の光がフルーチェの魔法障壁を簡単に貫いた。光が魔法障壁に当たるたびにべコリという音が鳴り響く。フルーチェの悲鳴が止まらない。
外の魔法陣が結界を、ギルドを壊しながら更にフルーチェに襲いかかる。
数千の光がギルドを覆い尽くし――フルーチェの魔法障壁もろとも身体を焼き尽くした――
今日の更新はこれで一旦終了です。
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