イケメン
学校帰りの校門で大貴族であるギルバード先輩とその親衛隊がたむろしていた。
明らかに誰かを待っている様子である。
俺を見つけるとサラサラの髪をかきあげて、キラキラした瞳で俺を見つめる。
ちょっとマジでイケメンだからやめて欲しい。男の俺でも緊張するわ。
「やあ、マサキ君、久しぶりだね。全然教室に遊びに来ないから寂しかったよ」
「ったく、上級生の教室になんて行かねえよ。――最近ギルドに来ねえな。リュータロウさんが心配してっぞ? ギルが来ねえと実践演習が出来えねって」
「ふふ、じゃあ今度お邪魔しようかな。――マサキ先輩、よろしくお願いするね」
「ば、馬鹿、あの時はギルがこの学校の先輩だって知らなかったから――」
ギルバードは庶民を装ってリュータロウさんのギルドに訪れた。
貴族としてギルドの実務経験をイチから学びたかったらしい。
俺は常識がないこいつの教育係を任された。
いやー、ガチで喧嘩したら超強くてマジで焦ったわ。
ぶっちゃけリュータロウさんが止めなかったら俺死んでたかもな。
というわけで、俺とギルはバイト仲間みたいなものだ。
先輩であり後輩。身分が分かったからって態度を変えるのもどうかと思う。
だから、俺はギルに対していつも通りの口調だ。
ギルはそんな俺を見て嬉しそうに笑う。
「ねえ、マサキ君。そういえばエリが変な事を言ってなかった? 君の仲間になるとか――」
エリさんはギルのお幼馴染だ。家どうしの繋がりもあり、2人は他の四帝に比べて比較的常識人だ。
……他はね……悪気はないんだけどね。
ハカセ先輩は実験で学校を破壊しそうになった。
それに比べたら……
「うん、なんか俺に協力するっていってたけど、冗談でしょ?」
ギルはそれを聞いて少し無言になる。
なるほど、イケメンはボケっとしててもカッコいいんだな。
取り巻きのメンズたちもギルと同じようにイケメン揃いだ。
無駄にキラキラした空間が出来上がっている。
通りかかる女子生徒たちが色めきだった声をあげる。
そんな取り巻きのメンズ――、確かギルの家の使用人たちだっけ?
その強さはエリさん率いる円卓ガールズと引けを取らない。
貴族なのに自由なギルに振り回されているので、いつもこいつらは疲れた顔をしている。
だが、本心で嫌がっているわけじゃない。楽しそうな表情でもある。
ギルが更にキラキラした瞳で俺を見つめる。女子なら卒倒しちゃうだろう。ヒカリはイケメンに興味ないのか立ったまま寝ていた。
「ギルバード様……、マサキ様もお急ぎのようですので……」
ギルの従者頭であるアレン君が泣きそうな顔をしながらギルに言う。
さすができる従者ランキングナンバーワンのアレン君。
可哀想系美少年なアレン君は一部の女子から凄まじい人気を誇る。
「そうだね、うん、マサキ。もし困ったことがあったらいつでもこのギルバードに言ってくれ」
「嫌だよ、借りなんて作ったらあとがこえーよ。……まあ、気持ちだけで十分だ、あんがとな」
「ふふふっ、正直なマサキ君は嫌いじゃないよ」
思わずため息が出そうになった。
ギルやエリさんが悪いわけではない。
Fクラスである俺が、エリさんやギルと仲良くしている事をよく思っていない生徒たちがいる。
貴族主義と言われる面倒な奴だ。
例えばミヤビの取り巻きのタンゲ。あいつは中堅貴族の長男だ。貴族と庶民が一緒に学校に通っているのが我慢ならないらしい。
……ミヤビは田舎育ちで平民だけど、その美貌と実力でのし上がっている真っ最中だ。
……ていうか、タンゲってミヤビの事が好きなだけじゃん。はぁ……面倒だな。
タンゲだけじゃない。上級生のレオンハルトや一部の先生は今でも貴族主義だ。
まあ、関わらないようにしよっと。
そんな事を考えていたら、頭の中で大声が鳴り響いた!?
『んごごっ、ご、ご主人!! わ、我ピンチなのだ!! 弱体化結界と妨害結界が……ア、アリスもマリサをかばいながら戦って――』
俺は何も考えずに即答する。
『――すぐ行く、安心しろ』
ビビアンの声はすぐに切れてしまった。
俺はギルドの方角を見据えた。
ヒカリは俺の真剣な雰囲気に気がついたのか、目をぱっちりと開く。
ギルが俺の様子がおかしいのに気がつく。
「ひっ!? ……マサキ君? す、すごい顔だよ……、そんなマサキ君みたことないよ」
「ああ、悪いギル……、ちょっと急ぎの用事が出来た。また今度ゆっくり話そうぜ」
「ギルさんバイバイ!」
今から走ってギルドに向かっても遅い。
俺は頭の中で詠唱をする。
魔法なんて全然使えないはずだ。だけど、感覚でどうすればいいかわかる。
魔力が身体中に駆け巡る。俺はヒカリと手を繋いだ。
そして――
「――【空間転移】」
「へ、それって伝説の魔――」
ギルの声が途中で聞こえなくなり、俺とヒカリの身体は校門から消え去った――
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ストックなんて初めから無いので間に合うようにガンガン更新します!
間に合うか不安ですが、応援お願いします!