3.どきどき
仲のいい(と信じたい)同級生と落ち合ったところで、俺にはまだやらなければならないことがある。それは...
俺は先程のクラスが公開されている紙のところに行く。それを見ていたのか、真央がついてきた。
「なにするん?」
「...いや、ちょっとな」
この返しでは何も伝わらないだろうな。予想通り、真央はどういう意味なのか理解していない様子だった。
「ちょっとって、それを聞いてるんだけど」
「わたしのぷらいばしーはどこにいったの!?」
「いいだろ友達なんだから。それくらい教えてくれてもさー」
そっか、俺たち友達だったのか...。よかった。自分は友達だと思っていても相手がそう思っているとは限らないので、相手から自分のことを友達だと思ってると言ってくれるまではとりあえず友達候補(自分では友達だと思っていてぜひ友達になりたいという立ち位置)として接するのが僕の考え方です。
「え、いや、あの、ほんとに、かんべんして...」
「...?えっと、まじで何する気なん?」
「下で待っててお願い」
手を合わせて懇願。これは本当に知られたくない。頼むっ...!
「分かったて。すぐ戻ってこいよー」
神。よし、さっさと済ませるぞ。真央が3段くらいしかない体育館の入口の階段(段差といったほうが正確かも)を降りていくのを確認して、再びのご対面。なんだかどきどきしてきてしまった。やっぱりこういうシーンでは緊張しちゃうね。目を瞑りたかったが、決意をして目を開いた。も、だから30番前後らへんか?下の方を1組から順に横に眺めていくと、...途中で、ある4文字が俺の視界に入った。そこにピントを合わせていたわけではなかったが、その文字の並びを意識していたからか、なぜかはっきりと見えた。望月音葉。いた。つい胸が高鳴ってしまった。でかい5つの長方形の位置関係からなんとなく察したけど、い、一応確認しておくか...。上に遡ると、『一年三組』の文字が。え、本当にあってる?ちょ、まっ、え?がちで?やばくね?今度は下に戻ってみる。確かに望月音葉はそこにいた。1年3組27番。嘘だろ...。てか嘘であってほしい。けどめちゃくちゃ嬉しい。くっ、なんだこの気持ちは...!正直ちょっと手が震えていた。しゃあああああああああああああああ!!と叫びたかったが迷惑になる。くそう、この気持ちをどこにぶつければいいんだ。悶えている俺を見たのか真央が寄ってきた。
「どした?てかなにやってたん...誰か探してたんか?」
「うん、そう」
「なんかすげえ嬉しそうだけど、同じクラスだった?」
「え、なんで分かるん?」
「顔からよっしゃあって感じがする」
なんじゃそれ。だが嬉しさを隠しきれていないのは事実だな。
「で?誰と同じクラスだったんだよ?」
「ぷらいばしーって言ったやろがい教えへんぞ」
「もー、お前の言うこときいたじゃんかよー。いいやんけ」
俺がよくない。
「たしかに下行ってろとは言ったけど、そしたら教えてやるとは言っておりません」
「記憶にござらん?」
「ござらん」
「くそっ明のけち...」
誰がけちじゃこらあ。
「...わかったよ...。言えばいいんよな?」
「おん、...教えてくれんねや」
「真央とは仲良くしていきたいから」
「ん、この商法今後も使えるな」
「今回だけやぞ!あと絶対誰にも言うなよ」
「え...、わかったけど」
「けど?」
なんで嫌そうなん。教えるって言ってるのに、まさかみんなにシェアすることまで許可しなきゃいけないのか?
「なんでもない」
「じゃあ...お耳貸して」
「なんやねんそれ」
と言いながらも、真央は90度回転してお耳をこっち側に向けてくれた。...無駄に緊張するなあ。ちゃんと鼓膜に届くかつ他の人に聞こえないような距離に唇を持っていった。
「いくぞ?」
「いつでも」
「..................おとは......」
恥ずっ。たった3文字言うだけのことに非常に多くの時間を要した。なんだこの、これ。気まずいんですが?俺が耳から離れてからしばらくの間、真央はその言葉の意味を理解しようとして、目を瞑りながら考えている風だった。そして目を開け、口を開いた。
「あーーーー、ふんふん、なるほどぉ」
くそが。こうなるから嫌だったんだ。
「...なんだよ」
「いや、お前、...そっか、音葉ちゃんのこと好きなんだあ」
ちっ。俺は今がちで腹立ってるぞ。
「だからなんすか」
「んー。なんか意外かな」
どういう意味?俺はわからなかった。馬鹿にされてんのか?まあ友達だから気にせんけどね。他の人にバラさないんだったら。
「明がかわいい子が好きってのはなんとなく分かるんだけど、普通に諦めるかと思った」
「別にまだ付き合いたいなんて言ってないよ?ってか、今のはちょっと語弊」
「どういう?」
「俺はかわいい子が好きなんじゃなくて。音葉がかわいいからだし」
「はんはん。お前さん...やっぱり音葉ちゃんのことかわいいって思ってるんだ?」
「かわいいよ?」
「お、おう。まあ、たしかにかわいいけどね」
「つーか、好きなタイプが好きな人の特徴全部捉えてるってわけじゃないからな。音葉はかわいいけど、かわいい子がタイプってのはちょっと違う。そしたらかわいい子全員好きってことになっちゃうやん」
「んー、そう言われてみれば。浮気する人がタイプなんて人ほぼいないと思うし。ていうか、明はどれくらい音葉ちゃんのこと好きなの?」
うーん。どれくらいっていわれると困るぜ。
「まあ、めっちゃ好き、かな?」
「めっちゃてどれくらいだよ」
「んー、今後5年は間違いなく愛し続けられるくらいかね」
「めっちゃだなそれは」
おん。今の俺はテンションが高くて頭がおかしいので普段は言えないようなことまでつい言ってしまう。
「てか、告んのかい?」
「知らんよ」
「なんでだよ。同じクラスだからいつも眺められるぜうっひょーって感じなのか?」
そうくるか。真央の言っていることは間違っていない。実際俺もそう思っているけど、告らない理由はいくつかある。
「そうだな。レベルが高いっていうのと、あとは蜂谷がいることとか」
「なるほどね。あいつ音葉ちゃんのボディーガードみたいな感じあるからな」
蜂谷っていうのは音葉の友達で、音葉を溺愛(?)している。蜂谷がいっつも音葉と一緒にいるのは、音葉はかわいいから、男を寄せ付けないようにという理由があるからかもしれない。そうじゃなかったとしても奴は音葉至上主義だからいろいろと厄介なのだ。毎日音葉とかと帰ってるし、話しかけるにはあまり隙がなさそうだ。その上で告るとなると、二人きりの状態を作らなければならないのでかなり怪しまれるだろうね。
「6年のときにある程度音葉とは仲良くなれてると信じたいなー」
「なんでや?」
「友達として仲良いんだったら近づいてもおかしくないじゃん?それで蜂谷の監視から外れられればあとは詰めるだけだ」
「oh」
「どったん突然」
「知らんって言ってたけど、結構乗り気じゃん」
「まあお前に知られちゃったからな。お前の前ではもう隠す必要ないし」
「そっかー、俺はお前の秘密を知る第一号ってことか」
「二号目はねえぞ」
他のやつにバラされてたまるか。音葉のところまでいったらどうすんだ。
「...けどさー、ああいういい子そうな子ほど裏あるんじゃないかなーって思うんだよ俺」
「音葉はそんな子じゃないもん...」
「可能性の話。普段怒んない人が怒るとめっちゃ怖いみたいな感じ?」
「全然違うけど...でも、もしそうだとしてもせめて闇堕ちしたときにそういう裏の顔が出てきてほしいな。裏表使い分けてるっていうのは嫌だし」
「あーそれめっちゃわかる。家帰ると豹変みたいなの。やだなー。ラインとかでは本性出てんのかなーとか想像するとね」
最悪すぎだろそれ。けど、実際そういうぶりっ子パターンはあるのだ。
「だからこそ、普段は本当に裏表ないんだけどなんかあって全部どうでもよくなっちゃったっていう方がまだ許せるね。てか音葉はそんな子じゃないし」
「可能性だって言ってるじゃん。2回も言わなくていーよ」
覚えてたのか...。まあ、できれば闇堕ちもしないでほしいけど。