2.登校
さて。いざ外から出たのはいいのだが、やはり想像通りある問題が発生した。どういう顔で登校すればいいのか分からない、これが問題だ。例えば、希望に満ち溢れた顔はどうか。いや、今からその顔を作ると不自然になる。そういう顔は本当に期待に胸を膨らませていないとできないのだ。そうだな、堂々としているのは?ううむ、絶対合わないな。人望がある人ならやっぱあいつさすがだな、というのが多くの反応だ。しかし、俺みたいな奴がそういうことをすると、何あいつといったところ。そもそも、こういったシーンで堂々と歩ける人は常に堂々としているものだ。簡単にできることではない。信頼があるからできる立ち振る舞いだ。もちろん下向いて歩くのは論外だしそもそも危ない。明るく行けばいいんだろうが、定義が広すぎるの。それに程度というものがある。どのくらいのパワーで臨めばいいかわからないし、誰かに出くわしたときが厄介だ。うぇーい。え、今日そのノリじゃないんだけど。これが最悪のシチュエーションだ。さすがにうぇーいは例えだけど、こういうパターンはある。できるだけ相手との温度差を小さくする必要があるのだ。そこで、相手のノリを伺うのが重要になってくる。しかしここでまた問題が発生する。休み明け生徒誰もいなくて登校時間間違えたと思ってビビる。これだ。休み明けというのは、通学路に生徒がいる確率がそもそも低い。よって俺は出会った人にノリを合わせておくことができないというわけだ。これはとても困る。とりあえず誰かに合わせれば安全なのに、相手がいないとなるとひとりで戦うしかない。戦力が少ないなかでどう戦えばいいというのか。とりあえず変な顔はしないように努力する、これに尽きるよな。もう普通でいよう。かといって真顔というのはあまり適切ではないよな。ちょっと微笑むってのは結構難しいんだぞ。経験が少ない俺には。やっぱ俺は作り笑いっていうのができないんだな。誰かに笑わせてもらわないと笑えないのである。俺は卒アルのときも笑えなかったんだ。つまり...
「詰んだ」
うん。もう表情とかに関してはどうしようもない。あとは式の最中でやらかさないようにするだけだ。時間をかけて出た答えがこれか、なんてことだ。もう横断歩道に出そうじゃないか。人が通っていないとしても車は通る。車とすれ違うときに運転手の人にどう思われるか。マジで変な顔してないよな?大丈夫だよな。よし、行くか。普通の顔を作ろうとして意識すると自然な顔ではなくなると思ったので、あえて無で行く。もう今日が入学式だということは忘れてしまえ。いよいよお車とのご対面である。まず進行方向側から3台。先頭は赤い軽だった。おっけー、意外といけてるぞ。もうちょい、ここの横断歩道を右に渡ればすべて解決する。耐えろ俺。すると、後ろからいくつか車が走ってきて、俺を追い抜いていった。考え事をしているときに誰かとすれ違うとその人に考えてる事を知られたかもしれないと思ってしまって気持ち悪いのは俺だけなのかな?びっくりするんだけど。歩道と車道は白い柵で分けられていて、歩道には塗料が塗ってある。俺は塗料の上に乗り、少し歩いた。すると、柵が切れて横断歩道が渡れるようになる。左右を確認してから、白い部分を踏んで渡る。これで危機は去った。ふう、一安心。あとはまっすぐ行って左折して右折して道なりにいけば学校はすぐそこだ。ここは車もほぼ通らないし住宅も多いからあまり心配する必要はない。今までの経験から、この時間に登校している生徒は少ないと思われる。そのため、こうして警戒をしなくても一軒家の横を通ることができるのだ。まっすぐ行くと丁字路があって、道がクロスしているところにカーブミラーがつけられている。鏡の部分を眺めていると、奥のほうからだんだん大きくなってくる姿が見えた。こう見ると、俺もちゃんた登校しているんだと実感できる。よかった、全然普通だぜ。カーブミラーを通り過ぎたら、あとは機械的に歩くだけだ。道なりとはいってもある程度はジグザグしているが、インコースを攻めて距離を短くする。はやくこの状況から解放されたい、と思ったら自然と歩幅も大きくなってくる。4回くらいジグザグすれば、フェンスに囲まれた学校の敷地が現れてくる。が、正門は少し離れたところにあるため、敷地の外を周回していかなければならない。ここも歩くだけの簡単な作業。敷地の隅よりちょっと行くと東門があるが、今日は入学式だからなのか閉まっている。ショートカットはできないのね。こういう、勝手に期待して裏切られたときの気持ちってこんな感じ。まあ別にいいけど。いやー本当に道がまっすぐだから特になんもないなーと思っていると、体育館の屋外側の入り口のところに制服を着た生徒(多分新入生)が集まっていた。なんだ?ちょっと見えた感じでは、あそこにクラスの名前が張り出されるやつが出されてるっぽいな。これは期待が高まりますね。はやく正門を通らねば。中略。無事何事もなく着きました。やはり俺の予想は正しかったな。てか人多くて見えないんですが。見終わった人はたまんないでくださると。俺が待っているのに気付いたのか道を開けてくれて優しさを感じながら、例の紙とご対面である。ふむふむ。俺はどこかな。佐藤だからよほど偏ってない限り真ん中の上くらいに名前があるはず。こういうときは佐藤家に伝わる奥義、目星つけたところを横に眺めていくっていう。ひとクラスずつ見ていくよりも効率がいいのでみんな採用している(らしい)。個人の感想です。む。見つけたぞ。俺は1年3組だ。なるほどね。そのあとはみんながやることと一緒で、仲がいい奴が何組にいるかってやつだな。けっこうみんな離れてしまっているな...あるあるだししょうがないね。
「お、明じゃん。離れたなー」
「せやな」
俺に近づいてきたのは小学校からの知り合い(あえて友達とは言わない)の、真央だ。
「あれ、何組だっけ」
「見とけ。4だよ」
「や、冗談だよ。隣で安心したわ」
「ちなみに蒼は1組です」
「!?最悪じゃん!」
「それ。なんでそんな離すかって。同じ小学校出身が離れんのは分かるけどらやり過ぎやん」
「まあ学校側はどいつらが仲良いかなんて知らんだろうしな。それに俺の経験的には、学校はいろんな奴と仲良くさせるためにクラス替えの時はあんま同じクラスになってない奴と組ませるっていう」
「マ?」
「俺の感想だよ?仲良い奴と次の学年でも同じクラスになったことあるか?って聞かれたらないよねって」
「まーそっか。結構当たってるかもね」
「学校の策略よ」
話が盛り上がった。休み明けのいいところよ。
「俺は中学で陽キャになってやるぜ」
「無理やろ。叶わない願望は語らないほうがいい...」
「ひど。今までの俺は陽キャになるための努力してなかっただけだし。なろうと思えばなれる」
「いや...うん、まあ、お前ならできる(細目)」
「哀れむな」
俺は中学デビューするぞ。