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ガラスの教室  作者: おこた
第1章「1ページ目からの停滞」
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1.鳥籠の中へ

 人間の想像力の限界はどこなのかと考えたことはあるだろうか?

まあ多分無制限なんだろうけど、その想像力で今の気持ちをなんとかしていただきたい。今の俺の頭の中は、新しい友達できるか心配だな〜とか中学デビュー失敗しないようにしないと詰むぞ...とか、そんなことでいっぱいだった。というのも今日は4月8日、中学校の入学式の日である。ベッドから重い体を起こして、行きたくねー、とつぶやく。ベッドの頭側のちょっと左の方には窓があって、カーテンを開ける。見事なまでに晴れているのが余計にだるさを後押しした。曇りだったらそれはそれで嫌だけど、こうも晴れるとなあ、こっちの気分は最悪だってのに。天気に文句を言っても仕方ないので、仕方なく怒りの気持ちを抑えて八つ当たり的に太陽を睨もうとした。左手を窓につけて顔を覗かせると、まるで日光が手を突き刺したみたいに鋭く輝いている。やっぱり誰かを怒らせて良いことは無いな。太陽様もお怒りになったようで、日頃から地球を照らしていただきありがとうございます、と感謝のことばを述べた。ふと時計を見ると8時ちょっとになっていた。少し早く起きすぎたが、遅刻寸前になって起きて、イメトレ出来ずに入学式に行くのは危険だ。そもそも初日に遅刻はヤバすぎるけど。

てなわけで、そろそろ部屋を出た。ドアはベッドの対角線の位置にあり、ベッドの真横には冬になるとこたつに変形する机が鎮座しているためルートは完全に直角、部屋の壁を沿う形になる。図形の辺上を移動する点Pの気持ちになったところで、ドアを開けて部屋を出た。

P君、どんな気持ちで平面上を周回しているのか...

突如悲しくなってきた。今更ながら、人間に生まれたことへの喜びを感じた。もしPに生まれ変わったら多分泣くぞ。

さて、少し進むと階段が見えてくる。家の構造を簡単に説明すると、1階が家族の共用スペース、2階が個人の部屋になる。その階段を降りていけばリビング兼ダイニングに着くので、階段を使わない手は無い。

そうして1階にたどり着いた俺は2つの選択肢のうちどちらかを選ぶ必要がある。右折してトイレ方面に向かうか、左折してリビングへ向かうか。ひとまず右折して、トイレ方面の洗面所を目指した。目指すといっても距離は数メートルしかなく、5秒もあれば到着だ。

そこでモーニングルーティーンを済ませる。が、これは普遍的なやつなのであえて俯瞰してみることはないだろう。もと来た道を戻って真っ直ぐ行き、右手にあるドアを開くとそこが噂のリビング兼ダイニングになっている。

扉を開くと、それに反応したのは朝食を作っている母さんだった。

いつもの日常の風景だ。すると、俺の姿を見るなり、

「おはよう、明」

とのこと。反応しないのもおかしいので、

「おはよう」と返す。

ちなみに俺の名前は佐藤(とも)といって、なぜ初見では絶対覚えてもらえないような名前になったのかというと、名付けるときにいくつか候補があったらしく、決めかねた結果候補を合体させたらしい。

俺が推測するには、多分当て字のほうは『明るい子に...』みたいな感じだろう。読みのほうは推測する必要なしだ。

「ついに明も中学生ねー。このまま永遠に小学生なのかと思ってたけど...。感慨深いわー」

「いや、さすがにそれはないって。義務教育なんだから留年システムは採用してないと思うけど。てかそんなに成績ひどくなかったでしょ」

「そうじゃなくて、精神的な話」

俺はよく家族(ほぼ母さん)から精神年齢が低いと言われるが、自分ではそんな低くなくね?と考えている。あくまでも主観だから客観とは見え方が違うかもだけど、幼稚園児はさすがにありえないだろ。

いつまでもドアらへんにいるとドアのことが好きなんじゃないかと思われそうな気がして、俺はキッチンで水を補給したあと椅子に座った。椅子はテーブルに対して5つあり、長いほうに2つづつ、キッチン側の短いほうに1つ置かれている。俺の定位置は通り道側の右である。

そこはちょうどテレビが見える位置で、テレビとの角度もおかしくはないので俺から志願してこの位置になった。すでにテレビは起動していて、画面は朝の代名詞として広く伝わるニュース番組が映し出されていた。

「問題ごと、起こさないといいけどね...」

聞こえてますが。まあ巻き込まれるのは嫌なので問題が起こらないに越したことはない。

「うん」

と適当に返したところでキッチンから朝食が運ばれてきた。

今日のメニューはブルーベリージャムを塗ったパンだ。メニューっていうか1つしかなかった。

「こ、これは。何と朝食を作る気のなさそうなことで」

「急に何言ってんの。ジャム以外いつもと一緒でしょ」

「いやそうだけど。今見るとさすがに...ねえ?だってこれ、朝ごはんっていうよりパンじゃん」

なんか当たり前のことを言っていた。それに対して、

「そんなこと言ったら、明の想像してる朝ごはんだって料理を並べただけじゃない。変なこといわないでさっさと食べなさい。文句があるんだったら自分で作ればいい」

出た、文句があるなら戦法。多分これで俺が作ったらなんでこれ勝手に使ったんだとか言われる。

そこまで言うなら俺は毎朝カロリーメイトにするぞ。

口には出さずにつぶやきつつ、パンを食べる。ニュースで流れているのは、誰々が結婚したとかスポーツの話題とかいつもと変わらず。

入学式があることを除けば、今日は本当に普通の日らしい。

パンなら5分もあれば完食できるのですぐに朝食の時間は終わったが、暇なので1階に留まることにした。

「そいや、恋愛(れあ)は5組だってさ。私は2組かな〜」

これは、クラス替えのときに何組になるかを当てるという佐藤家の昔からの習わし(それは盛った)で、恋愛は妹だ。

「よくまあ飽きないな、それ。当ててもなにも出ないってのに」

「ま、いいんじゃない?損することは無いんだから、やってもいいでしょ」

「得もないですよ?」

ということらしいが、なんの意味があるんだこれ。

一家の風習をやったところで、入学式のイメトレでもするか。

部屋に戻ってベッドに乗り、目を閉じた。

入学式の流れは、まず校長の話とか定番のイベントをやって、その後は自己紹介やらをやりつつ、教科書を配るという感じだ。

定番イベントに関しては全然問題ないが、自己紹介が非常に重要だ。

ここで良い印象を相手に与えられるか否かで、評価はずっとそれに引きずられることになる。とりま自己紹介下手アピールでもするか...?いや、逆にそこで変なこと言うと変な奴だと思われるからな。

うーむ。

10分くらい考えた結果、自己紹介下手アピールは採用し、あとは僕と関わってほしい宣言をした。友達ほしいではなく、関わってほしいというのがポイントで、こいつと一緒にいると友達認定される感を抑えられる。完璧だ。(個人の感想です。)

気づけば時刻は8時半を少し過ぎていた。登校目安は9時前後と連絡があったので、そろそろ家を出たほうがいいだろう。

クローゼットから制服を取り出して、目の前に掲げてみる。

いざワイシャツを着て学ランの袖に腕を通すと、めっちゃ似合ってませんよ感が前面に押し出されていた。割と学ランって恥ずいな。

準備が整い、1階に向かう。降りると母さんがリビングのドアの前に立った。どうやらお出迎えをしてくれるらしい。

母さんは俺の制服姿を見て、

「...似合ってないわね」

と言った。知ってました。

「分かってるって。最初に着たときにしつこいくらい言ってたんだから」

春休み中、制服着ようぜとめちゃくちゃ勧誘してきて、俺が嫌がったため無理やり着せられた。あれは今となってはいい思い出だぜ...靴を履いて玄関のドアを開けると、

「いってらっしゃ~い」と声が聞こえた。

俺はそれに「行ってきます」と答えると、ドアノブから手を離してドアを閉めた。

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