「ざまあ」とか「もう遅い」に憧れて魔王様は配下から追放されたがる。
「オレ様も追放とかされたい」
「えっ?」
オレ様の配下たちは驚いた形相で書類の整理を止めた。
騎兵のリザードマンと重装歩兵のゴーレムは王座に座るオレ様に問いただした。
「ま、魔王様。 それは一体どうゆう…」
「言葉の通りだ。 オレ様はあの勇者ギルドのように〝無能〟としてこの魔王城を追放され、貴様らに〝ざまあ〟とか〝もう遅い〟とかをしたい。 それがこの世界の流行りなのだろう?」
「いやいやいやいやいやいやいや」
「と、いうことで今日から数週間、魔王城を空ける。 後のことは頼んだぞ」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!!?」
この城の配下たちが荷物を準備するオレ様を慌てて止めに入る。
オレ様も魔王の1人だ。流行りの1つや2つぐらい知っとかないと、いざという時に勇者と相容れないことになる。
全てはこの魔王軍団を守る為でもある。少しでもオレTUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!! とか、異世界最強とかになっておけば、勇者たちの猛攻を防ぎきり、わずかでも我らの勝率にもつながる。
「なぜ止める!!? 全ては貴様らのためでもあるんだぞ!!」
「何がですか!!? 魔王様はこの最後の砦を守らなきゃなりません! ですから、変なことはなさらないでください!!」
「その砦を守るためにもオレ様も強くならなきゃならんのだ!! 少しでも、貴様らに福祉厚生をだな…」
「マジでゴーレムもなんとか言ってやれって!! このバカ魔王を止めろ!」
「うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
このゴーレムが何を伝えようとしてるのか、人生で一度もわかったことはなかったけども、とにかくオレ様を止めたいという勢いを感じる。多分だが…
「バ、バカとはなんだ!? 一応、貴様らの一番の上司だぞ!! もっと敬え!! そして、こころよくオレ様を送り出せ!!」
「こころよくなんか送り出せませんよ!! ざまあとか、もう遅いとか、やられたら私たち全員に被害がこうむるじゃないですか!?」
「ええい!! 黙れ、黙れ!!! わかった、会議。会議しよう! それで皆で決めようじゃないか!」
「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…」
何か配下たちは腑に落ちない感じであったが、とにかくこの口論に終わりが見えないので、皆と〝会議〟をすろことで互いに合意した。
****
「えー…第一回魔王様、追放するかしないか会議〜〜〜。 パチパチパチパチ!」
「お、お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…」
なんだかオレ様の配下たちのやる気が、こう…乗ってきていないような気がするが、きっと大丈夫だろう。
まだこれからだ。
「では、オレ様。魔王が直々に司会進行をさせていただく…」
「いや、それだと一方的になることが目に見えているので、私。幹部のリザードマンが司会進行をします」
「な、なぜ…」
「なぜじゃない!! 当たり前でしょうが!!」
「そこまで言うなら、じゃあ。なぜ貴様らはオレ様をそこまでして止めたいのだ。 貴様に被害がこうむることはせんぞ、オレ様は」
「それがなるんです!! 魔王様、よく考えてみてください。 魔王様のいない間、もし勇者が攻めてきてこの城ごと落城されたらどうするんですか!? そもそも、〝ざまあ〟というのは追放した側が落ちぶれて、負けることを意味するんです。 追放した私たちがその役割を必然的に果たすことになってしまうんですよ!」
「じゃあ、オレ様がこの城を勝手に抜け出したってことにしとけばいいではないか?」
「ええええ!? それで逆にいいんですか、魔王様は!? それ、追放とは意味違くないですか!?」
「ゴーレム。貴様はオレ様の意見にどう思う?」
「う、うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「うむ! よくわからぬ!!」
相変わらず、配下であるゴーレムの言葉はうごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、だけでイマイチわからないが、なんだか今回ばかりはオレ様の意見にためらっている様に見える。
追放した側が追放された人物の力やスキルによって、被害が出ることは配下たちの言葉で理解できたが、しかし。
かと言ってこのまま慢心して、流行りに乗らなければ勇者パーティーに滅ぼされるか、よくわからない成り上がったどこぞの英雄に落城されるかのどっかでしかないのだ。
「分かりました! じゃあ、私たちと魔王様の意見の間をとって。今、流行りの〝成り上がり〟を魔王様に再現してもらうというのはどうでしょう」
「貴様、天才か!? それだ!! それで行こう!! はい、会議終了〜〜〜〜〜〜!!」
「気が早いですね、魔王様は…」
「当たり前だろう!! 早速始めるとするぞ!! 皆の者、オレ様に協力せよ!」
「御意!!」
「うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
会議が終わったところで、早速オレ様が〝成り上がる〟ため、配下たちに協力してもらい、数年かけて努力し続けることにした。これからオレ様、魔王はどんどん最強の道へと駆け上がっていくのだ! ワクワクが止まらんぞ!!
****
「どうして…こうなったのだ」
「何ボソボソ言ってんの? 口動かす前に、身体を動かしなさいよ…っと」
あれから、数年の月日がたった。
オレ様、魔王が成り上がりを再現し、最強になる道筋だったはずが…どうやら配下のリザードマンの罠にハメられ、オレ様ではなく、リザードマンの成り上がりに協力する形で、彼が最強になり。
用済みとなったオレ様は魔王城から望み通り、永久追放された。
そして、今は辺境にある村の一員として、畑を耕しながら生活している。
「今一度聞くが、貴様も追放した召喚士にざまあされて、ギルドを追い出された身なのだな? 勇者よ」
「そうよ、私の判断の失敗で無能だった召喚士は最強のスキルで成り上がっていったの。 で、私はギルドで失敗してただのFランクの元女勇者となって。 今は、こうして村人として生活してるってわけ。 あんたとは気が合うわね」
「全然、嬉しくないのだ…」
あのリザードマンがオレ様の代わりに成り上がった後、風の噂で聞いたぐらいでしかないが、なんと勇者が追放した最強の召喚士に見事倒され、魔王城は陥落されたらしい。想像していたのとは違うが〝ざまあ〟はできたと思う。
配下の魔物たちに戻ってこいと言われても、もう遅いとだけ返し、オレ様はこの村に永住することに決めたのだった。だって、この村の人たち優しいし、何よりこの田舎でのスローライフが気に入っている。
「気が合うということも、何かの縁だろうし。 どうだ? オレ様と付き合ってみないか?」
「ムリ。 あんたみたいな元魔王とはキモくて、付き合えんわ」
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
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