4.勘違いの理由
私がヴォルベルク家の養子に迎えられたばかりの頃、夜になると悲しくて寂しくて毎晩のように泣いていました。
昼間は気丈に振舞っていても、幼い私には抱えきれない悲しみが、夜な夜な瞳を閉じると襲ってくるのです。例え、お父様が優しくても、この家の人たちが私を受け入れてくれていても、両親を失い家を失った心の穴は埋められませんでした。
布団を被って顔を覆い、身体を丸め泣いていると、いつからかお兄様が部屋に現れるようになりました。
「また泣いているのか」
お兄様はベッドに腰掛け、布団の上からトントンと身体を撫でます。一定のリズムに身を委ねると、不思議と気持ちが落ち着くのです。
涙が止まりいつの間にか寝てしまい、起きた頃にはお兄様の姿はありませんでした。
翌日、詫びとお礼を言うと、お兄様は眉間に皺を寄せてこう言うのです。
「お前が泣いていると、こっちが眠れないからだ」
ツンと踵をかえして去ってしまうお兄様に、しょんぼり佇んでいました。私の泣き声が耳障りだったのだと思い、反省しました。
お兄様は、私と話す時はいつも眉間に皺を寄せて、目線を合わせずにぶっきらぼうな言葉を残してすぐに去ってしまいます。
だから、いつも二人の空間が耐えきれなくて一緒の家庭教師で勉強していたリカルドを間に挟むことで誤魔化していました。
「あ!」
「どうした?」
「もしかして、私がリカルドを好いていると誤解されたのは、リカルドの側にばかりいたからです?」
「……お前は何をするにも『リカルドと一緒がいい』と言っていたではないか」
理由が分かり、スッキリしました。
そういえば、あの頃は当て馬のようにリカルドを呼んで気まずい空気から逃げていたのです。
そんなことをしているうちに、お兄様は私との交流を諦め、いつの間にリカルドとの婚約話が挙がっていました。
お父様も勘違いされていたのですね。
リカルドとの婚約は自分の蒔いた種だったとは。過去の自分を悔やみます。
「違うのです。あの頃は私といる時のお兄様が少し怖くて。二人っきりになりたくなくてリカルドを利用してただけなのです」
「…怖かったのか」
「もちろん今は違いますよ!お兄様は自慢の家族ですもの!」
私は慌ててフォローします。あくまで幼い時の話です。お兄様の眉間の皺は今でも健在ですが、怖くはありません。
「そうでしたか。それならリカルドにも悪いことをしましたね。私の身近にいただけで婚約者にされてしまったとは」
「…あぁ、我々の勘違いのおかげで、長い間幸運な奴だったな」
「不幸の間違いでは?ですが、今度は好きな人と一緒になれたようなので良かったです。私も良い縁談を探さねばなりませんね」
「次の縁談は考えている。サラは何もしなくていい」
お兄様は、きっぱりと言って話を終わらせました。
店を出て歩き出します。
気分を害してしまったのでしょうか。お兄様が怖いだの、お家問題の婚約話をするなど、出過ぎた真似でした。
次の婚約もお父様が良い相手を見つけてくれるでしょう。例え政略結婚でも、我が家の利益のための駒になれるなら、全てを受け入れます。それが育てて頂いた恩だと、私は理解していました。