決意のような祈り
「Mr.トム〜質問いい〜?」
「OKお花!ナンデスカ?」
「ここの演出なんだけどね…?」
午前中とはまた違った空気の稽古場。
ポートレイトで話したいことはいくつもあるがなかなかまとまらない。
気が乗らないので外の空気でも吸おうとトムに声をかける。
「トム〜散歩してくるね。」
「気をつけてねシュガー!」
トムが楽しそうに手を振る。
静かなせいかサクサクと雑草を踏む音がよく聞こえる。
明らかに自分の足跡とは違うリズムの音が聞こえ、立ち止まって振り向く。こんな人のいない大自然なのだからきっと演劇メンバーの誰かだろう。
「せんせい。」
「あは、ばれちゃいましたね。」
先生が困ったようにぽりぽり頭をかく。
「どうしたんですか?俺の後なんかついてきて。」
「どうしたんですか?という言葉はそっくりそのままシュガーさんにお返ししますね。…うーん、どうしたと言われると困りますけど、なんとなくシュガーさんが悩んでるような気がして僕も練習に身が入らなかったのでついてきちゃいました。」
ふふっと先生は楽しそうに笑う。どこか掴めない人だ。
「ポートレイトで話したいことはたくさんあるんですけどなかなかまとまらなくて…悩んでました。」
「…ふーん、それだけのようには見えませんでしたけどね。」
なんで分かったのだろうと驚いて目を見開くと先生はまた楽しそうに笑った。
「あははっ鎌をかけてみただけなんですが…図星でしたか。ふふふっ。」
「してやられましたね。先生、いい性格してますね。」
よく言われますと先生が子供のように笑う。
「俺、このメンバーの中では最年長じゃないですか。未来あるあの子たちを見るとおじさんが夢とかなりたい自分とか語るのはちょっと恥ずかしいなぁと思いまして…。しかもなりたい自分とか遅い気がして。」
「確かに、私もシュガーさんと同い年なのでその気持ちはよくわかります。けれど夢を追う、なりたい自分になることに恥ずかしいことはないと思います。それに遅いってことも。未来あるあの子たちって言いましたけど、その子たちに明日があるのか、未来があるのかはわかりません。人間、変わりたいと思ったら瞬間から変わり始めています。変わり始めるのに恥ずかしいことなんてありません。むしろ自慢するべきだと思います。胸を張って夢を語りましょうよ!きっと楽しいですよ。そんな気がしませんか?」
先生がにししっと笑う。こっちまで笑いたくなるような笑い方だ。
お互い顔を見合うとふふっと笑い出し、止まらなくなっていた。
「確かに…!夢を語ってやりましょう!」
「夢を語る権利は誰だって持っているんですから!」
ありがとうございますと言うと照れたように先生は笑った。
「シュガーさんのポートレイト楽しみにしてます。」
「先生のも。お互いなりたい自分になれるように。」
決意のような祈りのような言葉に先生は、はいと返事をした。
稽古場に帰るとみんなが口々におかえりなさいと言ってきた。
気恥ずかしくなって横を見ると先生と目があって笑いかけてきた。
その笑顔に眩しさを感じた。