01
初めまして。那雪尋です。
今回初の投稿にして初の連載小説となります。温かい目で見守ってくれるとありがたいです。
カチカチ、カチカチ
もうすぐ夜が明けそうな時間、俺は自宅警備員をしつつ今日も徹夜でレベル上げをしている。
やっているのは今流行りのMMORPG。オンラインの仲間と自由気ままなプレイをすることができるのが魅力の1つなのだが、俺が気に入ってるのはそこではない。
このゲームは他のMMOに比べてジョブが遥かに多い。最初は下級職から始まるのだが、レベルを上げるにつれて上級職へとジョブチェンジすることができる。そこから更に派生して特殊なジョブになることもできる。
やり込み要素の多さに魅力を感じた俺は、ほぼ毎日徹ゲーしてジョブのレベルを上げている。常に手を動かしてないと意識が飛びそうだ。
ジャーンジャジャジャジャーン!
賑やかなファンファーレと共に画面にはレベルマックスの文字が大きく映りこむ。
「これで78個目のカンスト——次はどの職でやるかな」
まだカンストしてないジョブを探す為、ゲーム内のジョブリストを開きカーソルをうろつかせる。
そこに1つだけどうしてもカンストさせたくないジョブがあった。無職という名のジョブだ。
「無職はやりたくないんだよなぁ‥‥」
軽く溜息を吐き、カーソルをログアウトに合わせて押す。
ゲーム内の無職、すっぴんとも呼ばれているジョブは一番弱い職である。武器はどの分野も装備できるが、下級職の武器に限る。上級職でやっと装備できる伝説級の武器が装備出来ないのは辛い。簡単に言うと縛りプレイみたいなもんだ。
なんだよ無職って。自分のことを言われてるようで少し傷つく。
いやいや、俺は無職じゃなくて自宅警備員なんだから大丈夫だ。自分で自分を慰めつつ、俺は画面を閉じた。
「ゲームで無職をやることは一生ないな」
そう言って自分のベットに倒れ込む。眠りにつこうとするが、こういう時に限って喉が乾いてきたりするものだ。
ゲームをしてる最中には感じないのにな。いっそのことゲームみたいな世界に行ってみたい。
なんて妄想をしながら、飲み物を取りにいく為にベットから体を起こして一階へ行こうと動き出す。
一階の階段を降りようとしたその時、徹ゲーの弊害がここでやってきた。
目眩に襲われた俺は階段を踏み外して勢いよく転げ落ちる。打ち所が悪かったせいなのか、それとも眠気のせいなのかどちらか分からない。朦朧とする意識の中、俺の視界はゆっくりと暗闇の中へと消えていった。
「ゥタさん‥‥ショウタさん‥‥ショウタさん! 起きて!」
誰かが呼んでる?
目蓋を開けて周りを見渡す。しかし、光が照らされているのは自分がいる周囲のみ。奥の方は暗くて見ることができない。
前方に振り向き直すと、こちらを覗きこんでいる女の子が立っている。
驚かされたが可愛いのは見てすぐに判った。
少し白みがかったブロンド長髪に青い瞳。あまり主張はしてないけれどしっかりある胸。これは絶対可愛いやつだ。俺には分かる。
「あなたは?」
名前の分からない彼女に尋ねる。
「私は女神カナと言います。ショウタさん」
落ち着いた様子で自己紹介をする女神。カナと名乗る女神は俺に宣告をした。
それは唐突で無慈悲な言葉。
「ムトウショウタさん。あなたは階段から転落して死んでしまいました」
死んでしまった。そう告げられた事実に俺はあまり驚きはしなかった。
「あら? 驚かないのね」
不思議そうな口振りで呟く女神。
普通は驚くのだろうか? よくは分からないが、俺は返答する為に口を開く。
「そりゃ‥‥あんだけ徹夜でゲームして寝不足の状態で転けたら誰でも死んじゃいますよね‥‥」
「そうよねぇ。あんなに盛大に転けたら死んじゃうわよね————マヌケよね」
女神はボソッと呟く。
女神は俺に同情するかのように‥‥‥‥ん? この女神、急に口悪くならなかったか?
俺はじっと女神の顔を睨む。視線に気付いた女神は軽く咳払いをして話し始めた。
「ムトウショウタさん‥‥あなたの21年の月日は短かったでしょう。そんなあなたに1つ質問をします。もし生き返れるとしたらどうしますか?」
またも唐突に質問をする女神。彼女の質問は、よく転生もののラノベで言われるテンプレのような言葉。
「生き返れるんですか?」
女神の質問に驚いた俺は質問に質問で返す。
女神は少しムスッとした顔でこちらを見る。どうやら質問に答えなかったのが不満げなようだ。
「生き返れます! 生き返るための選択肢は2つ。1つ目、もう一度日本で人生をやり直す。日本に生き返るならあなたは1からやり直し。つまり、赤ん坊から人生を始めてもらいます。ただし、もう1つの方はその姿のままで始めることができます」
「もう1つの方って‥‥‥‥?」
少し緊張しながら静かに尋ねる。
すると女神は両手をパチンと叩き合わせてこう言った。
「異世界です! 異世界に行ってもらい、魔王を倒して欲しいのです。現在、魔王は少しずつではありますが着実に侵略への道を歩んでいます。それを止めるための冒険者。つまり勇者になって欲しいのです!」
彼女から放たれた言葉に俺は驚きを隠せない。
それと同時に嬉しさも湧き出る。
異世界って‥‥あの異世界か! ゲームや漫画でしか見ることの出来なかった世界に行けちゃうのか!
「さぁ‥‥どうします? 転生してみませんか?」
挑発的に聞いてくる女神。すでに俺の答えを知っているはずだが、あえて聞いてきているようにまで思えてくる。それに答えない訳にはいかないな。
「異世界に転生させてください!」
勢いよく答えた俺に、待ってましたと言わんばかりの女神。
「話が早くて助かるわ! 早速始めるわよ」
急に友達口調になった女神はブツブツと呪文を唱え始める。
「えっ? ちょ‥‥ちょっと待て」
周りに円陣のようなものが現れたので俺は慌てて呪文を止めさせる。
「なぁによぉ。もう少しで唱え終わる所だったのに」
気怠そうに言う女神。最初に会った頃の可愛さはそこには無かった。
「もっとこう——異世界の説明的なものが欲しいんだけど」
「さっき説明したじゃない。魔王が侵略し始めてるって」
「そうだけど! もっと細かく教えてくれよ」
「そんなの向こうに行ったら分かるわよ! 呪文唱えるの疲れるんだから早く終わらせたいの!」
この女神さっきと全然態度が違うぞ。俺との初対面の時は演技だったのか? ちょっと可愛いと思ったのに損した気分だ‥‥。
色々と諦めた俺は女神の言う通りにすることにした。
女神が呪文を唱えるのを待っていると、何かを思い出したかのように女神はこちらに顔を向ける。
「忘れる所だった。ショウタ、この中から武器を選びなさい」
女神が指をパチンと鳴らすと武器が俺の周りに現れた。剣や弓、短剣や銃など多分野にわたる武器を見て俺のボルテージは最高潮だ。
「この中から選んで良いのか!?」
「一つだけね。選んだのがあんた専用の武器になるわ」
この女神、実は良い奴なのかもしれない。
なんて事を考えながら、どの武器にしようか吟味する。
「雨叢雲剣にエクスカリバー、グングニル! どれも有名な武器ばかりじゃないか! こんなのすぐに決められないぞ」
「早く決めなさいよーーどれを選んでも最強だから大きな違いはないわよ!」
女神はその様子を少し引いた目で見つつ、迫り立てるように言った。
〜三十分後〜
「決めた! 男なら誰しもが憧れるエクスカリバーを選ぶ!」
力強く告げる。その声を聞いて女神は目を覚ました。眠気を纏った女神は目を擦りながらこちらが武器を選び終えたことを確認する。
「ふわぁ。決めたのぉ? じゃあ転生させるわよ」
「まさか寝ていた訳じゃないよな? 俺が必死に選んでいる時に」
「そんなこと無いわよ」と言いつつ口元の涎を袖で拭き、女神は改めて告げる。
「ムトウショウタ、あなたを異世界に転生させます。苦難はあると思いますが、あなたの勇気と力で世界を救うことを期待しています」
「ありがとう。女神カナ」
お互い形式的な言葉を言い終え、再び呪文を唱え始めた。すると、円陣から光が全身を包み込む。そして落下するような感覚に陥った。
なんとも言えない感覚の中、頭上の方から微かに女神が何か叫んでいる。女神が言っていることを聞き取ろうと耳に神経を集めて意識を集中させる。すると、微かにこう聞こえた。
「言い忘れてたけど、私も向こうにいくから! ちゃんと探しなさいよー!」
俺はにっこり微笑んでこう答えた。
「そう言う大事なことは先に言えぇぇぇ!」
続く
ここまで呼んでいただきありがとうございました。気になった方、面白いと思ってくれた方はブックマークと評価の応援よろしくお願いします! 感想もお待ちしております。また次回お会いしましょう。またね。