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9.奔流

 ……ふぅ。今度のため息は、さっきよりもずっと明るい。

 憧れの先輩に誘われて生徒会に入って、一緒にいる時間も増える。揺れ動く感情に振り回される中で、その時間の一つ一つが胸に甘く突き刺さっていく。それに悶えてく様子が、たまらなくかわいらしい。その中でも、最後のシーンは、ただ読んでいるだけで、思わずドキドキした。先輩が残って資料整理するっていうのを手伝ってるとき、不意に顔を寄せられていた。

「どうしたの?ぼーっとして。熱でもある?」

 おでこに手を当てられて、途端に慌てる。「何でもないですっ」なんて上ずった声で返しても、「そう?熱は無いみたいだけど、ゆっくり休みなさい?」なんて軽くあしらわれる。優しさがあったかいけど、それ以上に痛い。いいところ見せようと思って、結局空回り。その気持ちが、痛いくらいわかる。

 その気持ちの名前を、どういう風に決めるんだろう。憧れというには強すぎるけど、恋と言えるほど激しくもない。そもそも、同性の人を相手に、恋とか愛とかいう感情が持てるっていうのも、あんまり知られていなかったような時で。

 知りたい、よね。私も、おんなじことで悩んでるんだ。親しい先輩がいて、二人っきりになることもいっぱいあるけど、一緒にいると落ち着く。でも、最近、落ち着かないんだ。わけのわからない気持ちのせいで、どう接すればいいか、わかんないの。心の中で、一方通行のガールズトーク。高校一年生だから、私よりも先輩なのに、気が付いたら馴れ馴れしく話してる。どこか、加奈子さんみたいな雰囲気を感じてるから、なのかな。

 

「ただいまー」

「あ、うん、おかえり……」


 紅凪さんがドアを開ける音にも、全然気づかなかった。慌てて裏表紙が上になるように本を閉じて向き直る。寝間着姿にタオルを肩にかけて、赤くなった顔は満足そうな笑みを浮かべてる。


「珍しいね、紗彩ちゃんがおさぼりなんて」

「うん、ちょっとね。続きまで読んでたんだけど、気になっちゃって」

「それならしょうがないけど、ちゃっちゃと宿題済ませてからゆっくり読めばよかったのに……」

「それもそうだったね、今からやるから」


 ノートを開いて、今日の分の課題をさっさと終わらせちゃおう。本当なら、今すぐ二巻に手を伸ばしたい気分だけど、紅凪さんが言ったように後でゆっくり読んだ方がいいだろうし、……今の得体の知れない感情のことを、気づかれたくないような気がするから。せめて、この気持ちに名前を付けられるまでは、隠させて。鞄に最初の本をしまい込んで、頭を勉強のほうに切り替える。今日宿題が出たのは国語と数学だけで、量も多くないし、苦手な科目でもない。今は、わからない問題を後回しにしよう。考える時間なんて、後でいくらでも作れるんだから。


 

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