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7.浸食

 加奈子さんも本読んでるし、私も読もうかな、……今日、図書室から借りてきたの。普通に本を出すだけなのに、いけないことでもしてる気分だ。

 本を出してすぐに、表紙を開いて、意識して、机に近づけるように。下校時刻になってる四時半までじゃ、一巻の半分くらいしか読めなさそう。残りは部屋で読むとして、……そういえば、紅凪さんも、興味あるのかな、こういう、女の子同士のつながりみたいなの。恋だってしてみたい年頃だし、無いわけじゃないんだろうけど、……さすがに、私からそれを振るのは柄じゃないような気がする。そんな事考える前に、本の世界に潜り込んじゃおう。誰かに強く自分を重ねるわけじゃないけど、ここじゃない世界の一員になりに行く。私もよく知らない、けど、近くにあるかもしれないとこ。もしかしたら、私の中にも、もうあるかもしれない物。入り込んでしまえば、あっという間に時間は過ぎる。


「……紗彩ちゃん?」

「あ、……どうしたんですか?」

「もう下校時間だよ、さっきからずっと声かけてたんだけど」

「そ、そうですか?」


 窓の外を見ると、もうほの暗い。冬はもともと日が沈むのは早いけど、あの本の世界は、簡単に時間を消し飛ばしてしまった。ちょうど、半分を少し過ぎたくらい。それだけでも、読まされた。ここと似てるけど、古めかしい雰囲気の学び舎で繰り広げられる、艶やかで清い日々のはじまり。

 

「そうだよ、さっきからずっと言ってたんだけど」

「すみません、気づかなくって」

「いいよ、集中してると、周り見えなくなるもんね」

「そうかもですけど、自分で言うのもアレですし……」


 栞を挟んでから、本を何気なく閉じようとして、……隣に、その本を見せたくない人がいることを思い出した。裏表紙が上になるように、とっさに手を返して置く。急いで鞄を引っ張り上げて、慌てたふりをする。感づかれてないかな、わざわざ、表紙を隠そうとしたの。加奈子さんがそういうの苦手なのは、一番分かってるのに。なんだか、裏切ってるみたいで。


「まあそっか。そろそろ帰ろ?」

「そ、そうですね、戻りましょっか」


 いつも通り、丁寧に本をしまって、……それすらも、かなぐり捨てたくなる。今、めちゃくちゃ動揺してる。それ以外、何もわかんない。かき乱された心の中。もやもやをそのままぶつけるのは、無理な話だ。きっと、話してるうちに、私でも何を言ってるのかわからなくなる。

 

「そんな慌てて、どうしたの?」

「な、何でもないです、お待たせしてすみません」

「別にいいよ、怒ってたとかでもないし」


 やっぱり、優しい人だ。背中のあたり、軽くぽんぽんって叩かれる。落ち着いてほしいんだろうけど、今の私には、知らない感情を踏み込むアクセルにしかならない。熱くなる体も、激しくなる鼓動も、今はごまかす理由が何にもない。

 

「なら、いいですけど……、わざわざ待ってもらっちゃったんで」

「紗彩ちゃん、真面目だね、ホントに」

「そんなことないですよ、私」


 鞄を肩にかけて、本校舎まで戻る。相変わらずあったかい言葉を、心の中で否定する。……だって、私、言えないことだっていっぱい抱えてる。加奈子さんといるときは、特に。ほら、今だって。今まで普通にやってた並んで歩くのに、妙に意識してることとか。

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