5.揺蕩
あの衝撃は、ひとまず授業が始まると落ち着いた。家庭科でそれなりに手指を使うのだったから、そんなこと、考える暇もなかったとも言えるけど。
でも、終わった瞬間、一度引いた波が寄せるように、頭の中でちらちらと浮かぶ。一応、活動日は毎日じゃないけれど、何となく、今日は部室にいるかどうか気になってしまう。そろそろ、新歓の冊子の話も出てくるだろうし、そのネタも考えないとな。少し騒がしい部室は、それにはけっこう向く。文芸部というだけあって、けっこう読書家も多いし、ゲームとか漫画とかが好きな人もいるから、漏れ聞こえるその話でも面白そうなのはある。最近は、加奈子さんと話がすることが多いけど。でも、今日はどうしようかな。積んでる本も無いし、借りてるのは漫画だから、何回か読み返すにしても数冊だから一時間もあれば済む。だから別段、寮に戻る理由もないし、お散歩するにも寒さでその気が失せる。気になる本の新刊もまだだし、……図書室くらいかな、気になる本を見つけたら、それからまた考えよう。
渡り廊下のほうに行って、旧校舎に行くには一階だけど、図書館は二階まででいい。とりあえず、好きな作家さんの本で、まだ読めてないのあったかな。それから、……人の気持ちについての本とか、読んでみようかな。恋って、どういうふうにするんだろう。得体の知れない、それに似た感情。この正体が何なのか、掴みたくて。……それに、今までは友情とか青春とか、そういうくらいの関係で留めてたけど、恋、させてみたいかも。私もそうだけど、少しはそういうものに、興味を持ち始めるような年。そういうののほうが、やっぱり、共感もされるのかな。なんて、言い訳みたいだ。実際言い訳だけど。
とりあえず、ドアを開けてすぐ小説のコーナーで、好きな作家さんの本は、全部読んでた。もしかしたら、借りられてるものの中にあるかもしれないけど。次の目的は、心理学系かな。確か、百科事典とか哲学とかのほうだから、大分遠いな。いつもの校舎とは別の棟になってて、一階が食堂になってるのを考えてもけっこう広い。
そのせいか、少女小説のコーナーも結構並んでる。女子校だけあって女学校を題材としたものが人気らしくて、シリーズは結構長いみたいだけど、その半分くらいは借りられてなくなってる。でも、今日に限って、その最初の刊と次の巻が揃ってた。……魔が差すっていうのは、多分こういうのを言うんだろうな。最初の目的なんて忘れて、学生証とその本を図書委員の人に渡す。その時、顔の奥が熱くなって、思わず顔を伏せる。他にもこういうの借りてる人がいるのは分かってるけど、何故なんだろう。
……でも、それはそれとして、同じ立場の人が描かれてるんだし、少しはヒントになるのかな。もやもやは尽きないけれど、この微かな道筋を、ひとまずは辿ってみるしかないか。
とりあえず、部室に行ってみよう。放課後になってしばらく経ったこの時間だったら、来るつもりだったら来てるはずだし、試してみなきゃ。……今、加奈子さんと出会ったら、どうなるのか。